第53話 ょぅι゛ょと全裸異世界転生者(はだか)

「ぶへっ!!!」


 洞窟の奥へ進んでいくと、大きめの部屋にたどり着いた。

 目の前に宝箱らしき物が置いてあったのを見てアリス、カチャー、ジョルジュが勢いよく部屋に入っていったのが全ての元凶だった。


 部屋の入り口は、3×3のゆるゆるボードトラップ(耐久力ゼロの落とし穴専用トラップ)だったのだ!



「こんちくしょう誰がこんなのをッ!!!」

 団子状になった幼女三人組が顔を上げると、何とそこには謎の男女複数のクラン……いや集団プレイヤーが!!!



 しかもなぜか中央の男性と思われるプレイヤー(便宜上、転生者と呼称)は、なぜかその場で武器やアイテム、その他諸々も足元にドロップして、オーバーコート一枚に真っ裸となってアリスたちに戦いを挑んできたのだった!


「んなっ!! なあッ!?!?」


 当然だが、アリスたちはこれ以上服を脱ぐことはできない!!

 だがこの敵対的転生者たちのクランは、アリスに裸一貫での戦いを挑んできたわけだ。

 己の拳と拳をぶつけ合って、真の勝者を決めようと言う魂胆だ。


 お手製のリングは玉石壁で作られており、周りは丁寧に木製のスパイクトラップでぐるりと囲まれている。

 落ちたらプレイヤーは即死。

 もちろんアリスも即死!!


 こんな地下リングを作って待っていた謎のプレイヤー……いや転生者は、ある意味公平な勝負がしたくてアリスたちを待っていたのだろう。


 これは奇襲戦であり、戦いであり、そして決闘であった。


 カチャーは謎の超展開に思考がフリーズしているらしく驚愕と戸惑いの表情で固まっていた。

 目立ちたがり屋のジョルジュがいそいそと服を脱ぎかけていたのでアリスが慌てて止めて、小さく舌打ちをすると意を決したように帽子を脱ぎ捨てて、アリスが一歩前に出た。


「あたしがやるッ!」

「えー!? なんでなのわたしが一番映えるところじゃない!!」

「わかった、お前には後でいっぱい目立てるところあげるから」


 アリスは困ったようにジョルジュのことを制すると、一歩一歩と玉石壁のステージへ入っていった。



 相手転生者(プレイヤーの頭の上には当然相手プレイヤーのIDが表示されてしまうのだが、コンプラの問題があるのでモザイク処理しておきましょう)が裸一貫にオーバーコートを着て、低身長アリスの前にでーんと立ちはだかる。

 アリスも負けじと無い胸を張って相手と対等にしようとするが、いかんせん着衣と脱衣の差が如実にグラフィック表現されているので、その差は歴然だ。

 不満に思ったらしい相手クランメンバーが石を投げてくるが、残念ながら投げ石にダメージ判定は存在しない。少なくとも今のバージョンでは。




 突然の展開に誰もが戸惑うばかりであった。

 一番戸惑っているのは…………いや、何でもない。

 プロット作ってないとか、その日のたいちょーで作風が段違いで変わってしまうとかそーいうメタいこと言わないっ!!


 とにかく目の前に現れた謎の男……異世界転生者は、幼女に対して裸一貫の相撲を挑んできたへんたいなのだっ!!!!


「これは犯罪のニオイしかしないぞ」

 ぼそっとアリスが言うと、アリスと謎の裸一貫転生者を見ている一同がゴクリと唾を飲み込み、分かっているのか分かっていないのかよく分からないラマーが無言で大きくうなずく。


 勝負は拳だけ。

 相手は執拗に地面の玉石床を拳で叩き続けた。そして複数回の屈伸動作である。


『かかってこい!』

 相手プレイヤー……いや異世界転生者の無言のメッセージである。


 アリスは落ち着いてアイテム欄を選択すると、アイテムストック一覧から血塗れのバットを持ち出して『装備』『手に装備しますか?』『はい』した。



 見た目(エフェクト)的には何もない亜空間からバットが突然出てきて、アリスがそれを手に持ったかたちだ。

 相手プレイ……異世界転生者はあからさまに動揺したように後ずさった。


 アリスがバットを『装備』したのを合図に、ジョルジュがフライパンを、カチャーがハンドガンを、ラマーが素組みのAKMを片手で構えて相手クランメンバーに向けて乱射した!!


 雨のように大量に降り注がれる鉛弾!

 空を切るフライパン!!

 頭を思いきりぶん殴るバットの音!!!


 転生者メンバーたちが野太い声と共にダウンモーションをとってその場に倒れた時、玉石ブロックで作られた足跡の決闘場に立ったのはアリスであった。


 アリス は たたかいに しょうりした!




「ふん、大したことなかったな。とりあえずアイテムを漁ろうか?」

 倒れたぷれいy……異世界転生者の遺したバッグをアリスたちが漁ると、中には大したものは入っていなかった。

 ただし。見慣れない白い粉のような物がほんの少しだけ入っている。


 カチャーがそれらを指先でなぞり、小さな舌でぺろりと舐める。


「…‥これだ」

「なんだなんだ、何がこれなんだ?」

「この洞窟には、天然の白い粉が眠ってるのさ。こいつら洞窟の奥から帰ってきたから粉を持ってたんだろう」


 カチャーが舐めているそれをアリスも舐めてみると、それは一瞬で舌の奥を痺れさせ、甘いともしょっぱいとも言えない絶妙な味加減かつ奥深いものが、アリスの全神経を痺れさせた。


「んにゃッ!? んな……な、なにこれ」

「ふふ、これは非合法の白い粉さ」

 怪しい笑顔とともにカチャーはぺろりと指先を舐め、恍惚とした表情をした。

「エスカランテのお兄ちゃんは料理をつくるんだろう? その腕は確かに一人前だし、味もいい。けど客がいなけりゃ、いても客が金を払わないかもしれない。だったら逆に、金を払ってでも食べにきたがる物を作って出せばいいんだよ。その調味料がこれさ」

「調味料?」

 アリスは再度、指先にまだ残っている白い粉を鼻先で嗅いだ。


「……これ普通の奴じゃないよな?」

「転生者は好んでこいつを嗜んでる。実はうちの親族の一人が、こいつを使って商売を始めてたんだが、捕まっちまってな」

「ふーん。雑魚いな」


「でもエスカランテのお兄ちゃんなら、まあ捕まらないだろ。あいつ転生者だし」

「見た目だけな。でもまあ、悪くはないかも」

「こいつの母石がこのダンジョンの奥にあるはずだ。もちろん採りに行くよなアリス?」


 カチャーが立ち上がりアリスを振り返る。

「ふん、そうだな。こいつで荒稼ぎしてみようか」

 アリスは血塗れのバットを肩に担ぎ、不敵に笑うのだった。

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