第56話 ょぅι゛ょと白い粉のブロック

「で、何しにここにきたんだっけ」


 ダンジョンで下に続く階段を降りるとなぜか元の階段が無くなってしまう『とても不思議なダンジョン』で、アリスは自分達の降りていた階段が消えてなくなったのをいい事にそれ以外のメンバーの上にあぐらをかいて座っていた。


「白い粉」

「そう、それだ!」

「重いんだよオマエ、最近太っただろう?」


 下の段から茶々を入れるカチャーの頭を、アリスはサンダルで踏みつけながら悠々と幼女の山を降りた。


「で、ここに例の白い粉があるのか? 暗くて何も見えないな」

「伝説によると、この地下ダンジョンの最奥に白い粉があるらしい」

「なるほど」

 カチャーがジョルジュの頭を踏みつけながら悠々と幼女山を降りて来る。

 なおジョルジュは……目を白くして気絶していた。


「ここにあるのか」

 ジョルジュたちを背にアリスは洞窟の奥を見ると、何か思うところがある様子で少し間を置いた。


「……伝説の、白い粉が」



 言ったった! という顔でジョルジュがクワッと目を覚まして言った⭐︎



「けっきょく白い粉って、いったい何なんだ?」

「あたしは知らないけど、転生者たちの間で流行ってる嗜好品だよ」

「しこーひん?」

「麻薬みたいなもんだ」

「ああ。なるほどマタタビみたいなもんか」

 アリスは、ネコ耳族であった。


「で、そういうのを集めて捌いてるのがこのダンジョンにいるのか?」

「ああ。すぐそこにいる」

 カチャーが言うと、ダンジョンの奥で七色に光る……具体的に言うと1800ルーメン近くで赤、青、黄色、緑、白色を交互に光らせている高性能ゲーミングPCみたいな空間が広がっているのが見えた。

 更に言うとダンジョン奥に広がる不思議なゲーミングPC空間には適切なタイミングでストロボ点滅が織り込まれており、おおよそ0.5秒に一回の割合でフラッシュ演出が施されていた。


 アリス、カチャー、ジョルジュ、それから撮影班として一行を屋根に張り付いて撮影しているラマーは全員ポケットからサングラスを取り出して目にかけるのであった。


「なんだこのふざけたところは?」

「ここが例の白い粉のところだ」

「……掘るとか集めるとかじゃなかったの?」

「冒険ごっこは転生者の仕事だ、でもうちらは悪いことをするんだろう?」

 トントン。

 周りの目を気にしながらカチャーがゲーミングPC空間の壁を叩いた。

 まるで深夜のドンキホーテみたいに眩しすぎるせいでよく見えていなかったが、このゲーミングPC空間、よく見たら誰かの拠点の窓から光が漏れているようだった。

 カチャーが叩いたところは、ドアだった。


 ギイと鈍い音がして、中から顔を隠した幼女が目だけを覗かせてくる。

 カチャーは声を押し殺しながら、謎の幼女に顔を近づけた。

「ピザの宅配だ」

「うちはピザなんか頼んでないぞ」

「極上のダブルチーズマッシュルーム」

 カチャーが訳ありそうにいうと、扉の向こう側の覆面幼女はドアの隙間をやや大きめに開いて中からスーツケースを見せてきた。


 ついでに言うと覆面幼女が扉を開けるとその隙間から、七色に光るゲーミング1800ルーメンの輝きがもっと強く溢れて出てきて2400ルーメンくらいになった。裸眼で見たら失明するレベルの明るさである。


「中身は?」

「特上のブツだ」

「試させろ」

「いやいや待て待て、先にそっちのモンを見せろ


 薄暗い洞窟の奥で、七色に光る不思議なゲーミング空間で、怪しい謎の幼女は言った。

 カチャーはうなずき、いつから持ってたのかは分からないがショルダーバッグを手繰り寄せジッパーを開いて見せた。

 中身はよく見えないが……平たくて細長い何かの束だ。

 謎の幼女もカチャーに合わせてスーツケースを開き、中からブロック状に固められた白いモノを取り出した。

 粉ではない。白い何かを圧縮して固めた台形状の何かのようだ。

「コイツはゴクジョーモンだ。そこら辺じゃ手に入らないレベルのモンよ。なあ、試してみろ」

 カチャーが見せた束状の何かを見て気分を良くしたらしい謎の幼女は、すこし食いつき気味にカチャーに言った。

 それで台形状のブツにいきなりナイフを突き刺すと、表面を軽く切り取ってカチャーにナイフの柄を渡した。


 柄を受け取るとカチャーは刃先にこびり付いた白い粉状のブツを、鼻を近づけてスンスンと嗅いだ。

「いいねえ。こりゃサイコーじゃねえか!」

「だろ? じゃあ取引成立だな」


 カチャーが何だかよくわからないブツを謎の幼女から受け取ろうとしたとき。

「まーて待て待て待てぇ!」

 この現場でほとんど見せ場がなかったアリスがその間に割って入った。

 なおアリスは、ネコ耳族である。

 構ってくれないときは自分から割って入って自己主張するタイプの子である。


「待てっ!! なんか怪しいぞこれ」

「なっ何が怪しいってんだよ」

 突然ずいと顔を挟み込んできたアリスに、目深に頭巾をかぶる謎の幼女は苦言を呈した。

「勝手に人の取引に口出してくるんじゃねえ! 第一誰なんだオマエ!」

「わたしはこのパーティのリーダーだっ」

 アリスはふんふんと鼻で匂いを嗅ぎつつ、謎の幼女が持っている謎の白いブロック状の物体に鼻を近づけた。


「うえっ!!!! こ、これ●薬じゃねえかよ! 鼻がもげるっ」

「ば、バカやろう鼻がいいやつが下手に鼻近づけんな! おいカチャー、コイツら何とかしろ!」

「あたしは正常な取引がしたいだけなんだ。リーダーが怪しいって言う時は、きっと何かが怪しいんだろう」

「バカヤロウふざけるなよ!? こっちは純度100パーのを用意してやったんだぞ! さっさとソイツを渡しやがれ!!」

「おっと、まだコレは渡せねえ」



 カチャーと謎の幼女が互いに互いが持っているものを奪い合っている間、アリスは眼光鋭い目つきで謎の幼女が持っている白いブツを睨んでいた。サングラス越しに。

 そして、勢いよくガッとそのブツを掴んだのだった。


「おい。ちょっと試させろ」

「やめろ!バカ、触んな!!」

「いいじゃねえかコイツが本物のマタタビかどうかためさせろってんだ」

 アリスは、この白いブツの正体がマタタビだと思い込んでいた。


「やめろ! そのちっちゃい手で触んな!!」

「いいじゃねえかほんの少しだけだ」

「やめろ割れる!!」

 バキッ! と音がして、アリスの手の中に半分、謎の幼女の手元に白いブツの半分がそれぞれ残った。


 さっそくアリスが白いそれをひっくり返して割れた断面を見ると、さっきまでカチャーが見ていた上の部分と今まで見れなかった下の部分が明らかに違う物質でできていることが分かった。

 表面が白いブツそのものだとすると。残りの下の部分は……


「クンクン……これ、チーズだな」


 アリスの目がギロリと謎の幼女を睨んだ。

 アリスのようなネコ耳族にとって、チーズは毒であった。最近はネコ用のチーズも売られているようだが、それはそれ。


「オメエ騙しやがったな!?」

 カチャーが謎の幼女に食ってかかりその胸ぐらをつかもうとする。

 しかしフードを深くかぶった謎の幼女は半開きのドアを勢いよく閉めようとしており、ドアの向こう側とこちら側で激しいガチャガチャ戦争が始まるのだった。



 呆気に取られるのはその場で何が起きているのかよく理解できていないアリスである。

 ネコ耳アリスは、嗅覚と直感とその場のノリと勢いと暴力で生きてきた。

 しかし、ちょっとでもインテリジェンスっぽい雰囲気があるととたんに何も分からなくなるのである。

 これはアリスはアホの子設定、とかそういうことなのだろうか。



「なあジョルジュ、何があったのか説明してくれ」

「わかんないっ⭐︎」

 アリスの問いに、IQ1のジョルジュは即答した。


 カチャーと謎の幼女がドア開閉バトルをしており、アリスとジョルジュがその光景をただただ見ている。

 足元には半分に割れた白い固形物の残骸。


 天井にへばりついてシャッターチャンス? 的なものを狙っていたラマーがカメラの電源を切ると、身軽にすたっと降りてきて残骸を拾った。


 割れた白い固形物は、上と下で綺麗に二層に分かれていた。つまり上側は、アリスも大嫌いな刺激臭のする白い粉。下の層はアリスが嫌いなチーズの塊。

 そして謎の幼女が最初にナイフで削って嗅がせて見せたのは上の部分だけ。


 つまりこれは、白い粉の取引ではよくある偽物のブツなのである。カチャーは危うく謎の幼女に騙されかけたのだ。






 という情報を、ラマーは一切喋らなかった。

 その代わりに中国語で

「啊ー、我要的不……」

「おまえら! そこで遊んでないで手を出せクソが!!」

 喋りかけたラマーを黙らせるように、カチャーが謎の幼女の腕をつかんでぐいーーーっと引っ張り出す。


「ちぇっ、よくわかんねえのに巻き込まれちまったなあ……」

 アリスは何だかよくわからないまま(自分がこの幼女が何らかの偽物をカチャーに渡そうとしていたことも理解しないまま)言われた通りに謎の幼女の腕を引っ掴んだ。


ただ、狭いこのドアの隙間に手を突っ込んで腕を引っ張るのにも限界があったので、アリスは勢いよく謎の幼女の住む家? のドアを開けた。

 すると中から、1800ルーメンどころではない虹色の輝きが!!


 アリスたちの眼球に直撃したッ!!


「うおっ眩しっ!?」

 小顔のアリスは改めてサングラスを中指だけでクイっとかけ直し、渋い顔をした。

 カチャーはこの部屋の主の、虹色の幼女の部屋がとんでもなく眩しいことは知っていたようで、アリスがつけている偽物のレイバンのサングラスとは違う極度良品マット仕上げには素晴らしい感触があり指紋が綺麗に消えますサングラスを最初からかけていた。

 当然、Amazonのレビューは大量の星5つである。


 相手の幼女もサングラスを掛けていて顔がわからなかったが、寝癖ボーボーでラフなタンクトップシャツ(ほぼ下着)、当然モロ出しの色黒の肌と細い腕っ節の割には、どうも粘る力が強いようで。

「クソが! 離せ!! 離せこのアバズレ!!!」

「出てこいこの詐欺野郎!!」

 カチャーが色黒の謎幼女‥‥見た目すごい引きこもり幼女っぽい女の子を無理矢理外に引きずり出そうとしていて、アリスもカチャーの言う通りにカチャーを引っ張って手伝っている。


 と言うことでアリスはすぐ近くにいたジョルジュの腕を掴んで巻き込み、ジョルジュも天井にへばりついてカメラの録画をしているラマーの青いジャケットをギリギリ引っ張る。


 ここまでくると誰かさんだけが顔で大変そうな表情をしながら一番仕事してなさそうか分かりそうなものだったが、四人が四人全員でこの謎の幼女を部屋から引っ張り出すことに専念した結果、ついに謎のゲーミング浅黒引きこもり幼女は海の底の貝が砂の底の穴から引っ張り上げられてスポン!! となったように部屋の中から引っ張り出されたのである。

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