第40話 ょぅι゛ょと嫉妬
その日の夜。
アリスたち三人は悪い子なので、寝る前に市場にやってきた。
当然、市場をぶらつくのは明日以降のお仕事の下見のためである。
冷静に考えると夜中に幼女が大人を連れないで出歩けるのは、そうとう治安がいいような気がする。
やはり、本当に悪いことをするのは愚かな人類だけなのだろう。
「なんかだんだん不安になってきた」
歩きながらボソッといったのは、カチャーだった。
「あ?」
「いや、おまえら今のままじゃ全然ダメダメじゃん。勢いだけっつーか、その場その場でデタラメっつーか」
「いきあたりばったり⭐︎」
「そうそれ…‥って、ジョルジュなに食べてるんだ?」
「んー、おいしいものッ⭐︎」
ジョルジュMは茶色くてホクホク湯気を漂わせる棒のようなものを食べていた。
一言で言うと、ぶ厚いクレープ生地のようなものをぐるぐる巻きにして紙に包んだお菓子のようなものだ。
ジョルジュは長いお菓子を口に入れたまま、自撮り棒を構えてアリスたち二人の隣に立った。
「いまー、ジョルジュちゃんたちは町のお祭りにやってきてまーす⭐︎」
「お、おいやめろっ! これ撮影してんのか!?」
アリスは慌ててジョルジュから離れ、黒い帽子をまぶかにかぶって顔を隠した。
だが当然のことながら、どう顔を隠してもその小さな体や肩まで伸ばした黒い髪、特徴的なネコ耳までは隠せるはずもなくジョルジュのカメラはどこまでもアリスの姿を捉えて離さない。
「コメント増えてきたっ⭐︎」
「ライブ配信!?」
「かーわいいー、だってー⭐︎」
「ばっフザケンナ!! おいカメラこっちによこせ!」
アリスは怒って、自撮り棒とスマホと棒菓子を起用に持って見ているジョルジュの手元から、スマホとカメラを取り上げようとした。
「あっ待って! おーーー、ネックレスと革ジャンなのにちっちゃく、かわいーって⭐︎」
「!?」
アリスはバッと顔を帽子のツバで隠した。
だが、ジョルジュのカメラだけは取り上げたい。
そこで帽子を目深にかぶり目がほとんど見えない状態で、手当たり次第にジョルジュのカメラがありそうなところに手を伸ばした。
「やばいコメントがどんどん増えていってる……⭐︎」
「アーッ! ヤメロー!」
「えー待って待ってジョルジュ史上いちばん見てる人多いッ⭐︎ 動画見てるみんなー! チャンネル登録よろしくー!!」
「見るなー!! 見んじゃねえーッ!!」
「オホォこれはいい数いく……ん!?⭐︎」
アリスががむしゃらに腕をぶん回したのが功を奏したか、突然アリスの拳に硬いものがぶつかって勢いよく吹き飛んでいく感触が伝わった。
ガシャンと音がして、アリスとしては何か目的を達せられたような気配を感じた。
目線を上げてみると、呆然とした状態で突っ立っているジョルジュと地面に落ちたカメラ、アリスとジョルジュを呆れた顔で見ているカチャーがいた。
「まったくなにやってるんだか。それがこれからデカい山狙うやつのすることかよ」
「ちぇっ。でかいヤマ踏む前に顔バレしたら、そもそも仕事ができないぜ。おいジョルジュ、どうしたんだ?」
「カメラ、こわれた」
悲しげな表情でジョルジュがアリスを振り向く。
「カメラ、壊れたー」
「あー、ったく! カメラの一つや二つや三つ四つなんて、ちょろっと働けばすぐ買えるじゃないか。何をそんな泣きそうな顔してるんだよ」
「あー、衣装も破れてるー」
「チッ、そんなひらひらした服着てる方がおかしいだろ」
「ゲホゲホ、すなぼこりもヒドイー。わたしかえるー」
ジョルジュがそう言ってフラフラーっと道を歩いていくと、タイミングよく大型貨物車が道を走っていきもうもうと白い砂煙を撒き散らして行った。
その様子を後ろから見ていたカチャーは、腕を組み顔を斜めに傾けた。
「なんだアイツ。なんか、とつぜん元気なくなったな」
「どうせ眠くなって家に帰ったんだろ」
「そうかー? おっ、アイツのスマホが落ちてる」
カチャーは言って地面に落ちている箱状の物を拾い、まだロックがかかっていないらしい画面を見て勝手にスワイプして読み始めた。
「へー、アイツ意外と頑張ってたみたいだな」
「そうなの?」
「動画もいっぱい出してるし、結構面白そうだぞ。誰も見てないけど」
「あっそ。人気の出ないアイドル志望だかなんだか知らねーけど、アイツが肝っ玉スワってるようなやつじゃなきゃ興味もわかねえなっ」
アリスは腕を組んで、さも興味なさそうという態度を思い切り出して見せた。
「けどまあ、言われてみりゃちょっとやりすぎたかもな」
「あたしは何も言ってないぞ?」
「うっさい! た、態度でそんなこと言いたそうな雰囲気出してたじゃないかっ」
しばらくアリスは黙ったまま腕を組み、あっちを向いたりこっちを向いたりしていた。
「わーったよ! 新しいの買って返してやればいいんだろ!?」
「ほーう殊勝だね。でもまだ問題があるみたいだぞ?」
「これ以上わたしに何させようってんだよ。言っとくけどわたしは生まれついての盗賊様だからな、ニャー!!」
「そう人様を威嚇するなよ。それよりこれ見てみろよ」
カチャーがスマホの画面を差し出してきたので、自然な流れでアリスはその画面内を覗き込んだ。
なんてことない、ジョルジュのカメラが写している自分たちの買い物風景だった。
強いて言うなら、意外とコメントが付いている。
「かわいいかわいい書いてあるな」
「だろ。それ誰のこと言ってると思う?」
アリスはしばらく黙り込んだあと、この話の流れ的に、カチャーがいったい何を言いたいのか必死になって考えた。
「……わたし?」
「お前が動画に出てからジョルジュの動画はコメントが増えた。おまえ、ジョルジュちゃんに嫉妬されてんじゃねえの?」
「はあ!?」
唐突な展開であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます