第27話 ょぅι゛ょとザリガニの倒油スパイス炒め
その日の夜。
ヴ・カチャーの私邸にて。
「それで、うちの台所を借りにきたと?」
湯通しされて真っ赤になったエビの大きなハサミをつまみ上げながら、カチャーはため息混じりにアリスとエスカランティスに問いかけた。
「あたしはわからないけど、家じゃこんなの料理できないんだってさ」
「だから? お前たちの家より広いウチで作るのか? ウチは公民館のお料理教室とか貸しキッチン屋をやってる訳じゃないんだぜ」
「フン、人のカネを盗んでおいてよく言うよ!」
「あんなはした金に未練があるならもう一度やればいいんだ。金庫なんか破らなくっても、そこらへんの奴が喜んで差し出してくれるさ」
「もう一度だと!? もういっぺん言ってみろ! あの札束の山をもう一度だと!? 表出ろ、おまえの頭をぶっ飛ばしてやる!!」
「おまえが刑務所に入ってる間に、このセカイは終わっちまったんだ! 札束なんて、今じゃ尻拭くのにも役に立たねえ紙切れだ!!!」
カチャーはばんばん! と机をたたくとイタチのように細長い体を持ち上げて、アリスを上から睨みつけた。
アリスも負けじとイスの上に立ち、若干の身長差を生み出してカチャーを上から睨みつける!
「ふふん」
「くぅ〜!!」
カチャーのケモノ顔が犬歯を覗かせ悔しがった。
カチャーもアリスに習ってイスの上に立つ。
すると獣の特性が強く出ているカチャーの方が、人型に猫耳をはやしたタイプのアリスより若干背が高くなった。
なおカチャーは、イタチタイプの女の子である。
「ふん!」
「ぬぅ〜ッ!!」
アリスは本気で悔しがり、イスの上で地団駄を踏んだ。
そこでキッと台所の方へ目を向けエスカランティスがこちらを見ていないことを確認すると、クツを履いたままテーブルの上にそぉーっと……
「そぉーれ! ケンカはおしまいにして、晩ご飯にするぞ!」
エスカランティスが振り向いて中華鍋を手に、アリスたちの方を向いた。
がったんがったん言わせながらアリスとカチャーが慌ててイスに座り直し、各自の小皿と大皿をテーブルの上に置く。
「ん、用意周到だな。腹も減っただろう」
「「すいてなんかない!!」」
アリスとカチャーが声をあわせてエスカランティスに答えた。
「はっはっは、仲がいいなお前たち! さて今日のご飯は、マーラーシャオロンシアだ!」
用意された大皿にエスカランティスが盛大にエビを盛り付ける。
大ハサミエビ……たぶん現世ではザリガニと呼びそうな姿だが……が、香ばしく甘辛い匂いと白い湯気を漂わせ、アリスとカチャーたちの前に山盛りに積まれた。
「まーらーしゃおろんしあぁ?」
「ああそうだ! オレがここに来る前の世界にあった、おいしい料理だ! エビは手で殻を剥いて食べるんだ」
「あなた転生者なの?」
「いやまあそうだと思うんだが」
カチャーの疑わしそうな視線に、エスカランティスは恥ずかしそうに目を伏せた。
「実は、あんまり覚えていないんだ。名前とか、自分のこととかもな」
「へー記憶喪失なの。あなたも大変ねえ、こんなネコミミ小娘に捕まっちゃって」
「あ゛? なんか言った?」
ハサミエビの頭を剥いてボリボリ食べ出していたアリスが、不機嫌かつ人を睨むような目でカチャーとエスカランティスを睨む。
「アリス、食べながらしゃべらない」
「そっちがなんかわるくしいっれたんれひょ」
「いい匂い! 初めて見るけど、エビってこんなふうになるんだ!」
「まだまだいっぱいあるからな、二人とも遠慮なく食べていいぞ!」
「わーい」
エスカランティスの隣で幼女らしく両手を挙げて無邪気に喜ぶカチャーが、エスカランティスが外を向いた隙を見て、アリスを見てニヤリと笑った。
アリスはエビをガリガリかじりながら、チッと舌を鳴らす。
おかしい。
別にこの男が誰にどう思われようと関係ないはずなんだけど。
あたしにはお兄ちゃんがいるんだ。お兄ちゃんがいれば、それでいいはずなんだ。
なのになんで。
「たまに、こいつがお兄ちゃんかもって思っちゃうんだよな」
アリスは己の中にむくむくと湧き上がってくる感情に戸惑いながら、エビの身をゴクンと飲み込んだ。
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