けもみみ強盗大作戦 ようじょ5(けもみみごうとうだいさくせん ようじょふぁいぶ)

名無しの群衆の一人

第1話


 銀行の自動扉をくぐるなり、8才の幼女アリス・テレッサ(職業強盗、特技は恫喝)はショットガンを屋根に向けて、一発ぶっ放した!

「全員床に伏せろォォォァァァアアアア!!!!!」




 身をすくませる閃光と軽薄な爆発音が行内を一瞬で凍りつかせ、部屋内にいた人々の視線が一斉に入り口に向かう。


 開け放たれたドアの前では黒づくめの人物が仁王立ちで立っており、短く切られた銃身とストックを脇に抱え、屋根にむかって黒光りする小さくも異様な物体を構えている。


 あってはならない光景。建物内にけもみみフルフェイスヘルメットを被った人物が銃を持っている。しかもその銃口からは、生々しいほどに黒灰色の煙が渦を巻きながら屋根にむかってゆっくり渦を巻いていた。




「強盗だ! 次は何もいわねェで頭を撃ち抜くぞ! さっさと床に伏せろ!!」


 唖然としていると、入り口からさらに4人の黒づくめの人間が押し入ってきてカウンターや銀行の客たちに銃口を突きつけた。


 客は驚き、怯えながらも言われた通りに床に伏せた。




 アリスは強盗だった。この何もない辺境の田舎町で気づいたら生まれており、本人が望もうが望まなかろうが孤児院で暮らしていた過去がある。


 この世界では亜人種が主な勢力を誇り、ねこみみ、いぬみみ、きつねみみ、とんがりえるふみみやごりらみみなど、多種多様な種族が仲良く暮らしている。


 おなじ亜人種同士なので互いに大きな争いや戦争をすることもなく、この空間境界世界を漂うようにしてきた飛行大陸パラミタは、永く人類世界との繋がりを持つことなく発展してきた。



 それが、つい数年前からだ。


 転生者と名乗る一族が種族関係なく突然生まれるようになってきて、パラミタ世界は一変した。


 無詠唱魔法の乱用による、パワーバランスの変化。


 新しい農作技術の導入と市場寡占による貧富の格差拡大。


 未知のテクノロジー流入による急激な文明の発達と、自然の崩壊。


 都市部の人口急増による地価の高騰と食料問題。そこを起因とした、闇奴隷制度の復活。奴隷狩り。山狩り、エルフ狩り、亜人狩り……


 廃亜人村の急増、犯罪急増、汚職、エネルギー不足、食糧不足、環境破壊、それからパラミタ大陸そのものでの記録的な異常気象。



 生きるために必死にならざるを得ないこの環境で、アリスは、強盗にならざるを得なくなっていた。




「金だ! 金をありったけ集めろ!」

「お前は立て! さあカギを開けろァ!! 開けなきゃコイツをコロス!」


 けもみみフルフェイスヘルメットをかぶった黒づくめの幼女5人組が、人質の一人をおっ立ててカウンターの前に立つ。

「ワン! ツーゥ…………スリー!!!!!!」

「わわわ、わかった! 今開ける!!」


 カウンター内側に立てこもっていた初老のいぬみみ警備員と半分くらいアナグマっぽい女行員が、震えながらカウンタードアを開ける。


 アリスは人質の亜人を乱暴に突き放して、けもみみ警備員や亜人種女行員にぶつけた。


「さあお前らに用はない。死にたくなければ奥の部屋にすっこんで鍵かけてとじこもってな!」

「こんなことをしても、警察からうまく逃げられるはずないぞ!!」

「警察の心配なんかおまえにされたくねェ! 死にたくなけりゃさっさといきな!!」


 アリスは声を張り上げて、ショットガンシリンダーを前後にスライドして見せた。


 銃から飛び出した赤色の空薬莢が、カシャリと音を立てて床に落ちる。


「ヘイ、A! 遊んでないでさっさとしろ!」


 黒づくめけもみみ幼女の一人が、アリスを振り返った。


 金庫はあと少しだ。アリスは警備員たちを奥の部屋に銃だけで押し詰めると、震える女行員の嗚咽を耳にしてほんの少しだけ罪悪感をかんじた。


「……恨むなら、こんな世の中にした転生者を恨むんだな」

「おいA!」

「いま行く!!」


 アリスはフゥと息を吐くと、小走りでその場を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る