富田貿易合資会社の貢献


 温泉旅行当日、孝江さんは東京駅に、懐かしい顔が待っていました。

 仁科雅美さんと高倉雪乃さんです。


「孝江、待ったわよ!お腹が減ったわよ!」

 雅美さんに文句をいわれた孝江さん、でも約束の時間よりも、前だったのですけどね。


「雅美は相変わらずね、とにかくそこの喫茶店でも行きませんか」

「たしか出発時間は一時でしたでしょう、切符は買っているし、十分ですよ」


 いまは十二時、三人はとにかく喫茶店で時間つぶし、コーヒーを飲みながら、軽くサンドイッチなどつまんでいます。

 

 雪乃さんが、

「久しぶりにコーヒーを飲むわ、このコーヒー豆、どこのかしら?」。

「多分、マーキュリー産よ」と、雅美さん。


 水星のカロリス盆地に、水星唯一のカロリスシティがあり、そこで栽培されているのです。


 カロリス盆地は約千五百五十キロメートル、二千メートルクラスのカロリス山脈を利用してドームをかけ、殖民都市が作られており、ネットワークの科学力の賜物といえます。


 カロリス盆地は水星の熱極の位置に当たり、太陽光は掃いて捨てるほどあります。

 それを利用して、近年各種の農産物も栽培しているのです。


 ここはいまだ、ナーキッドに施政権は移管されていません、軍事直轄シティなのです。

 

「それにしても安いわね」と、雪乃さん。

「全自動で栽培しているから、宇宙空間で栽培するよりものすごく安く出来るのよ、軍用の備蓄食料を大量生産しているわよ」


「あまったからマルスに流れてきているのよ、サトウキビやカカオも大量に栽培していて、もうすぐ信じられないほどの安さで、出回り始めるわよ」

 

「それは朗報ね」

「富田貿易合資会社のお陰よ、山ほど種子を集めてくれたから、もうすぐカロリスシティに、支店を置く許可が下りるわ」


「限定的だけど民間に開かれるのよ、今日の午後には発表される手はずよ、孝江は知っているでしょう?」

「まぁ、でもここでその話はやめませんか?」

 孝江さん、困ったように話をきりました。


 たしかにまずいと思った雅美さん、話題を変えて、

「ところでこの後なんだけど、センダイで乗換えよね、そこから在来鉄道に乗り換え、さらにバッテリーコロ――二十五トンバッテリー式車両牽引車程度――に乗り換えなのね、午後五時前に宿に到着、田舎よね、センダイでお弁当でも買いませんか?」

 

「牛タン弁当ね♪」、嬉しそうな孝江さん。

「近頃、冷凍だけどヴィーンゴールヴから入ってきているから、昔のようにはいかないけど、結構おいしいって聞いたわ」

 雪乃さんものりのりです。


 おしゃべりと牛タン弁当に盛り上がりながら、ご一行は新銀山温泉の宿に着いたのです。

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