第14話 テロリスト
翌日、本部大講堂で遠征の報告会議が行われた。
巨大な講堂には隊員たちがところ狭しと座り、前方のスライドへと目を向けている。
スライドの前には特別部隊を除く各部隊の隊長、議会の人間が座っており、厳格な空気を生み出していた。
一方その頃、特別部隊一行はいつもの自室でくつろいでいた。特別部隊は「場所をとる」というやや不明瞭な理由で会議に出席することが許されなかった。そのため仕方なく中型のモニターに講堂の様子を映し出して内容を聴くことになった。
「全く!遠征に参加したのになんで会議に出れないんだよ!」
風太は口をとんがらせて愚痴をこぼした。
風太は買い込んでおいた味噌味のカップ麺をズルズルとすする。
「所詮はまだイブのゴミ箱ね」
くるねは
「まあそうカッカすんな。前向きに捉えれば実家のような安心感で会議を聴けるんたまぜ」
京次郎は細目でいやらしい画像が映し出されたパソコンをいじりながらそう言った。
「おーい会議始まるぞー」
すらりと座っていた秀はほかごとをする三人に呼びかけた。秀はさらに丈に話しかけた。
「今回の論点は猿田隊員の死因でしょうね」
「おそらく、彼の死は不可解な点が多すぎる」
丈は適当な紙を用意し、メモの準備を始めた。
また後ろに座っている命たちも、スクリーンをじっと目を凝らした。
「それでは時間になりましたので、浜松遠征の報告会議を始めます。司会の第一部隊隊長の矢崎です」
矢崎のマイクを通したしゃがれた声は講堂全体に響き渡った。
矢崎は手元のリモコンを操作し、スライドを切り替えた。スライドには浜松駅周辺の地図が移された。
「まず、今回の戦果としてアメミットの大量生息地である駅周辺を無事、奪回することに成功した。途中、アメミットが駅を包囲するなどアクシデントもあったが、各々の冷静な対応で乗り切ることができた」
さらにスライドが切り替わり、グランドピアノが映し出される。
「えーまた、文化保護としてグランドピアノを預からせて頂いた。重要な文化な象徴と言えるので、未来に残していくために私達の手で大切に保管しましょう」
「遠征としては成功だが、今回の遠征で五名の命が失われてしまった。哀悼の意を捧げます」
矢崎はそう言ってスクリーンの下に並んだ五人の遺影に深々とお辞儀をした。遺影のそばには花が供えられている。
「それでは、本題に移りたいと思う。今回課題となっている点は、
スライドが切り替わり、猿田の顔写真が映し出される。その凛々しい表情は未だ生きてるかもしれないと思わせる。
矢崎はマイクを解剖班の隊員に渡した。
「解剖班代表の
スライドには猿田の遺体を再現したCGアニメーションが映し出され、解剖結果を分かりやすく解説されている。
「遺体に関しては問題ありませんでしたが、不可解な点がいくつか確認されてます。編集部の方に説明をお願いしたいと思います」
塩村がそう言うと座席の最前列に座っていた細身の女がすらりと立ち上がった。手には小さな手帳が握られており、紐のような字が敷き詰められている。
また編集部は主に裏ネットのニュース記事を編集しているグループである。
中川は手元のマイクを握り、説明を始めた。
「はい。編集部の中川です。えー、それでは説明されて頂きます。一つ目に、猿田隊員はアメミットに捕食されていないという点です。不幸中の幸いとも受け取れますが、アメミットは通常襲った人間を捕食するという習性があります」
「二つ目は、猿田隊員の遺体が確認された二階にはアメミットが居なかったと、特別部隊が証言しています。三階にはアメミットが複数体居たようですが、全体第一部隊によって討伐されています。その時はまだ、猿田隊員は生きていました」
中川は話し終わると、隣の眼鏡を掛けた男にマイクを渡す。
「同じく編集部の内藤です。アメミットに捕食されていない事例を挙げると、船でアメミットが出現し、三名が死亡した事例があります。またこの時採取されたアメミットの粘膜と、猿田隊員の傷から採取した粘膜が同種のものであるとのことです」
その瞬間、講堂全体が口々にざわつき始めた。
「何でどちらも有り得ない場所から出現しているんだ!」
「人為的な可能性も十分に考えられるぞ」
「誰かが菌をぶちまけんだんだ!そうに違いない!」
「しかしアメミットは卵生……、最初は菌をばら撒いて出現させるってことかな?」
「そしてそこから子孫を生み出す」
うるさくなった講堂に、矢崎の手がパンパンと鳴り響く。
「静粛に、静粛に。理論上、アメミットが何も無い所から出現することは有り得ないと考え、私たちはこれを人為的に引き起こされた可能性があると疑った」
「もし、人為的に引き起こされたのなら……」
丈はスクリーンを見ながら秀に呟く。
「――テロリストが組織に潜入してるってことだな……」
重々しい秀の言葉が、部屋に残響する。
「目星はついているですか!?」
若い隊員の声が、講堂に残響する。
矢崎は口をモゴモゴ動かして、咳払いを一回してから話し始める。
「猿田殺害に関しては駅の出入り口は塞がれていたため外部の隊員による犯行は不可能、よって駅構内にて討伐を行っていた十八名の隊員による犯行が考えられる」
スライドには命を含む特別部隊所属の隊員、礼や滝村を含む第一部隊一班所属の隊員の顔写真が無機質に並んでいた。
「うわ、疑われてるよ俺たち」
京次郎は口をとんがらせて言った。彼は馬鹿なので、特に理由もなく動揺している。
「無理もないよな、うん」
風太はカップ麺の汁をするするとすすった。
「イブのゴミ箱だとか言って根拠なく疑われないといいけど……」
くるねはそう言って目をしかめた。
すると講堂では一人のピンとした手が挙がった。編集部の中川の手であった。
「あ、君。何かあるかね?」
矢崎は中川を指名する。
「遠征中に第一部隊一班の
さらに続いて内藤が話し始める。
「そっ!それに!理由は不明ですが猿田隊員と貝塚新は相当不仲だったとのことです!」
名前を出され、貝塚はバネのように立ち上がった。貝塚は心臓のあたりを抑えて必死に弁明する。
「待ってくれ!俺はやってない!やってないぞ!」
たちまち騒然とした空気になった。まさかアメミットを利用して同胞を殺すという驚くべき犯行は、前代未聞であったからだ。
「騒ぐな!騒ぐなよ!」
貝塚は震えながら叫んだ。それに構うことなく周囲は貝塚を白い目で眺めては口々に呟く。
「糞が!おいてめぇ頭良いんだから証言しろよぉ!」
貝塚は隣に座っていた礼の胸ぐらを掴んで勢いよく揺すった。貝塚は取り乱していて我を完全に忘れてしまっている。
「おい!やめろ!」
滝村は声を荒げて貝塚の手を抑える。
さらに周りに居た隊員たちも貝塚を止めようと貝塚の身体を引っ張った。
「離せ!離せよ!」
「貝塚新君、疑っているわけではないが念の為持ち物検査をさせてもらう」
矢崎の声で場は少しずつ落ち着いていく。
「――そうか!好きにしろよ!俺の物全部調べても、何も出ねぇよ!」
貝塚は叫んだ。
そして矢崎の指示で解剖班や編集部が動き出し、貝塚の部屋へと向かった。合わせて貝塚も連行された。
「まさかこんなに早く犯人が見つかるなんて……」
優は頬を抑えて呟いた。
「まだ、物的証拠が出るまでは分からないけどね」
命はこわばった表情でそう返した。
「でも怖いですね。
エミリはそう呟く。
「彼の顔からして、常人の顔じゃないですね」
翔吾は珍しく冷静に呟いた。翔吾は物静かな分、人のことをよく観察できる人間のやうだ。
「じゃ、ちょっと貝塚の部屋見てくるよ」
「あ、命さん!ちょっと!」
命は静かに立ち上がり、足早に部屋から出ていった。
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