第42話 ょぅι゛ょとスカウト
「いよう諸君。仕事を持ってきてやったぞ」
なんだか上機嫌なカチャーが笑顔満面で言った。
「しかも今日はオトナの仕事だ。あ、そっちのアニキもこっちきなよ」
「あ? オレも?」
「そうさ。アニキは自分の店をやりたいんだろ? あたしが仕入れた、とっておきの情報がある」
そういうとハクビシン特有のまるっこいケモ耳をぴこぴことさせるカチャーは、得意げに鼻をふふんと鳴らした。
でもって、デン! とアリスたちの目の前に一本の皮袋を放り投げる。
皮袋の中にはなにか液体が入っている。量や大きさはとうぜん、カチャーも幼女なので幼女なりにもってこれる程度の大きさだ。
「これは酒だ」
「酒ぇ?」
アリスは胡散臭そうに皮袋を見下ろした。
「そうだ。でもただの酒じゃない、ここから北に数キロ行った先の森で汲んだ聖水と、黒魔法のダンジョンで採れる魔法の白い粉を入れた極上の酒だ」
「ただの酒じゃんか」
「水と白い粉以外は普通だな。けどこの白い粉が重要なんだぜ。なんとこの粉、味はしないしあたしら獣人には無害だけど、どうもニンゲンには中毒性があるらしい」
「中毒」
瞳にあきらかに怪訝な雰囲気を宿したエスカランティスが言葉を反芻した。
「使う量は微量でいい。材料は無料。アニキはおかねないんだろ?」
「いやまあ確かに金はないけれど、でもそれ、麻薬みたいなものなんじゃないのか?」
「? マヤク? マヤクがなんなのかあたしはわかんないけど、でも害はないらしいぞ」
「……いま中毒性があるって言ってただろ?」
「害はない、らしい。まあ飲んでみ」
カチャーが皮袋を持ってエスカランティスの前に陣取る。
タイミングよくジョルジュがエスカランティスを後ろから羽交い締めにする。
どこからともなく持ってきたイスの上に立ち、カチャーが皮袋の口をエスカランティスの口に突っ込む!
とどめにアリスが、皮袋の底をぎゅっとにぎって中身を絞り出した。
「ぶぉぇあ!? ゲホー!!!」
「どうだ、うまいだろアニキ!」
「ゲッホ!! ゲホ!!! は、鼻から全部でた……」
「ん? まだ足りないのか。じゃあ」
「ン! いやわかった! もういい!」
「まあそう言うなよ」
カチャーはジョルジュがまだエスカランティスを羽交い締めにしているのを確認してから、アリスの方をチラリと見た。
アリスもわかったといったふうに小さく頷くが、残念ながらアリスの持つ小さな皮袋はもう空になっていた。
「まあ、早い話しがサケだよアニキ。食べ物売るより、ここらへんの奴らが欲しがってるのはサケと、あとはヤクさ」
「オレは合法のものしか売らないぞ!?」
「法と正義は転生者が決める。うちらはただ流れに身を任せればいいのさ」
カチャーは知ったようにそう言った。
こういう賢そうなことを言うカチャーがアリスは気に入らなかったが、なにかいい言葉は特に浮かばなかったので黙っていることにした。
アリスとしては、自分たち獣人こそがこの世界の中心になるべきだと考えているのだ。
今は妙案がないのだ。
「アニキは転生者なんだろ?」
「いやそりゃあ……そうなのかもしれないけど、魔法なんて使えないからなあ」
「ふーん? 魔法が使えない転生者なんて聞いたことがないけど?」
カチャーはジロジロとこの耳ナシ族のエスカランティスを見たが、疑い深く胡散臭そうにエスカランティスを見ていたその目は急に明るくなる。
「まあいいさ。うちらとしては安全に商売できて、成り上がれればそれでいい。いざとなりゃアニキの顔を使えばいいのさ。転生者としてな」
「お、オレをダシに使うのか?」
「嫌ならやめてもいいんだよ? このスラム街で、魔法の使えない耳ナシが何日生きていられるのか楽しみだけどねえ」
カチャーが意地悪く笑った。
「それ映える!! それ絶対動画映えするッ⭐︎」
「わーかったよ勝手にしてくれ! でもおまえら……いや、キミたちと一緒にオレは遊んであげれないからな? オレはこの店を守るんだ、どうせキミたち腹ぺこになって帰ってくるだろ」
「ふふん、うちらをそこらへんのヨージョと一緒にしないでくれるかい?」
ばんっと、カチャーがアリスの背中を強めに叩いた。
「うっ!? ってーなコノヤロウ!」
「アリスがいれば、うちらの方は百人力さ。そうだろう?」
「ちぇっ。勝手なこと言いやがって、このイモムシカラアゲ野郎め」
「あ? なんだ文句あんのか」
「口だけ出してジブンはなにもしませんーみたいな奴の言うことなんか、誰が聞くかってンだ」
「おー言ってくれるじゃないか、おまえはいつだって口だけで計画も何もあったもんじゃないもんな。なあ、アリス?」
「あんだよ! やるか!?」
「そっちこそケンカ売ってきたんだろオモテでろっ!」
「ちょっとー! わたしのためにケンカするなんてやめてよーっ⭐︎」
「「おまえは黙ってろ!!!」」
アリスとカチャーは一緒になってジョルジュMを叱りつけた。
「ん。でもそこのダンジョン? にうちらで入るんなら、テメーも一緒に入らなきゃいけないってことだぞカチャー?」
「あたしは入らない。ただおまえ達に教えてやっただけだ」
「んだよそれ……でも、そーすると」
アリスはちらっとエスカランティスを見て、大きく頭を横に振った。
「?」
「オトナになると、ぼうけんってのはなぜかできなくなるらしいぜ。しらんけど」
アリスはとぼけた様子で肩をすくませると、まぶかにかぶった黒のキャップ帽のツバの奥から、への字に曲げた口元と一緒にじろりとジョルジュを見た。
「?」
「もうひとり、ほしいな。手先が器用で素直なやつ」
「心当たりはあるぞ」
どこから取り出したかわからない木の葉付きの枝を取り出して、カチャーはそれを口にくわえて話した。
「とっておきの奴だ」
「おまえのとっておきは信用ならん。本当に使える奴なのか?」
アリスも負けじとどこから取り出したのか棒付きキャンディーを取り出して、タバコかなにかのように口の中に突っ込んだ。
「安心しろ。うちの親戚に人材派遣会社やってる奴がいてな」
「おまえの一族はいったい何者なんだ」
「地方上がりの、しがない転生者様のいちゲボクさ」
「ケッ、おまえに獣人のプライドってのはないのか」
「プライドだけじゃ飯は食えないって、死んだじいちゃんの遺言でなあ」
不敵に笑うカチャーと、カチャーを下から睨みつけるアリスの睨み合いはしばらく続いた。
というわけで、アリス、カチャー、それから居候系ゆーちゅーばーのジョルジュは、カチャーの親戚が用意したという犯罪仲間? と会うことにした。
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