第49話 ょぅι゛ょと冒険とフライパンと



 全裸中年転生者の水浴び池から逃げてきたアリスたち一行は、次に大きな丁字路に差し掛かった。


 アリスたちが歩いている道は、昔誰かが掘った大きな溝の底だった。所々土が崩れてはいるが、かつてそこが道であったであろう痕跡はいくつも見つけられた。


 おそらく人間がこの道を使わなくなってからも、獣たちが道を道として使っているのだろう。


「待って、この先に何かいたりするんじゃないの」

 丁字路の曲がり角に来て、アリスは身をかがめて立ち止まった。


 カチャーたち一同は、緊張した顔でアリスの後ろに隠れる。

 一団の一番先頭にいるジョルジュがごくりと唾を飲み、アリスはジョルジュの隣を屈んだ姿勢で追い抜いていき丁字路の淵までしゃがんだ格好で歩いて行った。


 緊張の一瞬。

 その姿をラマーがカメラで納める。


 アリスはゆっくりと、自分の身体の正面を壁にえぐり込ませるように押し付けながら、体を回転させた。


「……何をしてるんだ?」

 カチャーが当然の疑問を口に出した。

「壁チラ」

 アリスは真剣な眼差しで壁を睨みながらカチャーに答えた。


「ほら、三人称視点だといい具合に壁に潜り込むと、曲がり角の向こう側が覗けるだろ?」

「……それ、ゲームの話じゃん」

「ああ。偉い人が言っていたんだ。異世界転生者が転生する先は、ゲームの世界だってな」

 進行方向から斜め125度前後を向いて屈伸を繰り返し、壁を睨むアリスの目はまさに真剣そのものだ。


「カチャーもやってみろよ。ステータスオン! って」

「え、えええー……す、すてーたすおん」

 消え入りそうな声でカチャーが唱えた。


 だが、特になにも画面表示とかステータスが表示されるとか、そういう魔法は出てこなかった。



「なんだよ出ないじゃないか」

「ふっふっふ、ついにわたしの出番のようだねカチャーちゃん」

 隣で興味深そうにカチャーたちを見ていたジョルジュが、長いアイドルスカートの中からキーボードを取り出してカチャーに手渡した。


「あ?」

「ショートカットキーを押してみよう」


 突然のキーボードを手渡されて、カチャーはとりあえず適当に、Yのボタンを押してみた。


「……なんか出てきた」

「カチャーちゃんは頭でっかちのところにスキルポイント全振りしてる」

「え、あ、ああ?」


「しっ!!! 銃声が聞こえる!」

 アリスが言うと、壁の向こう側からパパパパンと何かが破裂する音が聞こえた。


 銃器に詳しくはないのでどの様な武器が使われたのかは分からないが、誰かが誰かと戦っているというのは分かった。

 たぶん敵は転生者だろうが、何人いるのか、クランメンバーなのかどんな武器を使っているのか一切が分からない。


 アリスが覗く丁字路の壁の向こう側をカチャー、ジョルジュ、それからカメラマン役のラマーが覗くと、再び銃声がして白ブリーフ一丁の中年男性たちが武器を持って駆けて行くのが見えた。


「何で転生者ってみんな変なおっさんなんだ?」


 次いで車の音。

 エンジン音が鳴り響いて、次第に音はアリスたちの隠れている丁字路から離れて行った。



 ふと見ると、足元には人数分のフライパンが落ちている。

 アリスは他のみんなと目くばせすると、とりあえずフライパンを持って先に進むようみんなに目くばせした。

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