第15話 幼女と野獣の雄叫び

そこには二つの小さな買い物袋と、ひとりの小さな幼女がいた。

「なんだ、カチャーじゃないか」

けもみみ幼女アリスが冷たい犯罪者の目で、もうひとりのけもみみようじょを見つめる。


大げさに両手両足を広げて喜びを表現し天を仰ぐ。


「たまげたなあ、あの雪の日にお前さんは転生者に吹き飛ばされて、血もはいて瀕死だったはず。なのに生きてたのか。いつ生き返ったんだ、心の姉妹?」


「なん、で?」

「おいおいなんでとはなんだよ、せっかくの再会なのに冷たいじゃないかアア!?」

「あたしはあんたを心の姉妹なんかにした覚えはないぜ」


「このクソみたいに澄ました顔のアマを私は忘れられねえぜ。なあ一緒に雪の降る中、私たちはみんなで強盗しあった仲だろう?」

「人違いだ」


幼女はアリスから後ずさりして距離をとった。

その様子を、ラリったかわいらしい幼女の目つきでアリスは見て驚きの声を上げる。

「覚えてない!?あんなにアツくて激しかったみんなとの夜をか!?そりゃあお前さんにとってはうちらは使い捨てのガキの使いとかだったのかもしれんがよ」


「あたしはお前の知ってる知り合いじゃない

「冷えなあヴ・カチャー」

「ちがう!」

「アーイイねえその拒絶!!」

「あたしに近寄るな!近づいたら警察を呼ぶぞ」


「オー!おまわりさん呼んじゃうか!善良な市民様のお願いごとなら、おまわりさんもなんでも聞いてくれるよな。イイぜイイぜ、私が代わりに聞いてやるよ。なあおまわりさん、あわれでかわいそうなこの子のことを守ってやれねぇか?」


アリスは自分のほそくととのった頬についたちっちゃなゴミを指でこすり取って大声で話しかけた。


「え?ムリだって?そんな冷てえこと言うなよコイツは銀行強盗なんかする哀れでかわいそうな亜人共を異世界転生者に密告して、その見返りに微々たる金もらってシケた日常送ってやがる善良な市民様だぜ?あ!?それでも助けられない!?そうだよなあサツはさっきこのわたし様があの車で煽ってひき肉のミンチにしてやったからな!!!!!」


怒りで我を忘れたネコ耳アリスが、カっと目を見開いて目の前の丸いイタチ耳幼女を睨みつけた。


「コイツ、狂ってやがる……」

「ムショで臭え飯食ってるときも、お前のことを一度だって忘れたことはなかったぜ」

ねこみみ幼女のアリスはじりっと一歩前に出た。

イタチ耳の幼女、ヴ・カチャーはじりっと後ずさった。


「ま、まあやめるんだ二人とも!何があったか知らないが二人で仲良くしよう!」

慌ててエスカランティスが間に割って入ろうとすると、ヴ・カチャーの方がぎょろりと目を剥いた。


「近寄るな人間!!」

「ひぅ」

エスカランティスは変な声が出た。


「オマエも転生者だな?耳がないぞ」

「お、おお!オレは転生者だ!!こう見えてもオレは色々と頼り甲斐のある男で……」

「アリス!てめぇ、あれだけ転生者を憎んでたのに、最後は転生者とツルむのかよ!亜人としての誇りは無くなっちまったのか?」


「はァーッ!!仲間を見殺しにしておいて自分だけノコノコと隠居生活を送ってるハナったれ上流ババア様は、オレたち下級亜人とは言うことが違うな!!!」


「アリス、誤解だ!あたしは自分の罪を償っただけだ!」

「まだ償ねてない罪があるぜ」

アリスが棒切れを取り上げた。


「チッ、話し合いはムダか」

カチャーは突然身を翻すと、車の往来のある大通りに駆け出す。

「あっ待て!」

「うわあ、危ない!!!」

アリスとエスカランティスが同時に叫んだその瞬間、一台の高級スポーツカーが爆音を立てて通りを通過しイタチ耳の幼女ヴ・カチャーのいるところを通過した!


エスカランティスは目を手で塞いだ。


だが、ぶつかる音は聞こえなかった。代わりに男性の罵声とバキッと何かが殴られる音がして、目を開けるとカチャーが黒塗りの高級スポーツカー『マスタングV8エンジン搭載型』に乗り込んでいるところだった。


V8エンジンは甲高くも野性味溢れる荒削りな荒馬のいななきのような音を響かせ、二、三度豪快な空吹かしをしてみせると、口輪で勢いよく砂煙を撒き散らしながら車道を爆走していく。


「しまった、逃げられたぞ!」

「あんなに早そうな車に追いつけるわけないぞ、帰って飯にでもしよう」

「ここまで来て諦められるかよ!おいタクシー!」


アリスは車道に飛び出ると、たまたま通りかかった1800馬力超の化物級大型二輪車スーパーハーレー(最高速度240キロ、カスタム済)を無理やり停車させ、乗っていたネコミミバイカーを飛び蹴りで降車させてアクセルを吹かした。


「乗れ!」

「ハイ!」

「私の腰につかまれ!ヘンなことしたら振り落とすからな!!!」

「ハイ!!」

転生者エスカランティスに選択肢はなかった。


幼女と青年の乗るスーパーハーレーは獲物を狩る野獣のような唸り声を上げると、ヘッドライトを点灯させ、一瞬で回転数3000rpmオーバー!

一気にトップスピードへと達し、車道に躍り出た!

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