第36話 ょぅι゛ょと謎ジャムと謎のから揚げ

 アリスがご機嫌斜めになった時の対処法が、だんだんわかってきたような気がするエスカランテであった。

「まあまあ、ほら落ち着きなさいアリス」

「だってコイツ、さっきわたしにばかって言った!!!」

「カチャーもアリスにそういうこと言わないの」

「ちがうあたしはバカなんて言ってない! いつも勢いだけで突っ走るからバカみたいな目にあうんだって言ったの!」

「ほらまたばかって言った!!!」

 目つきの鋭いアリスが帽子のツバの奥底からきつい目をしながら、カチャーを指さす。


「はいはい。ほら、熱々のパンが焼けましたよー、冷める前にまず食べちゃいましょう」

 竈門に軽く火を入れて温めただけの堅パンを大皿に乗せて三人の前に置くと、少女たち三人の目がぴたっとパンの方を向いた。



「おおっ、おいしそう⭐︎」

 まずジョルジュが反応した。

 椅子から立ち上がり短い腕を伸ばして大皿に向かうと、その途中でアリスが割って入ってジョルジュの腕を遮った。

「これはわたしのだっ!!!」

「ほーう、いただけませんなあ〜アリスぅー。パンを独り占めにするのかー?」

「この家のイソウロウにタダで食べさせるパンはないってことだっ」


「おっいいねえその怒った顔! まさに幼女⭐︎の裏表のない日常の一部って感じがする。『怒れる幼女、パン○を独り占め!』これサムネにこれ使おうかな」

「ぬぁにを撮ってるかっ!」


「幼女と大人の男性、一つ屋根の下、なにもないはずもなく。の新企画動画」

「いま運営に通報してやる」

「通報!? まさかのアカ⭐︎BAN!?」

「ほらほら、遊んでないではやく食べちゃうんだ二人とも」

「「いただきまーす!」」


「ん、元気な声だな! じゃあオレも、いただきまーす!」

「これ、みんなで食べてくれ」

「おっそうだな! じゃあこれも頂くとしようか!」


 ヴ・カチャーが家から持ってきたタッパーには揚げ物と、団子、それから別に小タッパーにはジャム状のものがたっぷり詰まっていた。


エスカランテにカチャーがタッパーを勧めると、先程のアリスとジョルジュがぴたりと動きを止めてこちらを見た。


「ふむ。匂いは悪くないな、香辛料の匂いだ」

「いちおう食べものなんだぞ兄ちゃん?」

「そ、そうだったな。まずは揚げ物をいただこうか。これはなんだ?」

「うちの庭でとれたシャオジンシャオってのを、足と硬い殻をもぎって油で揚げたやつだ。味は塩だけだがうまいんだぞ」


「シャオジンシャオ? 聞いたことないやつだな」

 試しに口に含んでみると、確かに丸っこいものが油の衣に包まれていた。

 食感は、外はカリカリ、噛むと中身が出てきてとろっとチーズのような味がした。

 苦味の残る薄皮がほんの少しあって、剥ききれていない小さな殻もある。それでも歯で噛むと外側の衣と一緒に小気味よく噛み切れて、塩味も効いていてどことなく香草の香りが効いていた。


「これうまいな! うちの店にもこれ出したら売れそうだぞ!」

「うまいかーそうかそうか」


 ヴ・カチャーはにっこりとほほえんだ。


「こっちも食べてみろ。うちのばあば手作りの草団子だ」

「んっ草のいい香りがする! これは雑穀餅だな?」

「よく知ってるねえー。じゃあこっちのジャムも」

「ほろ苦いけどパンによく合う! もしかしたら紅茶とも合うかもしれんな! 材料はなんなんだ?」

「全部うちの庭でとれるやつだけど、材料はナイショだ」

「内緒なのか? いったい何を」


「「ごちそうさまー!」」


 パンだけもぞもぞ食べていたアリスとジョルジュが慌てたそぶりで立ち上がる。


「わたしたち、つぎのヤマのお話があるからあっち行ってるねっ! カチャーも来なよ!」

「あたしはもうお前らの強盗ごっこは一緒にやらないって言っただろー?」

「知恵を貸してくれよー、仲間だろ?」

「んーしょうがないなー。一度だけだぞ?」


 ガタッと音を鳴らして、カチャーも席を立つ。

 途中でヒョイっとパンをつまんで口に含むと、モゴモゴしながら「ぜんぶ食べていいよ! パンごちそうさま!!」と言って笑いアリスたちと一緒に別室に行ってしまった。



 残されたエスカランテとしては、しばらくパンとジャムと謎の生き物の唐揚げを食べていたが、あの幼女たちがこれから何をやらかすのかとだんだん不安になってくるものがあった。


「ヤマって、まあなんかのお山ごっこ……とかだよな?」


 口に含む食べ物をよく咀嚼して、ごくんと飲み込むと、エスカランテは自分に言い聞かせるようにうんとうなづく。

「きっとそうだ。そうなんだろうきっと」

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