第35話 ょぅι゛ょと謎の甲虫の唐揚げ(ハクビシンのエサは主に地中に隠れる虫や小動物! 獣人化してもそれはかわらないのだ!!)

 話を少し整理しよう。

 黒い革ジャンを着た黒髪強盗ねこみみ幼女のアリス・テレッサ。彼女は生まれついての盗賊だ。

 種族は猫耳族の亜獣人族で、高い知能と強くしなやかな手足が特徴の小さな女の子だ。

 彼女の目的は、生き別れになった兄を見つけ出すこと。兄はこの町のどこかにいるはずで、兄を見つけて一緒に住むのが彼女の夢だ。

 もう一人はジョルジュM。なんのMかはわからないが、ジョルジュは女優を目指している? らしい。

 ゆーちゅーぶなるもので自主企画の動画を編集、投稿しており先にやらかした銀行強盗でのワケマエを使ってカメラを購入。そのまま路頭を迷っているうちに一つの廃屋と変わった兄妹を見つけて、そこに勝手に居候することにした。

 次に、名前を忘れた男エスカランテ。本名をオウド・ハルヒコという冴えない転生者だったが、荒野の隅で荒らしの転生者に襲われ名前を含めるすべてをうばわれた。

 奪われたからと言っても彼はもともと争いを好まない性なので特に何か反撃することもなく、親族を探してこの町にいる。ただその探している親族というのが果たして本当にいるのか、いないのか、それすらもわからないので彼あるいは彼女の名前を付した店を開き、有名になることで親族を見つけようとしている。

 冷静に考えればだいぶ努力の方向性がおかしいが、彼の中では整合性が取れているのだろうたぶん。


 で、オウドあらためエスカランテが立ち上げた店の名前は「アリスの隠れ家」。

 親族の名前はアリスとしかわからない。

 アリス・テレッサもさすがにこの店の名前は何とかならないかと文句を言ったが、エスカランテは断固引き下がらなかった。

 アリスもなにか気になることはないのかと言ったところだったが、こちらも特に無いようだった。アリスの探している兄は、ここまでダメニンゲンではないらしい。


 で。

 廃屋よろしく完全に朽ちかけていた一軒家は人間一人と獣人二人の計三人によって、見事に立て直されていた。

 あとはもう看板とメニューと従業員の確保だけである。



「おなかすいたー!」

「そうだぞエスカランテ! 腹がすいた!」

 店の出入り口近く、人の出入りの邪魔にならないよう戸口の脇に座り込んでガキ幼女二人がゲームをしながらさけんだ。


「ハァ……ハァ……おまえら少しは働いてくれ」

 出入り口から人の出入りの邪魔にならない場所でくつろぐ幼女二匹。

 力仕事は野郎の仕事。分かってはいるが納得はしてない。

「お前らなにやってるんだ?」

「げぇむ」

 真剣な眼差しでアリスが答える。

 見ると床の上に白い箱状のものとモニター、どこから持ってきたのかわからない電源ケーブルが引っ張られていた。


「げぇむ? ああ、ゲーム。こんなのまでこっちにあるのか」

「んー」

 アリスはそれ以上答えない。

 黒い帽子のツバから覗く目は真剣そのものだ。


 アリスは黒い革ジャンをラフにあおり下には青いジャージとビーチサンダルを履いているが、その足はどこまでも下品な感じにあぐらをかいて座っている。


 らしいっちゃ、らしいが。

 ……いったいどこのマフィアだろう?

「どっからこんなの持ってきたんだ?」

「ジョルジュのへや」

「あああん?」


 見れば電源ケーブルも全部地下から引っ張られている。

 この家に電気は通っていない。

 慌てて家から飛び出して玄関周りを見てみると、何だか見たことのないケーブルが床下から出てきて屋根伝いに上へ伸びていた。


 それを追いかけていくと、ケーブルは隣の家へ続く。

 さらにそのまま伸びていって、別の線と合流。トラックの行き交う表の大通りまでたどり着くと横断歩道横の信号機のケーブルに直繋ぎされていた。

 エスカランテはあちゃーとつぶやきため息をついた。

 これはどういうことか。


 盗電である。

 エスカランテは急いで店に戻った。



「おいっ! おまえら、この電気どうやって持ってきたんだ!?」

「ぬすんだ」

 アリスがしれっと答える。とーぜんといった様子でゲームのコントローラーを握った手は離さない。


「盗んだ、じゃなくてごめんなさいだろっ!?!?」

「ごめんなさい」

 まったく反省していないようだった。

 対するジョルジュMの方も、まったく気にしていないようだった。

 こちらはその性格が出ているのかアリスと違って立ち膝をしている。正座して、画面をよく見るために膝上だけでやや立ち上がっているあの状態だ。


「キミもなあジョルジュ、他の人のとこから勝手に電気盗んできちゃダメだろう?」

「ハンセイしてまーす⭐︎」


 まったく反省してなさそうな幼女二人が、かちゃかちゃとコントローラーキーを押していた動きを突然止めて二人同時に一息つく。


 二人の顔が、同時にくるっとこちらに向いた。

「おなかすいたっ⭐︎」

「ハラへった!」

「わーかった、わかったよ。しょうがないなあ、昼飯か。どうしようかな」

「差し入れだぞ。ウチのばあちゃんがこの前のお礼だってな」

「おっありがとう。って、うわっ!!」


 目の前に見覚えのあるまるいけもみみと丸い頭だけが見えたので、エスカランテは驚いてその場で飛びのいた。

「? 何をそんなに驚いてるんだ?」

「おー? おー! カチャーじゃないの、久しぶりー⭐︎」

「ん、やっぱりここにいたのかジョルジュ。相変わらずアイドルごっこやってるのか?」

「あいかわらずとはシッケイなッ! ジョルジュは永遠にアイドルですぅー⭐︎」

「はいはい。そっちのちっこいのは、この前の襲撃でなにか手に入れられたのか?」

「んー。別になにも。お宝なんてガセだったよ」

「だろうなあ。ああそれとおにーちゃん、こっちもおみやげ。これはウチの自慢のクサ団子とクリケットのアマカラ揚げ。それからジャムだ。れいぞーこで冷やして食べても美味しいぞ」

「お、おお。ありがと。ちょうど昼だし、ごはんだけ作って、おかずはこれをみんなで分けて食べようか。ん?」


「あああ、わたしは外で食べてこよーかな」

「わたしもー⭐︎」


「どうした二人とも。そう遠慮するなって、いい匂いだぞ?」

「そうだぞ二人とも、遠慮しないで食べてくれよ。うちの一族の料理はうまいんだぞ?」

「オナカ、スイテナイデス」

「ワタシモオナカスイテナイ⭐︎」

「そうだ。パンなら残り物だけど、確か昨日のが残ってたはずだよな。まあ待つんだ二人とも、ほら席に座って」


(くぎゅぅぅぅぅぅ)


 部屋中に、誰かの慣らした腹の音が響いた。

 誰が鳴らしたのかは分からなかったが、なぜかアリスが顔を真っ赤にしてうつむいた。


「パンの用意はオレがするから、アリスは机の用意をしてくれるか?」

「うー」


 なかなか不本意そうな顔をするアリスの肩に、なにか諦めた様子のジョルジュがぽんと手を乗せている。


 そんな二人の様子をニコニコしながら見守るヴ・カチャーがいて、エスカランテはこの少女たちに不思議な雰囲気を覚えた。

 そしてふと思い出した。ずっと前に、自分の妹から電話を受けた時の最後の言葉を。


 ああ、そういえばあの時もあの子は、これからみんなでご飯を食べに来る、みたいなことを言ってたっけかなと。


 実際に言ってたかどうかは分からないが、エスカランテはふと思い出してあの時のことを頭に浮かべた。

「みんなか」


 エスカランテがふっと物思いに耽っていると、すぐ後ろでなにかがガチャンと割れる音がする。

 振り返ると、アリスとカチャーがお互いに食器を投げ合ってケンカしていた。

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