第44話 ょぅι゛ょとテスト

 アリスたちのパーティに新しく加わった獣人の幼女は、アリスに負けずとも劣らずの気難しそうな顔つきをしていた。


 硬く結んだへの字の口に、麻のハンチング帽。帽子をかぶっているんだから何の獣人かわからないが、帽子のツバから覗く隙のない目つきは無口な口以上に雄弁に言葉を語っている。

 とりあえず話を聞こうかとアリスたちが入った場末の飲み屋(当然ノンアルコールも取り扱っている)に入ると、ケモ耳幼女はテーブルの上にどっかと足を投げ出し椅子にふんぞり返った。



 なお彼女は、朱色のホットパンツを履いている。当然パンツは見えない。


「…………」

 無口な幼女は、注文を聞きにきたマスターに黙ってスタンドに並べられている一本の瓶ジュースを指差して注文した。


「こ、この。ずいぶんと余裕そうじゃないか。さっきまでこんな奴だったか?」

「たぶん仕事モードと私服モードで違うんじゃないのか?」


 アリスの目の前でゆうゆうとジュースを飲む幼女に、アリスは目をしげしげとさせた。

「思ってたんだけど、もしかしてどこかで会ってるか?」


 アリスは顔を若干傾けながら幼女に問いかけた。

 だが謎の幼女はかぶりをふり、小さい両肩を上げて知らないような素振りをした。

 むしろまだ名前も名乗っていない。


「うちの叔母さんから履歴書もらってるんだけど、名前はラマーとかいうらしい」

「この前どっかにいたよな?」

 アリスは目の前にいる幼女の顔をしげしげと見つめた。


「性別は女。年齢不詳。特技はちゅうごく? 拳法、あと手先が器用」


 ラマーと呼ばれた幼女は革のハンチング帽をかぶったまま、ストローで飲んでいたジュースをごぼぼぼぼと音を立ててすすった。


「不採用」

「出身はちゅう……ごく? なんか、中の国から来てるらしい」

「態度が悪いから不採用」

「志望動機は、カネが欲しいから」

「ほう」

 アリスは、こいつ率直な奴だなと思った。


「機械いじりが得意で、車やバイクの運転もできるらしい」

「車ねえ。ああ、そういや前に車運転してたのもコイツだったっけ」


 自分で言ってアリスはもう一度目の前の幼女の顔を見つめた。

「こんな顔だったっけ? ちょっと立ってみな?」


 アリスが言うと、ラマーは素直にテーブルの脇に立って見せた。

 アリスも一緒に前に立ってみた。

「うーん。いや背低すぎない? どうやってアクセル踏むの」

「?」

 ラマーは反抗的な目つきでアリスを睨みあげた。


「ま、まあいいや。続けて」

「あとは特にないけど。やる気だけはあるって書いてある」

「ホントかよ。それで? 言葉は通じるの?」

 アリスとカチャーがラマーの方を見ると、幼女ラマーはゆっくりと頷いた。


「通じるって言ってるみたい、かな?」

「絶対ウソだっ! コイツ空気読んで頷いてるだけだっ!」

 疑うアリスがラマーを見て、一緒にカチャーもラマーを見た。

 ラマーは二人に見つめられて、自信ありげにうなずいた。


「これ絶対通じてないよー!」

「見た目だけで人を判断しちゃいけないなあ」

 カチャーは履歴書をペラっとめくった。

「職歴がたくさんあるし、旅もしてるらしいから色々器用なんだろ」

「職歴ぃ?」

「趣味は旅行。あんた一人旅が好きなのか?」

 カチャーがラマーを見ると、ラマーはゆっくりとうなずいた。


「これ本当に通じてるのか?」

「最終判断はボスのアリスが決めればいい」

「丸投げすんなよ。あー。ニホンゴツウジルカ?」


 アリスが幼女ラマーに改めて問いかけると、ラマーは革細工の帽子越しにスッと目線を上げた。

「……」

「前金200ゴールドで何でもやってやるってさ⭐︎」


 脇からひょっこりとジョルジュが顔を覗かせて言った。


「あ? 前金?」

「あと衣食住があると助かるってっ⭐︎」

「衣食住なんか知るかッ!!! てかジョルジュ、なんでコイツの言葉がわかるんだ?」

「ぐーぐる⭐︎翻訳っ!」

 ばばーんとジョルジュがすまーとふぉんっぽいものを出して、得意げにふふんと笑った。


「世界はアリスちゃんの知らない間にどんどん進化していってるのですっ⭐︎」

「あっそー。進化ついでにそいつに言ってやってくれ。機械の扱いはうまいか?」


 アリスが言うと、ジョルジュはすまーとふぉーんのような白い箱状の何かをぽちぽちと押して、ラマーの前にかざした。

 ラマーもそれを見て、それからアリスを見て自身ありげに頷いてみせた。


「ははんなるほど。じゃあ、本採用の前に使い物になるかどうか、テストしてみようぜ。おいジョルジュ、おまえその機械をそいつに渡せ」


 アリスとラマーの話し合いに余裕そうな顔で首を突っ込んでいたジョルジュが、突然顔を真っ青にしてアリスを見た。


「え、あ⭐︎んん!?」

「カメラ持つの禁止。カメラはこれからそいつに使わせる。で、今朝言ってたナントカの洞窟にみんなで行ってみようじゃないか。よろこべジョルジュ、今回はおまえが主役だぞ」


困惑して固まり口をパクパクさせるジョルジュをよそに、ラマーはジョルジュの手からすまーとふぉん的な何かを取ってポチポチと何かをおすと、ラマーはジョルジュにそれを向けてパシャっとシャッターを切るのだった。

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