美子様はずし


 華宮洋子も六条晶子も、朝倉麻子とは初対面、看護婦詰め所で来意を告げると、特別病室に案内されました。

 

 小さいといえど、財閥一族のお嬢様ですから、御付の侍女さんなどおられます。


「わざわざお越しいただきまして、ありがとうございます、はじめてお目にかかります、朝倉麻子です」

「華族の一号生徒の華宮洋子です、こちらは都女子の一号生徒であられる六条晶子様、ご病気と聞き、お見舞いにまいりました」

 

「ご丁寧に、どうぞお座りください」

「つまらないものですが、お受け取りください」

 九段下にある、有名な会員制のお菓子屋のクッキーですね。

 六条さんは、白味噌風味の松風カステラを渡しています。

 

「六条さま、その指輪、ご婚約されているのですか?」

「はい、先ごろお慕いした方に、引き取ってもらいました、その関係で、年明けまでオディールにいます」


 突然、朝倉麻子さんの目に涙が……

 驚く二人に向かって、

「不作法しました、昨日……婚約破棄されて……こんな体では仕方ないのですが……」

 

「お慕いしていたのですか?」

「いえ、家同士の約束でした、でも情けなくて……失礼しました、私事など聞かせまして、とにかく御用がおありなのでしょう?」


 二人は秋の交流戦の、実施種目の件を話しました。

「そうですね、お二人は何かお考えはあるのでしょうか?」

 ここで洋子さん、正直に本音をしゃべります。

 なんとか勝ちたい、少なくともボロ負けは避けたいと。


 初めて朝倉麻子さんはクスッと笑い、

「団体競技としませんか、それも舞踏競技、スリーシスターズの各校には、確かダンス部がありますよね」


「これならオディールも太刀打ちできますし、春の交流戦の参加メンバーは、参加を辞退していただき、替わりに生徒代表の審査員になってもらう」

「あとは一般の先生方にお願いすればいい、これならどうですか?」


 こうしてあっさりと、秋の交流戦の実施種目は舞踏競技、アイリッシュダンスと決まったのです。


 なんとなく仲良くなった三人、二人は慰めの言葉などかけています。

 そこにもう一人、お見舞い客が遣ってきます。


「あら、洋子さんと晶子さん、麻子さんとお知り合いなの?」

 鈴木聡子さんでした。


「いえ、秋のスポーツ交流戦の、実施種目を決めなくてはならなかったので……」

 手短に説明している二人です、なんせ聡子さんはオディールの伝説のOGですから。


「そう、美子様はずしなのね、よい考えだわね、格闘系なら、アリス様やカミーラさんが出てくるはずですから、勝負にならないものね」


「ところで麻子さん、噂は本当なの?心配しているのですけど」

「本当です、いま二人から、慰めていただいたばかりです」

 

 そんな会話の後、お見舞いを切り上げた三人でした。


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