第46話 ょぅι゛ょとダンジョン入り口

 ルール1、他人に背中を任せるな



 



 それっぽいことを言ってみたが、アリスたちは全力で自分たちの背中を完全な他人であるラマーに預けて前に進んでいた。


 ちなみにラマーは、前回の銀行強盗のときに仲間だったけも耳幼女の片割れである。

 当時は暗かったし覆面もしていたのでアリスも彼女のことをよく覚えていない……わけはないはずなのだが、ネコ耳盗賊幼女アリスは熱しやすく冷めやすい性格だったので完全にラマーのことを忘れていた。


「あ、そうだ。あたしもあんたらとは別行動なの忘れてたわ」

 カチャーが唐突に立ち止まった。


「なにをいまさら」

「今更もなにも、あたしはスジを通す」

「カメラナイ……カメラコワイ……⭐︎」


 カメラを取り上げられ脂汗を流しているジョルジュが、ぐるぐる目でアリスを振り返った。

「……カメラ」

 緊張しすぎてか、ジョルジュは唯一の特徴である語尾すら怪しくなりつつある。

「ええい、おまえはカメラがないと生きていけないカメラオタクかっ。おまえがやんなきゃいけないのは、カメラを映す方じゃなくて映る方だろ?」

「デ、デモ-……」

「いいからとっとと歩け!」

 アリスがジョルジュの背中をげしげしとサンダル足で蹴飛ばし、その様子を当然のようにラマーはカメラで撮っていた。



 雑草と背の低い木の生えた獣道をしばらく歩くと、道は唐突に横にそれて、代わりに大きな窪みが出てきた。


 明らかに人為的に作られた窪みのようで、古い塹壕か何かのように見える。アリスたちには塹壕という概念がなかったので何か不思議な窪みのように見ているようだったが、地面に掘られた窪みとやらは、明らかにどこかへと通じている窪みだった。

腐った木片があちこちに落ちており、しかもそれらの木片は自然のものではなく完全な丸太だ。


 カチャーが塹壕の一方を指した。

「あっちに入り口がある」

「何でおまえ、こんなところ知ってるんだ?」

「このまえグー○ルマップ見てたらたまたま見つけたんだよ。クチコミもいい感じだった」

 アリスにはカチャーの言っていることが一ミリも理解できなかった。

 アリスは、機械に関しては完全にアナログ派なのだ。



 同じ飯を食うケモ耳の幼女三匹プラス一匹が古い朽ちかけの塹壕あとを縦列探索していると、一同はコンクリート製と思われる大きな平場にやってきて止まった。


 一方にはさらに向こう側へと続く溝。

 もう一方には、穴である。半分土砂で埋まっており、入り口は本来あったであろうはずの穴の大きさの十分の一程度まで小さくなっている。


「これが入り口だな。さて誰から入る?」

 カチャーが振り返りアリスを見た。

 アリスは戸惑った。まず自分はサンダルである。それに出立ちは、下半身はジャージ、上はよくあるマフィアが着てそうな黒のジャケット、黒のキャップ帽。

 泥で汚れたら一大事である。


「いいい、言い出しっぺが一番最初だろ!?」

「あたしはほら、フィクサー役だから」

「自分だけインテリぶってんじゃねーぞっ」


 カメラを回していたラマーがため息をつき、何かを言いかけ手をあげる。

「わたしが⭐︎入る!!!」

 ジョルジュが、気合を入れた感じで胸を張った。


 ジョルジュはいつものアイドル的なひらひらした服だ。

「これはおいしいんだこれはおいしいんだこれはおいしいんだァァァ……」

「お、おい。ジョルジュ、ムリするなよ?」

「入る、入る、入る」

 よく見ても見なくても洞窟入り口付近には、小さくて黒い節足昆虫が出たり入ったりしていた。

「ジョルジュ?」

「入るって言ってンだろうがあああー!! あ゛あ゛!? アイドル舐めんなクソがァッ!!!」」


 そう言うと、ジョルジュは誰も何も言ってないのに細い腕でアイドル服の袖(もともとほぼ無い)を腕まくりして、小さい洞窟の入り口の崖を勢いよく登り切り、その勢いのまま洞窟入り口に向かって頭から飛び込んでいった。

「ンァァァァァァーーーーーーー!!!!」




 その様子を見ていたアリスはただただドン引きしていた。

「これ、ダンジョンに入るってだけの話だったよな!?」

「ダンジョンはダンジョンだぞ。グー○ルマップのクチコミにも、ここが一番入りやすいって書いてある」

「それ本当なのか!? 信じていいのかそれ!」

「グーグ○は正しい。ぐるな○より信用できる」

「それおまえの感想だろ」

「アーーーーーーーッ!!!!!!!」

 洞窟の中からジョルジュの絶叫が聞こえてきたため、アリスとカチャーは仕方なく言い合いをやめた。



「しょうがねえなあ。わーったよ、入ってやるよ」

「それでこそアリスだ」

 カチャーはアリスを見てニヤリと笑ってみせる。

 アリスは仏頂面のまま、黒いキャップ帽をぐいっと目深に被り直した。

「わたしは入るさ。おまえも入るんだぞ?」

「ジョルジュのあれを見てたら、あたしも入ってみたくはなった」

 カチャーがアリスと目を合わせると、二人は一緒ににへらと笑った。

 その様子を今回はカメラマン役のラマーが黙って写し続ける。


「ァーーーーっっっっっ!!!!!」

 洞窟の中から、ジョルジュの情けない声がまた響いた。

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