第32話 ょぅι゛ょとスポットライトステージ

「ちょぉっとまったーーーーー⭐︎」


 きゃるーん⭐︎


 そういう効果音が聞こえてきそうな、カラフルマジカルミラクルリンッ⭐︎的な、魔法少女っぽいコスプレをしたなんか変なやつが、とつじょ藪の中から飛び出してきた!



 蹴り飛ばされた全裸の男性転生者が「ノォォォォゥ!!」と叫んでくるくるときりもみ回転する。


 局部が太陽の逆光で眩しくかがやく!

 ……なにがなんだかよく見えないっ!!

 軽やかに大地に立つ新キャラの幼女!


 白くて大きなリボン。

 細い腕と足。ピンクのローラーブレードブーツ。

 風に流れる癖っ毛の強い長い金髪。

 細い腕にがっつり自撮り棒を握ってピースサイン。

 背は低くも手足は細く、腰はキュッと細く引き締まったその後ろ姿は……


「みんなのアイドル、ジョルジュちゃんでーーーーーっす!!」


 みんなのアイドル・ジョルジュMが自撮り棒とモバイルパソコン(当然モバイルルータ付き)を右手だけで持ちながら、華奢な左手で逆ピースサイン、片目をつぶって、前髪をあざとくさらさらと流しながらアリスと全裸中年転生者の間に割って入ってきた。



「お、おまえ!?」

「アッリスぅ〜ッ⭐︎ ひさしぶりっ! 久しぶりすぎてジョルジュ、超⭐︎感動ッッ!!!!!⭐︎」


 獣耳系強盗団の仲間の一人、ジョルジュMは振り返って不敵に笑った。

「一曲歌う?」

「な、なにやってるんだおまえ?」

「ゆーちゅーばー」

 アリスの問いにけもみみジョルジュMは不敵に即答した。


 腰上まで伸ばしたウェーブ状の金色の髪、薄いピンク色のひらひらスカート、青いリボンによく日に焼けた素顔。

 情熱的でよく整った笑顔の中心で控えめに自己主張する尖った鼻。一見するとただの美少女(美幼女?)なのだが右手に持った身長とさほど変わらない長さの自撮り棒が目につく。


「はいっそれではですね! いまからこの変態さんとわたしで、戦っていこうかなと思います⭐︎」

「なっ変態だと!? いったいこのワタシのどこがヘンタイだというんだっ!!」

「どうやら自覚がないようですねえ〜⭐︎」


 突然薮から飛び出てやってきたジョルジュは相変わらず全裸中年の方を向かずに自撮り棒の先につけたカメラに向かって話しかけている。


 アリスが向こう側にいるであろう転生者を見ようとすると、その視界はちょうどカメラに塞がれて見えない!


「アリスちゃんお久しぶりぃ! 犯罪者になってからの転生者に対する憎悪の高まりは、相変わらずですねえ〜! 今日は一人追い込んだようですがこれからどうするつもりですかッ!?⭐︎」

「決まってる。コイツをぶっ飛ばしてお宝を手に入れる!」

「はぁ〜! やっぱり変わらないですねえでゅふふふ!⭐︎」

 金髪をエレガントに流しつつ、前髪だけはスポーティーにまとめたキツネ耳幼女は、アリスをふりかえってあざとくウィンクした。


「おー。これサムネにしようかな」

「何の話だ?」

「だーかーらー、ゆーちゅーばー。これからのアイドルは自分で自分をプロデュースしてかなくっちゃいけないんだぞっ⭐︎」


 サムネってなに?

 アリスは色々疑問に思ったが、倒れていた全裸転生者がよっこらせっと立ち上がったのを見たのでなんかもう考えるのをやめた。



「コイツを倒すまでいっしょに協力。いいよね?」

「さっきまでいた羽の生えた子は〜?⭐︎」

「どっかいった」


 アリスは森の上側を見て、白い空がのぞく隙間の向こう側のゴマ粒みたいになったちっちゃい黒点を探して目を細めた。

「あいつ、結局なんだったのかな……」


「よっくもボクをコケにしてくれたねェ! この侮辱は倍で返させてもらうよ!!」

 全裸転生者が手を前側に組んで、森中に風を呼ぶ。



「ボクの特技は『複合する可能性』、レイスジャムだ! すなわちここにいるボクは、服を着ているボクと服を着ていないボクが同時に存在するっ!! 魔法詠唱を終わらせ、おまえたちを吹き飛ばす可能性や剣で切り裂く可能性も、ボクは自由自在に呼び出せ……」


 言い終わるか否かの瞬間、ジョルジュの素早い間合い詰めからの大振りフック・パンチが名前すらない全裸の転生者の頬にめり込んだ。


 かーらーのー?


「いやちょまっ……!?」

「どっせェい!!!⭐︎」

 自撮り棒をバットのごとく横にフルスイングして、ジョルジュMは全裸転生者の顔面をぶん殴った。

「ぐはあっ!?」

「ナイッショー⭐︎」


 転生者が口や皮膚や下のナニカやらからいろいろな飛沫(少量の液体のツブツブ。多少の粘性や着色性がある。ふれると若干糸を引く)を撒き散らしながら枯葉の地面に突っ込んだ。


「ま、待て待て待て。少しくらい自重しろ」

「早く服くらい着なさいよ」

 アリスが腕を組んで言うと、全裸転生者は悔しそうに、すこし嬉しそうに顔を赤くしながら服を着た。


 ただし服を着るのは一瞬である。正確には、服を着ている自分自身を呼び出したのか。


「ふっ、キミたちがまだ小さいようだから、ボクも少し油断したかもしれない。これからは本気を出させてもらおう!」

「こっちは二人、あんたは一人ね」

「これくらいはハンデだと言っている! 喰らえ、蒼い光!!」


 全裸だった転生者は両手のひらをこちらに向けると、アリスとジョルジュMの両方へ手のひら大の光線を放った。


 アリスは横へ飛びのき光線を垂直に避け切った。

 そのはずだった。


「その反射神経は若さの賜物。だが可能性のこのボクには児戯にひとしいものだな!」


 アリスのすぐ横に、転生者がいた。

 撃っていなかったのだ。正面から光線を撃った瞬間に、撃たずに回り込んだ別の可能性の自分と入れ替わりアリスを横から狙い撃つ。


「吹き飛べ、蒼い光っ!!」

「アアアーっ!?」

 アリスの体を熱い光線が包み込む。

 だがさっと影が飛び込んできて、アリスを光の輝きから庇った。



「じょ、ジョルジュ!?」


 アリスを庇ったのは、ゆーちゅーばーを目指す地下アイドル幼女の金髪きつねみみ幼女、ジョルジュMだった!

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