私が心に秘めるのは


 美子さんは歌い始めました、沖縄民謡でもある『十九の春』の歌詞をアレンジ――下記の歌詞は作者のオリジナルです――して、……


 私が心に秘めるのは 

 数え切れない愛の数

 星の世界はどこまでも

 貴方を抱いてどこまでも


 海の深さは限りなく

 貴方の涙で満ちるのか

 涙の色は悲しみか

 私が抱いて愛の色

  

 幾つ峠を越えたのか

 靴は血の色涙色

 乾く間もなく歩くなら

 貴方の祈りが杖になる


 私が心に秘めるのは 

 あえぐ貴方に寄り添いて

 三千世界をどこまでも

 貴方と共にどこまでも


 この場にいた、いわゆる『寵妃』といわれる女たちは、この歌の真意が伝わったようです……

 

 クローイ・アルダーソンは、何とか歌の意味は理解できますが、真意は理解できないのは当然です。

 隣で富田沙織が、泣きそうな顔をしているのに、不思議な感じがしました。


 ただこの歌詞には、何かがこめられている、ナーキッドオーナーの何かが。


「ミス・トミタ、この歌には、あの方の何がこめられているのですか?」

「額面通りでしょう、あの方は、滅多にこのような事はされません」

「貴女もあの方が、どのような方かは分かっているのでしょう?」


「ナーキッド関係者でない方に、詳しくは言えませんが、ただ余程嬉しかったのではと、拝察いたします」

「慈悲の乙女とも、英断の乙女とも呼ばれる方、その心は聞く者の胸に響いたはず、あの方はこう云われたでしょう?」

 

『多大な犠牲を払って、数多くの世界を何とかし、いまその世界の一つが、このように平和を謳歌しているのよ、私の行いは報われているのです、これが喜ばれずに、何を喜ぶの?』


「このお言葉を、貴女も聞いていたはずです」

 

「慈悲の乙女……確かに女神はおられます……」


 富田沙織は、この時の相手の心が、手に取るように分かりました。


 ため息をつきながら、クローイ・アルダーソンの耳元に、

「望まれているのでしょう、いま通達が出ています」

「あの方の好きにさせるように、その際、女が出来ても仕方ない、あの方を誘惑できるほどの女なら致し方ない……」


「滅多にない事なのです、まずは女など拾わせるな、というのが通常なのですよ」


「会えば女の下着はずり落ちる、恥ずかしいなんて思っていたら無理、ブレンダさんが云っていました」


「知り合いですか?」

「彼女は元MI6、私は元王立カナダ騎馬警察、イギリス連邦の、レディス射撃競技で知り合った仲です」


「ブレンダさんのお言葉通りです、私も覚悟を固めて勝負下着で迫りましたから」

 

 そのあと富田沙織は、こうも云いました。

「あの方の女は、それなりの過去を持っています」

「必死ですがりついた方が大半です」


「あの方は助平なのに受け身です、縁を持てれば、逃がさない事が肝要、私から言える精一杯の助言です」

 

「ありがとうございます、私は望んでいます」

「なんとしても、代価というものを、私自身でお支払いいたします」

 クローイ・アルダーソンはそう答えました。


「そうそう一つ忠告しておくわよ、あの方はね、照れ臭いのか、最後は必ず落としますからね、ほら、あの通り」

 美子さん、アリスさんの強い要望で、ヤットン節など歌っていました。


 盆踊りの夜は、富田家で乱交とは行きませんので、オリンポス山頂のスペースラグーンのナーキッドオーナー専用コテージで、誰はばかることなく、エッチをしたようですね。

 

 クローイ・アルダーソンは、後日ものすごいモーションをかけて、上手く美子さんを誘惑した、結果、なんとか格子になったそうです。


 この日以来、富田沙織は、この時の美子さんの『十九の春』のアレンジ歌詞を、時々口ずさむようになりました。


 私が心に秘めるのは 

 あえぐ貴方に寄り添いて

 三千世界をどこまでも

 貴方と共にどこまでも


 クローイ・アルダーソンは、富田沙織と親しくなりました。

 よくブレンダさんと三人で、お茶などしています。

 もっとも、富田沙織が一番年下ですけどね。


  FIN



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