ボランティア中


「その節はすまなんだ、元気か?」

「息災です……」

 

「そうか……幸せか?」

「はい」


「儂は六条楼を売ろうと考えている、どこかに小さな家を買い、のんびりと余生を送り、時々お前の帰るのを、待とうと考えている」


「折角、明るい世界に住めるようになるのだ、実の親が妓楼主では、お前のためにならぬ」

 晶子さん、泣きそうな顔をしました。

 どうやら、晶子さんのわだかまりも消えたようです。


 織田千代子さんは、六条晶子さんの顔を見て、心底良かったと思ったようです。


「あの方がおられませんが?」

 白川支店長が、千代子さんに聞いてきました。


「尼住職様のご希望をかなえておられます」

「治療中?」

「そのようなものとのことです」

「忙しい方ですな」

 少しばかり、笑いそうになった千代子さんです。

 なぜかといえば、本館三階興楽庵で治療中の方は、白川支店長の娘さんです。


 あとは怨霊払いですけどね、怨霊払いは本館三階の御成の間で行い、昼前には終わっています。


「今回はボランティアと、おっしゃっていました」

 支店長の娘さん、一代さんは進行性骨化性線維異形成症、FOPと呼ばれる難病、当年十歳の一代さんは発病したところです。

 

 上杉忍を従え、美子さんがやってきました。

 目ざとく支店長を認めると、

「お待たせしました、支店長さん、この方たちですか?」


「荒井めぐみと左藤文(さとうふみ)です、お二人とも了承されておられます」


「ご苦労様でした、嫌なことをさせましたね、代価としては十分でしょう」

「忍さん、治療した娘さんと、お母様を呼んできてください」

 

 白川氏の前に妻と娘が……

「パパ!」

「貴方!お嬢様が一代を治療してくださるとの、総支配人からお電話をいただき、朝から治療を受けさせました」


 美子さんが、

「内緒にしていただいたのです、だってね、代価はどうしても、いただかなくてはならないのでね」

「支店長のお働きで、ペイするしかなくてね、驚かせたかったのです、許してくださいね」


「明日からは、鈴木支配人が一週間の特別休暇をくれるそうです」

「アイスランドのレイキャネースの近くにある、ブルーラグーンで保養されるとよいでしょうね」


「はい、これ全てのチケット、パスポートはご家族全員お持ちと聞いておりますから、本日のお仕事はここまでです、旅行の準備をされるといいでしょう」

 白川支店長ご一家は、仲良く帰っていきました。

 

「六条楼のご主人、お見受けしたところ、娘さんのわだかまりは消えたようですね」

「娘さんは確かに私が受け取りました、まだ床をともにはしていませんが、生涯責任を持って守らせていただきます」


「六条楼売却の話は聞こえました、私の希望なのですが、これから世情はきな臭くなりそうです」

「それが収まるまで、暫く売却はお待ちくださいませんか?」

「時期がくれば、私が買取させていただきます、それまでは、多少の資金はナーキッドが出します」


「ナーキッド、あの大会社の?」

「いまここにいる女たちが、ナーキッド京都支店女子部の職員ですよ、建前はね、詳しくは聞かないでね」


「分かりました、では私はこれで、娘を可愛がってください」

 こうして晶子さんの父親も、帰っていきました。


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