第24話 ようじょと『チャンスはあるものではなく作るもの』の精神

「うわっ!」

 両腕で短剣を抱えていたアリスは地面のくぼみに足を取られて派手に転んだ。

 転んだ拍子に腕に抱えていた重いものが地面に転がる。

 地面を派手に転がり、それはガラガラと鞘と刀身を鳴らしながらアリスの手元から離れる。アリスは立ち上がり、膝を立てて短刀に手を伸ばした。



「おっと! そこまでだお嬢ちゃん」

 ガッと誰かがアリスの足を踏みつけて、アリスの体の動きを抑えた。


「盗みはよくないなあ。突然人のものを、そうやって奪って盗んでいくのはとてもよくない」

「うるさいっ! それは私のだ!」

「ふぅーやれやれ。この子猫ちゃんはよくわからないことを言う。いいかい、この短刀は凡人には理解できないほどの価値があるものなのだよ。それこそ、日毎に盗みを働く小悪党如きには理解できないような価値が」


「ちがう! その剣は、あんたの言うそんなものじゃない! その剣は、私たちにとっての大切なものなんだ!!」

「私たちの? 大切なもの? フフッ、話にならないね」


露天商の若頭……流し目で、眉毛も濃く東欧人風で、髭をはやし、どことなくヒールな顔つきの男は慣れた様子で短剣を拾い上げ、くるくると掌の上で剣の柄を回した。


「物の価値とは、使い手が選ぶ物だ。物の価値は人が決めるものだ。商売も人付き合いもそうだろう。価値とはなにか。つまり、それを見定める者の目にかかっている。この短剣には高価な装飾が施されているが、見る目のない者にとってこの剣は金銀が付けられた剣というだけのもの。だがこの剣は、そんな下品で、低級なものじゃない」


無骨な取り巻きに周りを囲ませ、市井の民に見られながら一人の少女を踏みつけて剣の価値について語る若頭は、顔つきも雰囲気も、完全に悪役そのものになっていた。


「ゲージュツだよ。この剣の本質は、芸術的な価値だ。わかるね?」

「わからない!!!」


 アリスはいっしょうけんめいに、悪役になじられている無力な正義幼女のふりをした。

「わからないかね」

「そんなもんわかってたまるか!!」

「では即物的な取引をしよう。代金を支払え。さもないと」


男はアリスの腕を後ろに縛り上げ、グイとひねった。

もちろん代金とは、さっきアリスが食い逃げしたときの果物代のことだ。

当然だが周りの群衆にはそれはわからない。


「この腕を切る」

 イスラム法的には妥当な刑らしいです。


「クッ!!!」

アリスはあくまでもか弱い善良な幼女が悪漢に襲われている風をかもした!

そしてチラリと通行人や成り行きを見守る群集の方を見ると


「おい、ちょっとあんたたち!」

  例の、あの転生者風の青年が幼女アリスと若頭の騒動についに声をかけてきた。

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