第33話 ょぅι゛ょとまっぱ(※犯罪ではありません)

「ぬぁぁぁぁぁぁぁあああ〜ッッッッ!!!!!!!」

「ジョルジュ!?」


 名も無き全裸だった転生者に全身を光に飲まれ、ジョルジュMは自撮り棒とともに真っ白になった。

 アリスは身を挺して自分を守ってくれたジョルジュを思い、自然と瞳の隅に小さな涙が浮かぶ。


「ジョルジューっ!!」

「まだだ……ッ⭐︎」

「ジョルジュ!?」


 転生者の放った蒼い光の中で、まだ僅かに人の形を保っている影が言う。

「まだ生きてる!?」

「こんなところで倒れるワケにはーーアアアーーッ⭐︎」

 まだわずかに人の形だった影が、完全に光に飲み込まれて見えなくなる。

 衣装が破れ、リボンもほどけスカートの裾もインナーも靴ヒモも……



 人の姿をまだ僅かに残していたそれは、熱を帯びる光線の中でヒトの姿そのものになってしまった感が、なんか若干するようにまでなった感がした。

 アリスは眩しすぎる光を、まぶたを閉じ手をかざして視界を遮る。





 …………。



「……あ!?」

「オラっ! ナニが可能性のヒカリじゃボケナスがぁッ⭐︎」






「ふ、服! 服ぅー!!!」

「うるせえこちとらプレビュー数にタマかけとンじゃチチの一つ二つで天下トレるならナンボでも出したるわいワレーッ⭐︎」



「アーッ!! いけません!! いけません幼女様そのようなもの!! 幼女様いけません見せちゃいけません!! アーーーッ!!!」

 ブーーーーーーッ






「うっわ! こいつ鼻血出して倒れたぞ!? か、カメラカメラ!!⭐︎」




 ジョルジュがやってるゆーちゅーばーとかいうのは、いつかどこかで聞いたことのあるビデオチャットみたいなものなのかな? とアリスは頭の中で思った。

 だいたい時給4000円くらいの方の。




 かくして、重複する可能性を操る全裸転生者はアリスが目を瞑っていることで無事討伐できたのだった……

 めでたし、めでたし。


「めでたしめでたしじゃないっ!!!⭐︎」

 全身の肌をこんがり小麦色に染めた金髪幼女がヨイショヨイショしながら、前とまったく変わらない予備の服を着ながらアリスに猛抗議した。



「このカメラいくらしたか知ってる!? 業務用のよんじゅーまんドルよ⭐︎! 廉価版だけどッ⭐︎」

「そんな高いやつなら外に持ち出さなきゃいいじゃないか」

「わかってないねーアリスは。いい動画はいい画質から生まれるモンなのよ」

 ジョルジュは青色の帯をシュシュっと結び直し、リボンを作って軽くぽこっと叩いた。


「今回の転生者討伐はいいネタになると思ったんだけど、まさかカメラ壊されるとはなーっ⭐︎」

「途中までは撮れれたんだろ?」

「ばっかねー、わたしの服が脱げたところが映ってないじゃんっ⭐︎ あれがあればPV数なんて一時間で100万再生くらい軽くいくわよ。サーバーがトンじゃうかも?」


 ゆーちゅーばーという世界のことがよくわからないアリスだったので、そこまでして再生回数に命をかける意味がよくわからなかった。

 だが、何かを成し遂げたいと思った時に命をはる覚悟は理解できた。

 なぜならアリスも、そうやって生きてきたからだ。

 主に暴力的な世界で、だが。


「まあとにかくっ、こんなところでまた会えるなんていいことじゃないか! 今どこに住んでるんだ? 近くなのか?」

「んー近くといえば近くだし、遠いといえば遠いッ⭐︎ ……かも?」

 金髪キツネ耳幼女のジョルジュは、何だかもったいぶった言い方でアリスの質問を誤魔化した。


「まあ、答えたくないなら答えなくていいよ。わたしたち悪人は、仲間内であっても家の場所なんて教え合わない方がいいからなー」


 アリスは泉の向こう側に置いてある、この森の宝箱の方を見た。

「どうせ大したブツなんて入ってないだろうけど、中身はいつも通り山分けにしよう」

「いやーお宝の方はイイ、カナっ⭐︎ アリスに譲るよッ⭐︎」

「へー? なにか裏でもあるのか?」

「イヤーそういうわけじゃないけど……ッ⭐︎」


 いちいちアイドルっぽくポーズを決めて話す相変わらずなジョルジュに、アリスは肩をすくめて返した。

「そう言うなら、ありがたく全部いただくよ。……なんだ、全部ただの薬草じゃねーかクソっ! ジョルジュ、さっきの戦いの主役はジョルジュだったんだから、うちに来てメシでも食べていけよ。うちのがうまいメシでも食べさせてくれるぞ」


「そ、そうなのかーっ⭐︎」


 ジョルジュMは明らかに戸惑っていた。

 何か訳があるなとはアリスも察したが、この森に来るまでの違和感もあって、嫌がるジョルジュをむりやり引っ張って家へ帰ることにした。

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