お花摘み 其の一


 クローイ・アルダーソンは、すぐに富田沙織を見つけた。

 そして側にいた、女神のような女を認めた。

 誰がどう見ても違う、威厳というか、醸し出す雰囲気、オーラが違うのである。


 取り巻きの美女がいるので、少しは近寄れるかもしれないが、多分一人でいれば近寄りがたい。

 それこそ人はひれ伏す、そんな雰囲気が漂っている。


 あの方がオーナーに違いない……


 クローイ・アルダーソンは、どうすれば近付けるのか……思案している最中、プリンスエドワード・インターナショナルスクール高等女子部の生徒たちは、能天気な会話をしている。


 ……ねえ、あそこで踊っている女性、素敵よね♪


 あのグループでしょう?

 よくもあれだけ綺麗な人が集まった事、でも一人、別格の人がいるわ、あの中に入れるって、余程綺麗でなくては。


 そういえば大使館の人は綺麗よね、あの中に入れそうよ。

 そんなことより近くで踊らない?

 私、あの女神のような方を、近くで見てみたい!

 

 プリンスエドワード・インターナショナルスクール高等女子部の生徒たちも、踊りの中に入って行きました。


 荷物番の富田沙織は、突然声をかけられました。

「富田貿易のお嬢様ですか?」

 見れば外人さん。


 三十歳ぐらいでしょうか、スラッとした身体で、プラチナブロンドの髪を肩まで伸ばし、小顔ですが、目が大きい白人さんです。


「そうですが、そちらは?」

「カナダ大使館のクローイ・アルダーソンといいます、プリンスエドワード・インターナショナルスクール高等女子部の、生徒たちの付き添いです」


「それは御苦労さまです、私に何か御用ですか?」

「そちらのグループに、生徒たちが興味を持ったらしく、あのように近くに騒々しく割り込んでしまって、お詫び申し上げます」


「そんなこと、かまいませんよ、カナダの方たちですもの、皆さん、なんとも思われていませんよ」

 

「どうしたの?」

 いつの間にか、美子さんが側に来ています。


「こちらはクローイ・アルダーソンさん、カナダ大使館の方」

「何でも、プリンスエドワード・インターナショナルスクール高等女子部の生徒さんたちが、当方に迷惑をかけてはいないかと、心配なされて、聞きにこられたのです」


「吉川様は、いかがなされたのですか?」


「ちょっと、おトイレにね」

「吉川様!『お花を摘む』――トイレに行くとの意味――とか、『化粧直し』とか、言葉を選んでください!」

 

 この手の、女性のたしなみについては、富田沙織は厳しくて、美子さんも時々やり込められています。


「以後気をつけます、とにかく『お花摘み』に行ってくるわ」

「そうだ、貴女もトイレに行きたいでしょう?連れて行ってあげるわ!」


 クローイ・アルダーソンは、あれよあれよという間に、トイレに引っ張って行かれます。


 あれ?連れて行っちゃったけど……

 ここでハタと、富田沙織はきずきました。

 吉川様……あの外人さんに手を付けるのでは……そうよ、あの方、結構綺麗だったわ……


 クローイ・アルダーソンは美子に手を握られて、ドキドキしています、少女のように胸が高鳴るのです。


 ……何処へ行くの?人のいないところ?キスでもされるの?……

 でも本当にトイレに引っ張って行かれます。


 がっくりした、クローイさんではあります。


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