第54話 ょぅι゛ょとトラップ
ダンジョンを先行している他プレイヤー（以下、転生者と表記）を張り倒し、アリスたち一行は重大なミスに気がついた。
「しまった、布団作ってきてない」
気がついたのはカチャーであった。
「誰か草持ってない？」
「ここに来て誰も草なんか食べるやついねーぞ。オマエついに草吸うようになったのか？」
「あたしは吸わないよ。ベッドとか布団作っておかないと、死んだときにめんどくさいことになると思ってさ」
それを聞いてアリスは一瞬考えたが、神妙な顔をしてカチャーを振り返るのだった。
「死んでも布団から生き返られるのは転生者だけだぞ？」
「ああ、そういやそうだったか」
「カチャーは色々考えすぎて、いろいろ頭がゴチャゴチャになってるネー」
この余計な一言を言ったのはクランメンバー……いや、けも耳幼女ご一行の中でも一番目立ちたがり屋のジョルジュだ。
余計な一言にはゲンコツで対応することとし、アリスがジョルジュのアタマをゴツんと叩いた音が洞窟内で反響しあって、遠くまで響いていった。
何もない洞窟特有の空虚な反響音が帰ってくるだけだった。ただし、洞窟全体が手彫りか何かのようなので凸凹の起伏がたくさんあるので、アリスのゲンコツパンチ音はすぐに消えた。
「これ、ちょっとずつ下に向かってるな」
渋い顔をして先をゆくジョルジュ、その後に続くアリス、カチャーが足元を見てつぶやいた。
なおちゅうごく（？）かぶれのラマーは、カメラを持っているので最後尾だ。
「この洞窟どこまで続くんだ？」
「なんか向こうに扉があるよー？」
先を進んでいるジョルジュが変な声を出した。
ジョルジュの肩越しにアリスも見てみると、なるほど確かに銀行の地下金庫に使われていそうな鋼鉄製の金庫扉があった。
「さてこれは？」
アリスは顎に指を当てて考える。
「異世界転生者の拠点だ」
これは物知りカチャーの言葉」
「レイドかっ！？ レイドするのかっ！？」
これは、実は意外と武闘派地下アイドル志望のジョルジュの言葉である。
「この先進むなら、これくらい破れなきゃいけないな」
アリスは鉄鋼製扉を足でガンっと蹴飛ばした。
「拳で叩いてたらどんだけ時間かかるんだ？」
「…‥これ扉の脇の岩を掘ったらいいんじゃない？」
ジョルジュが名案を言う。
その言葉にカチャーとアリスが振り返り、しかしまた何か考え込んだ。
「岩を砕くにしてもなあ。わたしは拳でなんか叩かないからな、痛いし」
「石斧かなんかがあればいいんだけど。材料は木材と石と草……」
と、カチャーは言ってジョルジュが背中に装備している二本の木の棒の槍に目を向けた。
通称、ガンタンク装備と呼ばれているものである。
「ジョルジュのその木の槍を解体したら木の枝が手に入るぞ」
「ヤダ！！！」
ジョルジュはカチャーの提案を断固拒否した。
「ちなみに石斧作る分くらいの草ならあたしが持ってる」
カチャーはジョルジュの言葉を無視して、謎の亜空間（転生者がよくいう、いんべんとりいとか言うものである）から草をシュッと取り出した。
「石ならわたしもたまたま持ってる」
アリスもどこからともなく石を出してみせた。
「うーっ、でもそれだとわたしのガンタンクがあ〜……」
「嫌なら拳で岩を叩くことになるぞー？」
「アイドルは拳で石なんか叩かないんですぅ〜。あ、開いたっ！」
なんと、誰が作ったのか分からない鋼鉄製ハッチドアは解錠されていたのだった！
「なーんだ簡単じゃないかーほっほっほー、こんなのわたしの手にかかればイチコロ……」
言って一歩踏み出して、何かがギシイっと音を立てる。
ジョルジュが後ろのみんなを振り返る。ラマーのカメラがジョルジュのアホヅラを捉える。
ミシッと音を立てて、足元の床が消滅する！
これは、まさかのゆるゆるボードトラップ……！
なおゆるゆるボードトラップとは、上にプレイヤー等が乗るときしみ音と共に床が消滅するトラップ専用のブロックである。
「は、謀ったな転生者ウワアアアアアアアー！！！！」
ジョルジュは大きな絶叫をあげながら、ダンジョンの階下層へ落ちていくのであった。
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