盆踊り


「皆さん、日本の『ゆかた』に着替えてください、更衣室が用意されています」

「着方は鈴木商会から担当者が来られています」


 クローイ・アルダーソンはさすがに騎馬警官出身、脚が長くモデル体型ですが自身は着替えはしません。


 午後五時半、吉川美子さんご一行もがやってきて、浴衣などレンタルして着替えています。

 着付けは吉原綾乃がいる以上、なんの問題もありません。


 ……それにしても、吉川様は何をお召しになっても御似合いね、綾乃さんは綺麗だし、ココ・リディルさんはアリス様の妹、素晴らしく美しい……

 アリス様はさすがに愛人、目眩がするほどお綺麗……


 でも、吉川様は圧倒的ね、言葉もないわ……

 私、このような方々の中にいて、いいのかしら……


 富田沙織も美貌という点では、卑下することはないのですけど、余所の庭は美しく見えるのでしょう。


 午後六時、盆踊り大会は始まります。

「盆踊り♪盆踊り♪」

 誰がいったかといえば、吉川美子さんです。


「アリス、踊らないの?」

「踊りを知らないの……」

 アリスさん、今頃自分が踊りを知らないのに、気がついたようです。

「周りの上手そうな方を、真似ればいいだけでしょう?」

「私も知らないけど大丈夫、楽しく踊ればいいのよ」


「吉川様、一番内側の輪には、師匠や練習した方が踊られます、それを見ながら皆踊るわけです」

「太田高等女学校と東京調布女学校の女生徒は、どうやら練習をつんできたようですよ」


 ……良かったわ、これなら美子様と、太田高等女学校や東京調布女学校の女生徒の接点はない。

 私たちがしっかりガードすれば、何とかなる!


 うふふ……吉川様と盆踊り♪

 

 まずは東京音頭が流れ始めました。

 あれ、歌い手がいません。

 どうやらお囃子だけのようですが、別に誰も気にしていません、踊れればいいのですからね。


 まずは三回拍手をし、チョンチョンがチョン、右手をかざして左手流し……

 美子さんと綾乃さんの上手い事、一回で覚えていますが、リディル姉妹は大騒動です。


 続いて、チャンチキおけさ、炭坑節、八木節、ドンパン節、河内音頭、会津磐梯山、花笠音頭、北海盆唄、大東京音頭の十曲、これを二回繰り返す予定です。


 夜を弾く様に、提灯の明かりが連なる盆踊り会場。

 太田高等女学校と東京調布女学校の女生徒が、入れ替わり立ち替り、手本の踊りを踊っています。


 それを見ながら、参加者は見よう見まねで踊っています。

 老いも若きも、男も女も、楽しそうです。


 会場は盛り上がっています。

 マルス移住という、大動乱も一息ついたところ、皆さん、はじけたかったのでしょうね。


 美子さんも、楽しそうに踊っています。

 沙織もつられて踊っていましたが、タフな美子さんたちと違い、少し踊り疲れたようです。


 会場隅で荷物番などしていた鈴木聡子の隣に座り、

「疲れました、美子様たちは元気ですね」

「聡子様は踊られないのですか、私が荷物番を変わりますが?」


 鈴木聡子に水を向けますと、嬉しそうに聡子さんが、

「ではお願いしようかしら」

 と、言葉を残し、いそいそと美子の近くに歩いていきました。


 沙織は美子を眺めていました。

 聡子と綾乃、そしてリディル姉妹、掛け値なしの美女です、その中心に美子がいます。

 そのあたりだけ別次元の雰囲気が漂っています。


 美子の踊りを見ていると、あることに気がついたのです。

 会場の誰もが美子さんたちを見ている。

 それはいつものことで、取り立てて変わったことは無いのですが、一人の外人さんが、穴の開くほど美子を眺めているのです。

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