第55話 ょぅι゛ょと強欲のダンジョンマスター


「イラッシャイ!」


 おとしあな にはまってジョルジュが落ちた先は、謎の店であった。

「!?⭐︎」

 ついでに言うとジョルジュのセリフには語尾に星が付いていることを、すっかり忘れかけていた。


「ここは、どこだあ?」


 ジョルジュの後から続いて落ちてきたカチャー、アリスがジョルジュの上に覆いかぶさりジョルジュが変な声を出す。


「わたしのなまえは ジャニターともうします」

「……だれ?」

 潰れているジョルジュの上で伸びているカチャーの上で、アリスはあぐらをかきながら怪訝そうな顔をして見せた。


「しがない商人です 何をおもとめですか?」

 押しの強いジャニターを名乗る変人に、アリスたちが動揺する間も無く目の前にアイテム一覧枠が展開された。


「んー。よく分かんないけど、そもそも何が必要で何がいらないのかわからんにゃー」

 アリスは腕組みしながらアイテム覧を一瞥する。

「とりあえず石」

「それは ひきとれませんね」

「じゃあ草」

「それは ひきとれませんね」

「じゃあ銃……は売りたくないな。んー、ジョルジュいらない子だから売ってみるか」


 アリスが目を細めて仲間の値踏みをすると、アリスの下のカチャーの下で潰れているジョルジュがくわっ!! を目を見開いた。

「それをうるなんて とんでもないっ!!」

「いらない仲間はいらないのだ。いやそれより、ポーション的なものかダイナマイトがあるといいよなあ。転生者の拠点をレイド(訳:盗む)する時に必要になるし」


 アイテム覧を順に見ていくと、確かにダイナマイトが十本ほど売られていた。

 アリスは勢いよくダイナマイトを選ぶと、買うのボタンを押した。


 しかし、ダイナマイトは買えなかった。



「金がねえじゃねえか!」

 ジャニターを名乗る謎の商人が突如守銭奴めいた汚い言葉を投げつけてきた。

 なおジャニターの外見は、よくわからない黄色いでかい服を着た鳥であった。

「金がねえじゃねえかー⭐︎」

 潰れているジョルジュが王蟲返しのように叫ぶ。


「チッ、やっぱコイツ売ろう」

「仲間は売るものじゃないよーッ⭐︎」

「用がないならもう行っちまったほうがいいと思うぜアリス。あとおまえ、重い」

「へーへーどうせ貧乏人にはつらい世の中なのさ」


 アリスがカチャーたちの山から元気よく飛び降りる。

 当然だが、アリスが飛び退くそのちょっとした衝撃でカチャーが「うっ」と唸った。

 一番下のジョルジュは「ぐえっ」というウシガエルのような変な音を出した。


「金がねえんじゃ襲うしかねえな。この世界は強いもんが総取りって決まってるんだ、恨むなよ」

 アリスは黒いジャケットの内ポケットからハンドガンを抜いて、商人ジャニターの頭に向けた。




 しかしよくよーーーーーーく見ると。



 転生者には見えない素材で作られた魔法の防弾ガラス(アイテムと金しか相互に通り抜けすることができないという理不尽仕様)がカウンター全体を取り囲んでおり、アリスがハンドガンを取り出しても謎の商人ジャニターはドット絵が張り付いたような(?)笑顔のままだった。


 と言うかドット絵だった。


「すみません当店では襲うコマンドの取り扱いはございません」

「ちっ、シケてやがる。これだから32ビットは」

「何のことでございましょう?」

「今はネットに繋がってるオープンワールドが当たり前だろっての!」

「何のことでございましょう?」

 謎の商人ジャニターは、必死にドット絵の簡易モザイク表現だけで自分達の世界観を守ろうとしていた。

 なおここは、異世界である。

 よくある転生ものである。異世界転生した勇者はだいたいゲームのような世界に飛ばされると言うのが筋である。

 アリスの頭の中ではプレ○テだろうがテト○スだろうがパチンコだろうが全部同じでいいじゃん、となっているのであった。


「私はただの商人です。人に取り憑き心の奥底に眠るそのお方の欲求をダンジョン化して、皆様が望まれるものをダンジョンを通して提供してさらなる巨大なダンジョンに成長していくだけのただの魔石でございます」

「出たなボス級モンスター」

 アリスは理不尽極まりない透明防弾ガラスに向かってハンドガンを数発撃ち込んだ。

 当然、「襲う」の選択肢が出てこないカウンターでは、アリスの予期しない行動はすべて無効化され弾丸は魔石のジャニターに届かず弾き返された。


「次は何階に出ましょうか?」

「は?」

「私は欲求を司るモンスター、皆様の欲求が深ければ深いほど、良い品物を皆様にご用意して待つタイプの魔物です。見たところお客様の欲は、私が今取り憑いている者よりずっと深く大きそうです」

「そりゃそうよっ」

 アリスはフンっと鼻を鳴らして小さな胸を張った。

「「わたしは大盗賊、ねこ耳族の大首領になる女よっ! 今はこんな狡いボンクラーズたちと一緒にボウケンしてるけど、そのうち世界をアッと驚かせる大悪党になってやるんだからっ」

「狡(こす)くて悪かったな」

 アリスの後ろでカチャーがジロリとアリスを睨む。


「おおそれは素晴らしい欲望です。では今回は特別に多めの階層をご指定してくださって良いですよ」

「階? んー下に行けば行くほど、でっかい物を用意して待っててくれるんでしょう?」

「はい」

 アリスはよくよく考えるような素振り……指を顎の下に添え一生懸命そうな顔で魔石ジャニターの目を睨む。


「んー。じゃあ、マックス下で」

「マックス下で?」

「一番下でお願い。これくらいなら、きっといいモンも用意できるわよね?」


 魔石モンスターの商人ジャニターは32ビット脳でフル計算して、アリスの言った言葉を正確に捉えようとした。

「一番下ですと、おそらく私が用意できる物で最大級のものをいくつか用意することになるでしょう」

「んー具体的には?」

「国宝級の召喚獣の魔石や、転生者しか持ち得ない武具防具、女神本体、上級書物などでしょうかね。お時間もかかるでしょうから、それまでにいくつか用意しておきましょう」

「んーよく分かんないけど、あんたがそう言うなら任せるわ」

「はい。では、最下層でお待ちしています」

「またお越しください」


 ジャニターが深々とお辞儀をしたので、アリスはカチャーやジョルジュたちを引き連れてフロアの端、階下へつながる階段へと降りていった。




 そこでやっと上からラマーが降りてきて、アリスたちが消えていった階段にカメラを向けていい感じに〆のシーンを撮る。


 で、一旦カメラをオフにすると、ジャニターの方を見てボソリと呟いた。

 いやその前に大きく息を吸った。


「……よんじゅうにおくきゅうせんよんひゃくきゅうじゅうろくまんななせんにひゃくきゅうじゅうろく階?」

 ラマーは一息で言った。

「そう言うことになりますね」

 ジャニターが静かに答える。

 ラマーは、なぜか満足したように頷いた。


 ラマーが何を考えているのかはよく分からなかったが、ラマーはふたたびカメラをオンにすると、アリスたちの降りた階段に自らも入っていった。

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