第41話 ょぅι゛ょとおしごとの始まり
翌朝。
硬い木の板の上で起きたアリスは寝不足であった。
とうぜんベッドで寝ればいいのではあるが、エスカランティスの家にそんなものはない。
夜中に寒くて何度もくしゃみをしたが、その度に目が覚めて寝るどころではなかった。
寝ぼけ眼のジト目で現状を理解しようとしていると、表の扉を勢いよく開けてエスカランティスがやってきた。
「おはようアリス!! さあ手伝ってくれ!!」
快活に叫んだ大男は、イラッとするほど爽やかな笑顔でアリスに言った。
「ああ? 手伝うぅ?」
「食べられる草を摘んできたんだ。みんなの分も取ってきてあるから、これからガラを仕分けなきゃあいけない」
「パぁス! わたしは寝る」
「はっはっはっ手伝ってくれるのか!! それは助かるなあ!」
「何を言ってるんだこの筋肉ダルマは。わたしは肉食だっ」
「カチャーちゃんの持ってきてた揚げ物ならまだ残ってるけど、あれを食べるのか?」
イラッとするエスカランティスのその言葉に、アリスは昨晩食べてしまったあの例の揚げ物の奴を思い出して、毛玉を吐き出すときみたいな顔をした。
不本意ながら、意外とおいしかったのだ。
「勘弁してくれよアニぃ……いや、うぉっほん!!!!!」
アリスは記憶の彼方にある、自分を本当の妹のように可愛がってくれたオウドという人間を思い出していた。
あれが、本当に優しい人だったのだ。
本当の兄だと思って慕っていたのに、気づいたらあの男は転生者に殺されてしまっていたのだ。
そんな苦い記憶はまだ頭の中にこびりついている。なのに、こんな男とあの人を一緒に見てしまうなんて!!
「?」
「わ、わたしは悪党だ! 盗賊なんだ! わたしたちネコ耳族は下働きなどしないっ、下等なことはみんな奴隷にでもやらせるのがフツーなんだ!」
「自分で作ったものだからこそ、最高に美味しいものってのが作れることもあるぞ?」
「わたしのさいこうは、そういうものじゃないの!!!!!」
アリスは激昂し、エスカランティスの目をキッと睨みつけたあとに小さくくしゃみをした。
「わたしには、アニぃ……アニキが作ってくれたのが一番美味しいんだ」
「ふぅん? それがどんなものだったのか、わかるか?」
「わからないけど、お前に作れないことだけは確かだね!」
アリスは地下室へ続く扉が半開きになって、下からジョルジュの目が覗いているのを見てバツが悪そうにした。
「なに見てるんだよ!!」
「いやー、仲良さそうだなって⭐︎」
ジョルジュの言葉に、アリスはぎろりとした目でジョルジュを睨んだ。
「あとでひどい目にあわせてやるから、覚えとけよっ」
「……そだねー⭐︎」
ジョルジュはいつも通りの様子をしてみせたようだったが、アリスはジョルジュの表情を見て、まだ何か悩んでいるなと感じたのだった。
ジョルジュの夢が何なのかとかどうかとか、そう言うのを考えるのは自分の役じゃない。
けれど自分たちが、これから何をどうしていきたいかを考えるのはアリスの仕事だった。
ということは、仲間であるジョルジュの夢を考えてやることも、アリスの仕事の一つでもあると、その小さな頭では考えていたのだ。
げんなりする。
そこへコツコツと、窓を叩く何者かの音が聞こえた。
おそらくカチャーが、今日の仕事を伝えにやって来たのだろう。
アリスは勢いよく窓を開いた。
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