第3話 アリスの強盗小作戦

「J、I、後ろを見張っておけ。A、電話をかけてドアを吹き飛ばしてくれ」

「かしこまり☆」

 Jと呼ばれたきつねみみアイドル強盗幼女がミニガンを構えて後ろを狙い、次いでIと呼ばれた中華ハクビシン耳のけもみみ幼女が物陰に隠れて周囲を伺う。


 アリスは、興奮のあまり忘れかけていた自分の役割を思い出した。

 金庫のドアに仕掛けられたC4プラスチック爆弾は使い捨ての格安スマートフォンと繋げられており、ある電話番号から電話を受けると特殊な高周波音声が流れて起爆スイッチが入るようセットされていた。


「オーケー、電話をかけよう」

 アリスはスカートのポケットからスマホを取り出し、短縮ダイヤルボタンを押した。



ピポポパポピポピポポパパポポピ……

ブツッ



「もしもし、アリスか?」

「!? おにいちゃん!?」

「今どこにいるんだい? もうすぐ晩御飯ができるから、はやくうちに帰っておいで。今日はアリスの大好きなビーフシチューだよ」

「えっ、あ。……うんっ!!!!!」


 アリスは驚きながらも、左手を上にあげて元気よくへんじした。


「ともだちが近くにいるなら、一緒にごはんを食べようって言ってもいいよ。ケガなんかしないで、ちゃんと帰ってきてねー」


ブツッ



 アリスのおにいちゃんとの通話が切れて、アリスはハッと我に帰る。

 気づけば周りの仲間たちが疑い深そうな目でアリスを見ていた。


「よ、予定が少し変わったっ。30秒で切り上げるぞ」

「今の、だれ?」

 Vと呼ばれる幼女、ヴ・カチャーが聞いた。


「なっなんでもない! 爆弾を起爆するぞっ、吹き飛ばされるなよ!」

 アリスは慌ててスマホを立ち上げ、慎重に爆弾用の短縮ダイヤルを押した。


 パポポピピポパポポピポポピプポピピポ……

 プルゥルゥゥゥゥゥッ

 ブツッ


 ドーン!!!!

 遠くでなにかが吹き飛び、建物全体が大きく軋んだ。


「行け! 行け! 行け!」

「ヒャッハァー!! カネだァー!!!!」


 ねこみみ黒服強盗幼女のアリス、スレた感じの目ざとい幼女ヴ・カチャー、寡黙な中国幼女アイシングラマーにエルフ耳幼女のデイメア・マア、ミニガンを持ってとてとてついてくるアイドル系強盗幼女のジョルジュは、それぞれ金庫室内に飛び込んだ。


「カネッ☆ カネッ☆ カネッ☆」

 アイドル幼女のジョルジュMが、ショルダーバッグを開いて目を輝かせながら札束を掻き込む。


 それに習って他の幼女たちも手当たり次第に札束をバッグに詰め込んでいくが、ヴ・カチャーは少し控えめにバッグの中に現金を詰めていく。



「あと5秒分! 4! 3! 2、1!! 時間だ、出るぞっ!」

 アリスが声を上げ、幼女たちは各々のバッグを閉じて金庫から出る。


 最後にヴ・カチャーが金庫から出てきたとき、物陰から警備員の亜人少女が飛び出してきてカチャーを後ろから羽交い締めにした。

「うげっ」


「強盗どもめ、動くな!!!」

 身長の足りないカチャーを抱きかかえ、亜人の少女はカチャーの首根っこだけを抱きかかえて銃を向ける。


「今すぐ降参しろ、ななな、仲間が、どうなってもいいのかっ!?」

「おい。安全装置が入ってるぞ」

「は?」

 アリスは躊躇することなく、ショットガン を亜人少女の頭めがけて撃った。



 ブバッ! と汚い音がして、亜人少女の頭だけが吹き飛ぶ。

 少女が膝から崩れ落ちると、カチャーはドッと尻餅をつく形で床の上に落ちた。


「ばっばかやろうっ! あたしまで撃つことないじゃないかっ」

「生きてたんだから無事ってことだ。そうだろ?」

「だからって殺すことないだろう!? あいつだって亜人だったじゃねーかっ!!」


 半泣きの様子でカチャーがアリスに食いつく。

 だが、アリスはいつもの冷静な顔でそっぽを向いた。

「転生者に肩入れする亜人は、亜人じゃねェ。私たち亜人を食い物にする奴は、もう仲間でもなんでもねェ。それに私たちは、もうお尋ね者なんだっ!」

 アリスは瞳に輝きのない、半ば狂ったような瞳でカチャーの二つの瞳を睨んだ。


「あねきっ! あねきっ!!! 時間がないよ、ケーサツが来る前に急ごう!」


 エルフ耳の幼女、デイメアマアがアリスたちを振り返る。


「アリス。自分たちが犯した罪は、いつか自分の手で償うことになるんだぞ」

「その話の続きは生き残ったあとにしよう」

 アリスはカチャーの言う含みのありそうな言葉を気にしながら、銀行の裏口へと向かった。

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