第2話   この世は不自然!?

 カピバラって言ってるけど、コレどう見ても、とぐろ巻いてないう〇こだろ。耳とか、短い手足らしきものが、生えているようにも見えるけど。


 カピバラ要素どこだ。茶色? 色だけか?

 カピバラさんに失礼だわ! 


「わかったらこっちゃ来んかい! はよ来いやボケナス!」


 うわ、ツバが! きったな!


 しかも、なんだよ、この罵倒の嵐は。そこかしこにギザギザの吹き出しが発生してて、そこにぜんぶ書いてあるから、よけいに不快だわ!


 う〇こっぽい自称カピバラの胴体からスッと四本脚が伸びて、どう見てもその歩幅と移動距離が釣り合わない速度で、てくてくと擬音付きで歩いてゆく。


 きっと俺は居眠りしてるんだ、それでこんなおかしな夢を。


 げ、振り向いた。


「なにしとんねん! どん臭いやっちゃな、焼いて食うぞゴラァ!」


 うわ、その距離でなんでここまでツバが飛んでくるんだオエッ! ティッシュ、ティッシュどこだ?


「はよついてこんかい!」


 ポケットティッシュを探す俺の右の手首が、茶色い何かに絡めとられた。


「え?」


 どこから何が伸びてきたのかと目で追うと、なんと、カピバラの手足のうち、おそらく右手が、びよーんと伸びて俺の手首に巻き付いていたのだ!!


「うわあああ! アンリ! アンリー!」


 思わずアンリに助けを求めてしまい、気がついた、あいつはもう、走り去っていたことに。


 俺はなぞの生き物が伸ばした長ーい片腕に腕を絡め取られて、ぐいぐいと引っ張られてゆく。あのたわし十個分程度しかない体の、どこにこんなバカ力が。って、考えている場合じゃなかった、振りほどかないと!


 うぐぐ、かたい! ダメだ、片手だけじゃ取れる気配がない。もう一人くらい、誰かの力が必要だ。こんな状況で大声を出して助けを求めるのはハズくて死にそうだが、う〇こに腕を引っ張られるより絶対ましだ!


「だれか助けてくださーい! 変な生き物に襲われているんです! いっしょにコレ取ってください!」


 周囲を歩いている大人に助けを求めた。するとその場にいた全員の目玉が、ポンッと飛び出た。それはもう、勢いよく。視神経と眼圧はどうなってんだってツッコミも間に合わないくらいに。


 無論、俺は叫び声を上げた。尻餅もついたし、鼻水も出た。

 そして通行人も両足を渦巻みたいに回転させて、ぴゅ~という擬音付きで逃げていったのだった。


「え……?」


 そして誰も、いなくなった。大都会の駅前が、一瞬にして無人になったのだ。


 まるで漫画のような光景だった。でも、俺の見間違いだよな、疲れて幻覚でも見てるんだよな、きっと腕に絡まってるコレも、本当はこの世に存在なんてしないんだよな。


「って、イテテテテ! 引っ張るな!」


「ちんたらすんなや! 足遅いとモテへんでぇ!」


「わああ! 誰か助けて~!!」


 無人の大都会で、う〇こに引きずられてゆく俺の悲鳴が、むなしく響いていた。


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