第25話 ょぅι゛ょと生存戦略

「おい! そこのあんた!! 小さな女の子になんてことしてるんだ!」

 凛々しく正義感に燃えていそうであろう、典型的な正義の主人公風な転生者青年はとつじょ、幼女アリスと、アリスを踏みつけている若頭を指差した。


「……なんだい、この男は」

「オレはただの通りすがりだ。けど、力のある奴が弱いものを力でねじ伏せているのは見逃せないんだ」

「なんだ、通りすがりの正義のヒーローか」

 なんかもう完全に悪役がハマってきてしまっている、本当ならただの露天商の若頭で泥棒を追いかけてきただけの善良な市民(露天商の若頭)は、まるで旧西ドイツに潜伏していたとされる赤軍系民族解放機構の悪役テロリスト顔負けのキレッキレの悪役ツラで、通りすがりの正義の転生者と対峙した。

長身。

 長く蓄えた黒髭。

 まぶたの傷。冷酷で計算高そうで、人を信じず足元を見て、それこそ相手が傷も汚れもついていない変わった靴を履いていたらすぐに相手の出生を見抜く程度の観察力を持った抜け目のない目。



「その、通りすがりの正義のヒーローがオレに何の用だい」

 若頭は突然現れた転生者を警戒するように、じゃりっ、じゃりっと音を立てながら右回りで転生者との距離をはかった。


「オレはお前に用はない。だがその子に用がある」

「ほう。この子はあれか、お前の連れかなにかなのか?」


 円を描くように相手の強さを見定めながら、相手の出方を伺う構えだ。

その左手はアリスから取り上げた短刀を持ち、いつでも動けるよう柄に指までかけている。その動作を見せないために、左に向かって円を描くようにまわるのだ。


「それなら、嬉しいもんだな。オレはこの子に、代金を支払って欲しいだけなんだ。だが連れのあんたがこの子の代わりに金を払ってくれるというなら……」


 若頭は不敵な笑みをふっと浮かべ、肩をすくめた。


「……この子に手は出さない。取引といこうか、あんたは金を払い、この子を助ける。オレは金を受け取り、この場を去る。悪い取引じゃないよな、ああ?」


 髭を蓄えた痩せた頬の若頭はアリスを立たせて、自分と転生者の間に割り込ませた。こうすれば転生者がなんらかの魔法を使っても、アリスを盾にできるからだ。

 完全に悪役のそれである。

 アリスは調子に乗って、悲壮めいた視線を転生者に向かって投げかけた。

 名前も知らない正義の転生者の少年は若頭の非道な行いに一瞬たじろいだが、なんかの転生特典アイテム的な剣の柄に手をかけたまま若頭と距離を撮り続けた。


「その子を離すのが先だ」

「おいおい信用してくれよ転生者さんよ。オレぁワルモンじゃないんだぜ。生き物みな兄弟。だろ?」


 互いにぐるぐるとその場で円を描くように歩き続け、ついに転生者の少年とヒゲの若頭の位置が逆になった。

 そのタイミングで、若頭の用心棒が飛び出て転生者の少年を後ろからガバリと掴んだ。


「なっ!? は、離せ!」

「はっはっはァー! 油断したなこのマヌケめ!」

 後ろから掴みかかってきた用心棒に転生者の少年は後ろ手に組み伏され、地面に押し倒された。


 なぜそこまでされるのか?

 彼が転生者だからだ。


 このものがたりは、けもみみよーじょがいせかいてんせいしゃをどったんばったんやっつけるはなしである。


 平和だったこの世界に、異世界から分不相応のハイテクノロジーと異形の価値観、不釣り合いな高等魔法の概念、それまで存在しなかった金銭等の概念でこのけもみみ世界を好きなようにかき回してくれた底辺どーてークソ男子供の性処rげふんげふんげふん


チート級の魔法やら特技やらなんやらを持っている転生者に、ただのけもみみ幼女が勝つためには卑怯な手段も許されるのである!


『転生者ゆるすまじ! 慈悲はない!!』


アリスは幸薄いねこみみ幼女のような表情を浮かべながら、小さくふっとわらった!

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