興楽館ホテル


 不安そうな二人を見て、支店長が、

「お二人とも、学校に通っていたとお聞きしていますが、学業は好きですか?」


「続けられるものなら、続けたかったです」

「しかし私が身を売れば、兄は救われます、私一人が身を捨てれば、二人助かるのです、算盤は合っています」

 と、左藤文(さとうふみ)が健気に応えます。


「私は、何とか人の役にたつ仕事がしたかったので、女子師範に通っていたのです」

「しかしこのような事になりました、あきらめております」

 めぐみの言葉です。


「お見受けするに、貴女たちは聡明のようですので、これから私が言うことを、良く聞いておいてください」

「お二人の身請けを希望している方は、今回の出来事にかかわった方、いわば敵に身請けされることになる」


「さらには極めて淫行が激しい、本来は勧められない相手、しかし、貴女たちの明日はそれにかかっている」

「このままここにいてはよろしくない、操を投げだしても、明日を迎える事を勧めます」


「もし、私の娘が、貴女たちのように才色兼備なら、私は躊躇なく娘を差し出します、それだけの相手なのですよ」


 白川支店長としては、これが二人にかけられる、精一杯の言葉です。

「白川氏の言葉を、胸に刻んでおく方がいい、私も娘を差し出している」

 妓楼主としても、これが限度の言葉でしょうね。


 土曜日の午後二時前、京都円山の興楽館ホテルに、二人は妓楼主と、白川支店長とともに訪れました。


 円山公園はいつもより巡査が多く、中でもホテルの前は、憲兵さんなどがたむろしています。

 この週末、ホテルはナーキッド京都支店女子部の貸切とのことのようです。


 正装という事でしたが、ドレスなどは、身売りされた時に手放して、女学校の制服です。

 二人ともこの制服だけは、一生の記念として、大事に持っていたのです。

 

「まぁいいでしょう、あの方も、その方が喜ばれるかもしれません、筋金入りの変態ですから」


「貴女たちは、言葉は悪いですが買われた身ですからね、女奴隷と覚悟していてください」

「あの方のお言葉が絶対ですよ、もう六条楼には、代金は支払われています」


「買われたと言われましたが、もし気にいられなかったらどうなるのですか?」

 荒井めぐみが、不安を口にします。


「その時は、鈴木商会京都支店で、安月給で働いてもらいますよ、安心しなさい」

 

 そんな話をしながら、白川支店長は六条氏と二人を連れて、ホテル本館の一階ロビーで待っています。

 その前を綺麗な女性ばかり、が行き交っています。


 と、中の一人が、

「お父様……」

 六条晶子が、複雑な顔でたっていました。


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