身請けしてくださるの?


 美子が、二人の待っている部屋に入ってきました。


「おまたせ♪ご飯食べにいきましょう」

「鈴木商会が、近くの天麩羅屋さんを予約してくれているの、会計は鈴木順五郎さんの『おごり』よ、遠慮無くいただきましょう」


「でも吉川様、まだ四時半なのですが」

「あら、そうでしたね、確か予約は六時と聞いていたわね、それまで、銀ブラでもしますか?」


「私たち、あまりこのあたりは、土地勘が無いのですが……」

「私は一度、沙織さんと銀ブラしたの、少しは分かるわ」


 そんな訳で、銀座をブラブラ、時間つぶしに、パフェなど食べにフルーツパーラーへ。

 美子さん、でっかいバナナボートなど食しています。

 さらに、チョコレートパフェなども追加です。


「おなか壊れませんか?」

「問題ありません、アテネさんとアリスさん、そして私は、アイアン・マッスルを所持しています!」


 この後、ハンバーガーなどを齧りながら、歩いていた美子さんです。


 さて天麩羅屋さんですが、さすがに鈴木商会が手配してお店、相当に高そうです。

 それに周りには、私服の特高がわんさかいるようです。

 さらには、警視庁警備部警護課警護第3係と、東京憲兵隊も何人かいるようですね。


「予約している吉川美子ですが」

 三人はカウンターに案内されます。


 おまかせで、ドンドンといっていますよ。

 容姿とは相容れぬ食欲、あまりにおいしそうに、食べるもので店主も嬉しそうです。


「吉川様がリズミカルに、おいしそうにお食べになるので、引きずられてしまいそうです」

「せっかく招待していただいたのですから、こんなチャンスはありません!」


 楽しそうに三人が食べていると、事件が起こったのです。


「六条の娘、こんなところで奇遇だな」

「これは京紫の旦那さん……」

 見れば七十手前の、好色そうな爺が立っていました。


 露骨に嫌な顔の六条さんです。

「そこにいるのは六条楼の女郎、もう一人の綺麗な友達だが女郎なのだろう、身請けしてやろうか?」


 美子さん、大笑いしましたね、でも目が笑っていないような……


「この私を身請けしてくださるの?代金は高いのですよ」

「いくらか?」

「貴方の全財産」

 この爺が笑いました。

 

「小娘が、この儂を嘗めておるのかの?」

「そんなしわくちゃの顔が嘗められますか、汚いのに、まぁここでは、お店にご迷惑でしょう、ちょっと外で話をしませんか?」


「いいのか、儂の身内がいるが」

「構いませんよ、むしろその方が好都合」


「吉川様!」

「いいのよ、任せてらっしゃい、私の身内もいるかもね」


 店の店主が慌てていますが、

「ご亭主、電話など不要ですよ、すぐ戻ってきますから、五分たったら任せます」


 六条さんたち、震え上がっていますが、美子がどのような人物かは知っているので、何も言いません。


 外に出ると、目つきの悪いのが集まってきました。

「社長、どうされました?」

「このお嬢さんが、わしに因縁をつけて、外に出ろといわれるのでな」


「このあま!」

「ちょっと、躾けてあげなさい」


 と、警笛がなります。

 さらに怖そうなのが湧いて出ます。

 そう、泣く子も黙る憲兵さんと、特高の刑事さん、さらに何処かでお見受けした、警視庁警備部警護課警護第3係の方々。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る