第48話 ょぅι゛ょと全裸中年転生者アゲイン

 意味がちょっとよく分からないやりとりをするカチャーとアリス、先頭をなぜか神妙な顔つきで進む地下アイドル志望のゆーちゅーばぁ? ジョルジュ、最後尾には先の三人を追ってカメラに納める役のラマーが続いた。


 余談であるが今後もキャラクターは増えていく。

 誰が誰だか分からなくなってくるだろうが、そう言う時はぜひストロングゼロをウォッカで割ったものを引用……飲用していただきたい。


 なおラマーの特技はその身軽さと手先の器用さなので、立っている場所はだいたい部屋の隅の上の方とか、近くの木の枝の下に中国雑技団のように片足でぶら下がっているとか、一輪車の上に逆さまになって乗っていると考えていただきたい。

 なんの獣人か考えるのも忘れていたが、彼女はアライグマ族である。




 ラマーは木の上でカメラ撮影を続行しながら、逆さまの状態で器用にウーンと考えた。





「たまに誰が誰だかわからなくなる時があるんだよな」

 唐突に、色々な意味で意味深な言葉をカチャーがぼそっと呟いた。

 アリスは特に気に留めなかったが、先頭のジョルジュが真剣な眼差しでこちらを振り向き、咎めるような口調で言った。

「それは少しお酒が足りないんじゃないか? それともわたしのかわいさが足りないのか」

「どっちでもねえよ。それよりもっと前に進んでくれ」

「しっ!!!! 待てカチャー、前方になにか見えるぞっ!」

 ジョルジュが右腕を横に伸ばし全員を静止させる。

 草むらからそっと前方の様子を伺う探検隊のノリのジョルジュに、後からカチャーとアリスも続いて前の方を伺った。


 三人プラスカメラマン一人の進む先には湿地帯があった。

 水深はそれなりにありそうだ。

 所々に草が生え、水鳥たちと共にいつかどこかで見た全裸中年の転生者たちが楽しそうに水浴びをしていた。


 

「あれはッ……この地方の部族に伝わる伝説の湖じゃないか?」

「いやただの変態だろ」

「ここにいつづけるのはアブナイ、奴らに気づかれる可能性があるっ」


 ノリノリのジョルジュが真剣な表情で、太眉を寄せた。


「意外となあ。あいつら力とかあんまり無さそうだし、こっちから手を出さなければ無害だと思うんだが」

 そう言うのは、このケモ耳チームで唯一と言って良いほどの、自称知識派のカチャー。


「いいや、奴らは危険だ。意外と戦闘力はあったぞ」

 アリスは帽子のツバの下で、細い目をさらに細くした。

 なおアリスはネコ族のケモ耳娘であったが、帽子からネコ耳は出さないタイプだった。

 たぶんスコティッシュフォールド的な小さい耳なのだろう。



「……っイーックシ!!!」

 カチャーがちょっと大きめにくしゃみをした。


 カチャーはハクビシン族である。

 某地方では食べられる動物として飼われているらしいがそんな世界線はこの地方にはない。

 ただ純粋に、鼻に小さく白い線が走っているケモ耳の女の子だ。


「どうした、風邪か?」

 アリスが言うとカチャーはちょっと頭を抑えながらうつむいた。

「わからん……さいきん咳とくしゃみが止まらなくってな」

「最近変なコウモリとか食べてないだろうな」

「いやーそんなことないけどな。ッくしっ……!!!」


カチャーが大きくくしゃみをして、その音が森中に響き渡る。

 アリスたち全員がその音に固まったが、湖畔の全裸中年転生者たちはキャッキャッとはしゃいで水をかけあっており、カチャーのくしゃみに気づいていない様子。



「とりあえず、脇に逸れていこう」

 アリスが提案するとカチャーは小さくコンコンと咳をしながら頷き、ジョルジュは太眉を寄せて真剣な顔で大きく頷いた。

「そうだな。ここは、それぞれの特技を活かして進むことにしよう」

 ジャングル探検隊の隊長ばりにドスを効かせた声でジョルジュが提案する。


「と、特技ねえ」

 カチャーが鼻をズルズルと鳴らしながら言った。

「あたしはハクビシンだ」

「じゃあなんとでもなるよね?」

「あ、おう」

 ジョルジュが言うと、カチャーは若干変な顔をしながら頷いた。


「わたしはどうするんだ」

「アリスはネコ耳族だし、普通に歩いても目立たないんじゃないかな。んでわたしもキツネ族だし?」


 言ってジョルジュは無意味に口先を尖らせ、ニュアンス的に自分がキツネ族であることを(読者に)アピールした。


 ジョルジュのケモ耳は当然、長い金色のやつである。


 それで、アリスとジョルジュとカチャーが一番後ろを振り向いた。

 そこにいるのは、二本足で立ってカメラをいじっているアライグマ族のラマーである。


 二本足で立つその姿は、まるでレッサーパンダの風太君のよう!!


「あ……アラ……アラ……」

 

「そんなムリしてアライグマっぽくしなくてもいいんだよ?」

 何となくむりやりそれっぽく発音したラマーに、ジョルジュがピシャリと言う。



「とにかく、あの犯罪者っぽいあいつらに見つからないようにここを通り抜ければいいんだろ?」

「ザッツライ!」


 自分の一芸を完璧にスルーされ落ち込んでいるラマーを尻目に、アリス、カチャー、ジョルジュたちは各々の獣人としての特性を利用してこの場を掻い潜る算段を立てていった。


 ジョルジュとアリスは元々が目立ちにくい野生種のようなものなので、木陰に隠れて何なくその場を避けていった。


 カチャーはカチャーで、都会育ちのハクビシンらしく電線をつたって転生者たちをよけていったが、電線の途中で立ち止まると「くっちゅん!!!!!!」と大きなくしゃみをしていった。


 さいわい全裸の転生者たちはカチャーのくしゃみにも気づかず水遊びを楽しんでいたが、残されたのはアライグマ族のラマーである。


 バカバカしいとは思ったが特に名案も思いつかず、またカメラマンなので先を行く一行を置いて先に帰ってはいけないという使命感があってからか、なんとなーくアライグマっぽい雰囲気を出しながら(本人談)、湖畔を横切る小道を歩いていくのだった。





 ところで後日談であるが、カチャーの謎のくしゃみと咳があってかどうかは某政府は認めていないが、世界をまたにかける全裸中年転生者たちが一番最初にかかったこの謎の病気ウィルスのせいで、ここを起点に世界を巻き込む感染症の大流行が起こったとか起こらないとか……?

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