第50話 ょぅι゛ょと穴

 結論から言うと、ラマーはカメラの邪魔になるので早々にフライパンを捨てて素組みのAKMを拾った。


 カチャーは無難にハンドガンを。

 アリスは武器を見つけられなかったので足元のバットを。

 目立つことが大好きな金髪太眉のジョルジュは、右肩に木の槍、左肩にも木の槍、フライパンを右手に持って、もう一つフライパンを尻に装備して一同の先頭に立った。


「なんか……どっかのゲームみたいになってきたな、これ」

 これはカチャーのセリフ。

「異世界って言うのは、ゲームの世界なんだろ? わたしたちはそこの住人で、獣人だ」

 ネコ耳のアリスがバットを肩に当てて言う。


「強盗も犯罪も関係ないよね? あたしこれから、自分たちが強盗やってめっちゃ悪目立ちして最後は巨悪と戦って、犯罪者なりの正義を貫き通してハッピーエンドだと思ってたんだけど」


「ちょさくけんほういはん……」


 ぼそっと、先頭のジョルジュが向こう側を向いたまま言う。

「……」

 ジョルジュの言葉を理解したかしていないのか分からないが、ラマーが無言でうなずいた。



全裸ブリーフの謎の男女集団が縦一列になってマップの隅で無言でほふく前進をしているところを右に曲がると、地下資源が眠っているところに誰かが横穴を掘ったのか、それとも元々洞窟があったのか、人が入れる穴があった。


しかも穴の入り口の外にまで石資源のかけらが露出しており、間違いなくこの横穴の奥には貴重な鉱石が眠っている様に見える。


 それで、横穴の脇には『これよりダンジョン』と書いてあって、地元教育委員会の立て看板と休憩所が作られていた。


 アリスたちのすむ町は教育に熱心なのである。

 ただし、学校はすべて都心部に林立している。

 町の辺境の郊外で生まれた子供達は街を分断する様に通っている高速道路を歩いて渡って行くか、諦めるかしかできなかった。



 高速道路とは何か。

 馬車が時速120キロくらいで走ることのできる片道四車線の魔法の道である。


 最近はゴミ箱や洋式トイレ、耕運機、風呂、草刈り機が時速100キロで道を走れているのだから、この世界では馬車も時速100キロくらいで走れるのは当然なのである。



「ここが、ダンジョンの入り口か」

 地下洞窟入り口には古びた募金箱と朽ちた木箱が置かれており、木箱には蝋燭と安物のマッチが置いてあった。


 アリスは悪い子なので、お金を入れないで蝋燭とマッチを手に取って火をつけた。

 代わりにカチャーが募金箱にお金を入れたので何も問題はない。


 アリスが手に持った蝋燭を洞窟内にかざすと、小さな入り口のすぐ下は崖のように切り立っていた。

 木製のはしごが入り口から伸びている。

「これを、降りるのか」

 アリスがごくりと唾を飲み込むと、それに倣ってカチャーとジョルジュも洞窟の遥か下を覗き込む。


「誰が、先に行く?」

 アリスが他の二人を見た。

「ジャンケンで決めないか?」

 これはカチャーの提案。

 両肩に装備した木の枝の槍が邪魔で洞窟に入れないジョルジュは、槍先を屋根にぶつけてゴッゴッと鈍い音をさせて立ち往生している。

 そしてその三人の様子を、後ろから無言でカメラに納め続けている中華風ようじょのアイシング・ラマー。


「いっせーのっ」

「せーのっ」

 アリスとカチャーが同時に声を出して手のひら同士をパチーンと叩き合う。

「……わたしが入る!!」

「せっ」


 ジョルジュが前傾姿勢だった格好を後ろ向きに切り替え、両肩の木の棒の槍が洞窟に引っかからない体制になって洞窟内に下半身を入れた。


 なおアリスとカチャーは互いにチョキを出していた。


「なーにこんな穴くらい大したことないわよ! こんなのどーせすぐ下についちゃギャーーーッ!!!」


 ジョルジュの腰が洞窟の中に入り込んだか否かのタイミングで、ジョルジュの脚が何かを勢いよく踏み抜いた様子で勢いよく洞窟の中に落ちていった。


 その瞬間を、ねこ耳族のアリスは鋭い動体視力ではっきりと見ていた。

 アホみたいに大きな口を開けて、目をまん丸にひん剥いて、手は何かを掴もうとして上に突き上げているジョルジュの姿を。

「ああああああああーーー!!!!」


 ジョルジュの悲鳴が洞窟の奥から響いてきて、最後はベチーンと大きな音がして静かになった。

 アリスとカチャーは互いに見合い、とりあえずジョルジュの安全を確認しようという感じでお互いに頷き合った。


 声がけはアリスが行った。一応リーダーなので。

「おーい! だーいじょうぶかぁー!?」


 かあーっ

 ……あーっ

 ……ぁーっ

 ……ーっ


「……ぃきてるー」


 谷底から出てきた声みたいな感じで、ジョルジュの声が聞こえてきた。

 声の様子から、洞窟はだいぶ深いらしい。


「これ梯子が壊れてるな?」

 アリスは声の様子からジョルジュの無事を察したが、次にどうやって自分たちも洞窟に入るかを考えなければならなくなった。

「あーめんどいな。こういう時にどっかロープでもあればいいんだけど」

 そう言ってふとラマーを見ると、なぜかラマーは一本の長いロープを手に持っていた。


「なんだそれ。いやそれ、今どっから出してきた?」

「そういや前にジョルジュが言ってたな。ラマーは元々、サーカス団で働いてたって」


 何だかよくわからないが何か理解しているっぽいカチャーを、置いてきぼりのアリスは目を向けた。

 で。

 何だかわからないが、ラマーもカチャーの言葉に黙って頷く。


「ま、まあいいや。たしかに、これを使えば梯子がなくても洞窟を降りられるな。で、誰から行く?」


 サッと、ラマーがアリスに手をかざした。

 カチャーもアリスに手をかざす。

「……お、おまえらは。てかお前も、実は言葉わかってんだろ」


 アリスの問いかけに、ラマーは分かっているのか分かっていないのか判然としない表情で、口元を閉じたままゆっくりと頷く。

 アリスは釈然としないのであった。

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