第2話 第二の幼女 ヴ・カチャー

 ヴ・カチャーは女の子だ。頭脳明晰、文系も理系もそつなくこなし、どちらかといえば文系。地元の村では神童扱いされていた。


 銃の扱いは得意ではない。


 ヴ・カチャーは出稼ぎのために、村から都会にやってきた。



「A!このドアをぶち抜いてくれ!!」

Aと呼ばれるけもみみヘルメット幼女を呼びつけ、スチール製のドアに向かって親指を立てる。

「このドアの向こうが金庫か!?」

「金庫はこの先の通路を下に降りた先だ!」


 ヴ・カチャーは事前に見ていた銀行見取り図を思い描きながらアリスに答えた。



 アリスがショットガンで、鍵のかかったドアノブを吹き飛ばす。


 ちょうど入れ替わりで銀行のロビーからやってきたほかの黒づくめけもみみ幼女たちが、喚く人質を奥の部屋へと押し込める。



 そのとき、ちょっとしたことで幼女同士のいざこざが起こった。



「イテッ! 今あたしの足踏んだでしょ!」

「他妈的屄!」

「アア? ニホンゴでしゃべれって言ってんだろ!?」

「ちょっとー、みんなわたしのためにケンカなんかしないで〜」


 えるふみみのヘルメットをかぶった黒づくめ幼女が、同じく小柄なはくびしんみみ幼女の胸ぐらを掴んで食ってかかる。


 はくびしんみみ幼女の方も、身長は低いがそのキレた目つきで自分に掴みかかったえるふみみ黒づくめ幼女を下からメンチ切りし、もう一人のきつねみみ幼女はミニ134ミニガンをマイクスタンドのように床に立てて、片目でウィンク、片手でピースサイン、かわいらしくマイクパフォーマンスをしていた。


 カチャーは嘆息して当初の目標を思い出そうとした。



「仲間割れはもういいだろ、もうすぐカネが手に入るっていうのにおまえら何やってるんだ」

「だってさアネキ、このチュウゴクかぶれがあたしの足踏んだんだよっ!」


 黒いボディスーツのえるふみみ幼女が抗議の目でカチャーを振り返り、かたやはくびしんみみの低身長幼女も泣きそうな目で黙ってカチャーを振り返りもう一人の幼女を指差す。


「…………!」

「わかった、わかった!二人とも落ち着け! ケンカするのはこの仕事が終わってからにしろ」

「そうだよー、ふたりともケンカはよくないんだからねっ☆」


「おまえはさっさと前に行け!」



 カチャーはミニガンでマイクパフォーマンスしているアイドル系きつねみみ覆面幼女の尻を蹴り上げ、残った二人に後ろの監視を指示する。


「J! ドアを吹き飛ばせ!」

「ガッテン☆」


 Jと呼ばれたアイドル覆面強盗幼女がミニガンを構えて弾倉にガンベルトをつなぐと、銃口をドアのほうへとゆっくり向けて、足を左右へグッと開き、腰を落として、ミニガンのトリガーを引いた。


 ミニガンの勢いは凄まじく、ロックされたスチールドアは跡形もなく吹き飛んで消え去る。


「いやっほぉう金庫だ!」

「…………!!!」


 さっきまでケンカしていたえるふみみとはくびしんみみの幼女が目をキラキラ輝かせて喜ぶ。


 きつねみみのアイドル強盗幼女が不満そうにちょっと小首を傾げた。


「うーん、ちょっとやりすぎちゃったかなーっ☆」

「V! J! ケーサツが来る前に行くぞ! 」


 先頭を行くアリスが皆に号令を出し、穴の空いた通路を先に行く。その後にJと呼ばれたきつねみみのミニガン覆面強盗幼女のジョルジュ・M、ハッキング担当のえるふみみ幼女デイメア・マア、運び屋のチュウゴク幼女アイシング・ラマー、列の最後にヴ・カチャーが続く。





 カチャーは5人の中で知能犯担当だった。


 だからこそだが、カチャーは他のメンバーには伝えていないある秘密を抱えている。

カチャーの目標は金儲けだが、目的はそれだけではない。

 故郷のみんなに仕送りをして、みんなを町に呼ぶことが目的だ。



 カチャーは、何が何でも強盗稼業から足を洗わなければならなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る