第58話 ょぅι゛ょと反社会的行為表現系(CERO A)
さてと。
あんなに長そうなダンジョンだったのにアリスたちはその後すぐ自分たちの家に戻ってきた。
徒歩三分くらいで。
ついでに自分たちで食べる分のアイスクリームも買ったきたのだった。
「ほい」
「これは?」
ここはアリスたちの隠れ家、兼レストラン兼幼女たちの憩いの場、アリスの家である。
いちおう警察から逃げているアリスたちが、転生者の家に隠れ住むことで警察の目を誤魔化すという目的ではあったが、誰がなんと言おうとまったく隠れるつもりのない隠れ人気レストラン(予定)である。
WELCOME! である。
「頼まれてたちょーみりょー」
「ウチまだ料理の材料もないんだけど?」
純度の高い廃墟だった家屋の屋根に板を打ち付けていたエスカランティスが、顔中をなぜか真っ黒にした状態で二階から降りてきた。
驚くなかれ、この廃墟は二階建てである。
エスカランティスが店を構えているこの地区はパラミタでも有名なスラム街で、しかもこの物件、火事で燃え残った廃墟にエスカランティスが勝手に住み着いたというものである。
人間も落ちるところまで落ちたな……とアリスは思ったが、思っただけで言葉にしないのができる大人ようじょのすること。
よくまあこんな燃え残りのほったて小屋が倒壊しないものだと思うが、きっと丈夫な素材でできているのだろう。さらに言うと、建物の地下には勝手にジョルジュが穴を開けて住み着いている。
ただ前より進化したなと思うところはあった。ゲームでよくあるチュートリアルの石でできた焚き火が、『炉』になっていたのだ。
アリスが炉の前で喜びの無言屈伸を繰り返していると、エスカランティスが颯爽と現れて、湯気の立つ何らかの料理を持ってきた。
んで、インベントリから机の上に食料を選んで(左クリック)んで設置(E)すると、アリスたちの前には豪華な料理が並べられた。
「おお〜今日も美味しそうなごはんー!☆」
誰に向かって言っているのかわからない感じでジョルジュが料理皿と一緒に逆ピースサインでウィンクして天井方向にカメラ目線を送る。
ラマーはいつも通り何を考えているのかよく分からない顔のまま、なぜかジョルジュのカメラを持ってジョルジュの地下室に行こうとする。
「待った。せっかく美味しい料理を作ってみんなで集まったんだ、一緒に食べよう!」
エスカランティスがそう言うとラマーは細い目をさらに細め、エスカランティスの並べた料理のにおいをクンクンと鼻で嗅ぐ。
そして無言のまま。
料理を指差して。
カチャーを指差した。
「ああそうだ。彼女の家のおばあちゃんが余ってる食材をくれたんだ。食べられるかどうかよく分からないけど、味はそこそこ良い方だと思うよ!」
ガタッ! と音がしたので、アリスが見るとすでに我慢できなかったらしいジョルジュが皿のひとつをスプーンですくってすでに口の中に突っ込んでいた。
「へえ、自分から毒見したのか。殊勝じゃないかジョルジュ」
アリスが言うとジョルジュの顔色がみるみる青くなっていき、たぶん反射的にだろう、そのままゴクリと口に含んだブツを飲み込んでしまった。
「ああああ」
「うまいか?」
エスカランティスが満面の笑みで言った。
「うまいか」
これはバカにした感じでアリスの言葉。
「うまいよな?」
カチャーは自分の分の皿を取りながら念を押した。
ラマーは諦めた様子で自分の席につき、目をつぶって無言で頷いた。
「まあ世間はだいぶ厳しいけれど、俺たちはこうやってみんなで食事ができている。今日の糧に感謝しよう。カチャーちゃんたちには感謝だ」
「フン、どーせわたしらが採ってきたちょーみりょーなんて必要なかったろうさ」
アリスは謎の茶色いスープみたいな料理をスプーンでぐるぐるしながらほお膝をついてむくれた。
「いやいやそんなことないぞ? 今日はアリスちゃんたちが持ってきてくれた調味料を料理にも入れてみた。もっとも量が分からないから多すぎたり少なすぎたりするかもしれないけど」
「つまり?」
「人によって、調味料の多さがちょうど良かったり少なかったりするってことだね」
アリスはエスカランティスにそう言われて、目の前の料理皿を疑わしそうに見た。
「どう見ても全部同じくらいマズそうなのに、この中にひとつだけきゅーきょくにゲロまずの奴が混ざってかもしれないのか?」
「アリスちゃんたちが持ってきてくれた調味料が効いていればそんなこともないさ」
「そんな変なものは食べたくない」
「新しい友達にも分けてあげればいいよ。みんなで分けて食べればその分変なのも減るかもしれないよ?」
新しい友達???
アリスは不審な目でエスカランティスを見たが、ふと思い当たるところがあったので料理皿を一つだけ手に取り、ジョルジュの地下室に通じる扉の脇に置いてみたのだった。
すると地下扉からちっちゃな腕がにゅっと出てきて、皿だけ取ってまた引っ込んでいく。
地下扉が開くしゅんかん、扉の隙間から七色のゲーミング色がピカーっ! と見えたのでアリスは何となく腕の主を察した。
「さて、じゃあいただきますしよっか!」
「……本当に食べるのか?」
「みんなで食べればきっとおいしいよ! さあ、いただきます!」
エスカランティスが言って食卓の前のアリスたちに先んじて皿に手を伸ばし、次いですでに口の中でソレをモゴモゴ咀嚼していたジョルジュが恐る恐ると言った様子で皿に手をつけ……カチャーは慣れた手つきで皿の上の拳大ほどの大きさの殻の生き物に手を出し……ラマーは小さくため息をついて殻の生き物の汁掛け焼きみたいなものを食べるべく、殻をパリパリと剥き出した。
殻の持ち主は何らかの生き物のようで、ラマーが殻を剥いた後には内側から黄土色の生き物の本体が剥き出しになって。
「内臓はちょっと苦いから、初心者は身だけ食べるのがいいぞ。あたしは全部食べるけどな」
ラマーは慣れた手つきで汁掛け殻付き生き物焼きの中身だけをくるくるっと取り出して口に入れていた。
ゲーミング色が漏れ出す地下室の向こう側で小さく「おえっ」という声が聞こえた気がした。
アリスは皿を突き返した。
「こんなもん食えるかーっ!!」
アリスは殻から出てきたス黄土色のスライムっぽいものが入った皿を……!
丁寧に突き返した。
「言っとくけどこれでも盗賊屋だからな! やり手の盗賊屋様だ! それがこんなマズそうなものが食えるかってんだ!!」
「食わずにウマいもマズいもないぞアリス! とにかく、食ってみろ!!」
「イヤだっ!!!」
アリスとカチャーが互いの口にデロデロの変なジェル状の生き物の死が……もとい食べ物のようなものを押し付けあってムギューとしている中、なにかうろんな目をしたジョルジュが皿の上の焼きスライムっぽいもの(渦巻き状の殻付き)の臭いをヒクヒクと嗅ぎ、まるで劇物を食べて死ぬみたいな感じでスプーンにひと匙すくって、食べてみる。
「意外とおいしい?☆」
誰にしているのかわからないがカメラ目線のウィンクをするのも忘れない。
「だろ? ウチの食材舐めんな」
「……」
アリスとジョルジュのやりとりを聞いていた怪訝そうな顔のラマーが、突然ガタリと音を立てて席を立つ。
てとてとと一人で台所に行ったかと思うと、どこで用意したのか稲科植物を脱穀して石臼で挽いたような「白い粉」を袋から出してボウルに入れて、次にそこら辺の草の実を圧縮強力に潰して絞り出したような天然油、塩、根菜植物の根を細かくすりおろしてトロトロになるまで煮詰めて濾したものを鍋でさらに煮詰めて白い粉状にしたものをすべてボウルに入れて握力と気合いでコネコネして木の板と延べ棒でパン状にしてフライパンで焼いて素朴な種無しパンを一瞬で作ると、例のあの黄土色のゼリー状のアレをスプーンですくってパンに塗り、器用にクルクルと巻いて食べ出した。
もちろんラマーは無言である。
ただし、食べた後に満足そうに頷くのであった。
「それみろ、みんなうまそうに食べてるじゃないか」
「い、いやまだわかんねーし! そこのマアがわかんねーし」
諦めの悪いアリスが地下室入り口に行ってドアの下を覗くと、デイメアマアはなにかのゲームをしながらスプーンいっぱいにそれを頬張り、モッチャモッチャと無言でそれを食べているのだった。
「……ダメだゲームのしすぎで舌がおかしくなってる」
ちょっと何言ってるのか分からなかったが、どうもエスカランティスの家兼レストランの地下に勝手に住み着いたジョルジュの部屋に、さらに地下トンネルを掘ってデイメアマアが居住区を拡張しているようであった。
で、その無断無限拡張された地下トンネルの奥にはとうぜんマアの家があって、七色に光るタワー型ゲーミングPCが五台、七色に光るゲーミングパッド、七色に光るゲーミングキーボード、七色に光るゲーミングマウス、七色に光るゲーミングピーナッツバターなどが置いてありエスカランティスの家からマアの家までたとえどんなに離れていたとしてもまるで長い洞窟の先で後光を輝かせる仏……ゲームキチガイ幼女なのだった。
と言うことで、アリスはゲームに集中しているマアの皿の中にそっとスイセンの葉っぱ(合法)を置いてみた。
マアは知らずにスイセンの葉っぱ(直接摂取による致死量は10グラム以上)を、例のあのでろでろのやつと一緒にスプーンですくってモッシャモッシャと食べる。
何か違和感を感じたらしく、マアがアリスを振り返った。
アリスは黙って微笑んだ。
「うまいか?」
「…………」
不信感ありありの様子でマアはアリスの顔をじっと見ていたが、そのうち飽きてまたゲームを始めた。
アリスはマアが例のアレを食べて平気そうな顔をしているのを確認すると、ダダダダダーっと地下トンネルを走ってエスカランティスたちの待っている店のメシを食うところ(まだ家の整理が終わっていないので実質ただの空きスペース)に戻るのだった。
で、自分の席に戻ると。
「これホントに食えるんだな?」
エスカランティスの目をギロリと睨むのであった。
「失礼だな! これはウチのご馳走だぞ?」
「カチャーは黙って木の皮の裏の虫っころでも食べてろ」
睨み合うアリスとカチャーの二人をよそにジョルジュは皿を舐め回しながら黙って二人を見つめ、なにを考えているのかよくわからない中華かぶれのラマーは例のデロデロ入り手作り雑穀饅頭を食べながらじーっとアリスたちを見ているだけである。
「ま、まあまあ二人ともケンカしないで。スープならまだいっぱいあるから」
「で。食べれるんだな?」
アリスはエスカランティスの目をジロリと見る。
「味は問題ないと思うよ。味に偏りがあるかもしれないけど」
「味はどーでもいいっ。……食べれるんだな!?」
「失敬な! ウチの食べ物にケチを……」
「おまえは黙ってろカチャーっ」
改めて、例の茶色いゼラチン状の物の中に謎の根菜(たぶん雑草の根っこ)やら謎の肉の切れ端(たぶん市場で分けてもらった余り物……それかカチャー家の誰かが持ってきた謎の食材か)やら。
一番ひどいのは明らかに誰かの目玉、のようなもの、が表面に浮いており、まぶたを開けてアリスの方を見ているのだった。
「絶対食えない奴だろこれ」
「失敬な!」
「黙ってろカチャー」
「味が気になるならこれかけてみるかい?」
言ってエスカランティスが、アリスたちがついさっきとってきた謎の白い粉を溜めたタッパーを持ってきて指でつまむ。
「これかけると一気に美味しくなったよ!」
「い、いや味の問題じゃねえよ……」
アリスはクンクンと皿に鼻を近づけてにおいをかいだ。
ニオイ自体は悪くない。なぜか古い魚のような臭いはしたが。
あと古い冷蔵庫の臭いもする。
エスカランティスがなぜか自身の服の長袖を手繰り上げて腕の素肌を見せつけてくると、白い粉を摘んでそっと肌の上を転がすのであった。
落ちてくる粉がたどり着く先はアリスの皿の上であり、アリスは……白い粉が何か非合法なそれの気がしたのでサッと自分の皿を動かして避けた。
「わかったよ食べればいいんだろ、食べれば!」
「失敬な! うちの食材……」
「おまえは土の下でうねうねしてる虫でも食べてろカチャー」
アリスは覚悟を決めて目の前の……名前も出したくないソレを見て、いやいったん深呼吸しよう。スプーンを右手に握って、とりあえず臨戦体制……エプロンつけてなかったなーお洋服汚れるとヤだもんな、あとなんか分かんないけど食べる前になんか神様とかにお祈りしなきゃいけないんだっけ? とか、ほらまあ食べる前に色々やることが
「いいから食ってみろよアリス、ウダウダすんな女の子らしくない」
食卓の前でモジモジしているアリスに、カチャーが喝を入れる。
アリスが皿を見ると、あからさまに皿の中の目みたいなやつがアリスを見てまばたきをした!
アリスが救いを求めるように隣の席を見ると、すでに皿の中身を空にし終えたジョルジュがあくびをしながらアリスの完食を待っている。
「食べるのか。ええいままよ!」
アリスはガッとスプーンを投げ棄てガッと皿を両手で掴むと、ガッと皿に口をつけてガッと中身を飲み干しガッと皿をテーブルに叩きつけると、そのまま冷蔵庫まで走っていって中に隠していたホッ○ーを取って瓶の蓋を気合いで外して、一気に中身を飲み干した。
その光景は異様であった。ホッ○ーの中身が口の端からつーっとこぼれているのにごっきゅんごっきゅん音を立てて液体を飲み干しているのだ。
そして飲み終わった後すぐに
「ウ゛ッ……!」
アリスは口の中から大量の(反社会的行為表現系により自主規制)虹色の綺麗な吐瀉物が床一面に広がるのであった!!!!!!!
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