第10話 暗闇
午前八時、大勢のイブの隊員を乗せた軍用車両の大群は浜松駅南口の広めの駐車スペースで停車した。礼儀正しく並べて停車はせず、バリケードにするために無造作に停車された。
「もうちょっとで司令部長のから映像で指示があるからパソコンを準備するで」
特別部隊の軍用車両の中で、京次郎が言った。
京次郎は慣れた手つきでパソコンを立ち上げた。そしてそのパソコンを囲むように一行は画面を覗き込んだ。
そして司令部長の顔が画面に現れる。後ろには沢山のオペレーターがパソコンのモニターに向かっている。
『司令部長の
平宮の話が終わると同時、映像がぷっつりと終了した。
そして特別部隊は軍用車両の扉を開けた。晴れた太陽の光が差し込み、中で舞う雪のように舞う埃を照らした。
「いよいよ、だね」
と翔吾が命に言う。
「ああ」
二人は扉の向こうの景色を見渡しながら軍用車両から降車する。
無造作に停められた軍用車両からぞろぞろと隊員が降りてきて、作戦の内容やら、予備の武器の場所やらを話し合っている。その声が一つの緊張の種となり、命と翔吾を含む新人隊員の神経を揺さぶった。
「じゃあ京次郎とエミリはここでオペレーションをよろしく頼む」
丈の声に二人は頷く。
そして丈はタブレット端末を車両の床に置き、地図を開き、それを見せながら話し始めた。
「えー、特部は第一部隊と共に駅構内にいるアメミットを討伐することになっている。拠点となるため確実に討伐しなければならない。何かあったら無線で京次郎とエミリに伝えるように」
丈の言葉に「はい!」と返事をした。
そして特別部隊の七人は、駅の南口へと向かった。
駅の南口の前でで第一部隊と合流した。十数人ほどおり、その中には礼と滝村の姿もある。
「こちら特別部隊、隊長の九龍瀬だ」
丈は第一部隊の副隊長に敬礼する。
「第一部隊、副隊長の
丈と蟲部はお互い作戦内容を確認し合う。
「初陣がこんな暗闇の中だとか、なかなかハードだな」
礼が命に声を掛けてきた。暗闇の駅構内を前にしても、彼は毅然としている。
「ああ、なかなか重要な任務だよ」
と命は返す。
「それにどこからアメミットが出てくるか分からない。十分注意しないと」
そう言いながら礼はアクに分解液弾を装填した。
「では、入りましょう」
という蟲部の声と共に、隊員たちは駅構内へと足を踏み入れた。太陽の光だけがグラデーションのように差し込む構内に、隊員たちの乾いた足音が響き渡る。その足音にはガレキの音がまとわりついている。
隊員たちは懐中電灯で足元を照らしながら新著歩いた。
「結構荒れてますね」
翔吾が床に転がるガレキを懐中電灯で見ながら言う。
「三年前と変わってないってことだな。こんな状態が全国にあるってのかよ」
滝村がそう返した。
構内の状態は当時の悲惨さを物語っていた。柱には大きなヒビが入り、改札や電光掲示板、飲食店の看板などには塵が被さっていたり、また空気も埃っぽくなっている。
「一階にはいなさそうだな」
と丈は言った。
「じゃあ二階に行きましょうか」
とそれに蟲部が答えると、礼は蟲部に付け足しをする。
「この暗さで下手に動くと危ないかもしれないです。音を立てておびき寄せて、一階で戦った方がいいかもしれません」
「た、確かにそうだな。――じゃあ手榴弾で音を立てよう」
そう言いながら蟲部は手榴弾を取り出した。隊員たちは後ろに離れ、アクを取り出してスライドを引いた。
「命、私から離れないでよね」
優はそう言いながらアクのスライドを引いた。
蟲部は手榴弾の栓を抜き、床に転がして距離をとった。
ダーンと手榴弾が爆破する音が駅全体に響き渡った。その振動で埃がわらわらと舞い、爆破した場所では人の身長くらいの炎が立ち込めている。
「来るか……!?」
と隊員たちはざわつく。その瞬間、ガレキがカタカタと小刻みに揺れ始めた。その振動はだんだん激しくなっていく。
「来るぞ!全員武器を構えろ!」
丈は叫んだ。隊員たちはアクを構えた。
振動が激しくなり、その振動が振り切った次の瞬間、前方から轟音を立ててアメミットが飛び出してきた。その大型な図体は、まさに化物である。
「撃て!」
丈の声と同時に、隊員たちは一斉に引き金を引いた。数多の分解液弾はアメミットの身体に刺さり、瞬間的に破裂して液体が散る。液体が付着した部分はたちまち溶け始め、アメミットは体制を崩す。
しかしそれに怯まずアメミットは隊員たちに突進する。
アメミットは壁に衝突した。隊員たちは四方八方に散らばり、転倒する。
「翔吾!大丈夫か!」
命は仰向けになった翔吾に駆け寄った。
命は翔吾を守りながら、アメミットに追い打ちをかける。
「この化物がぁ!」
命は分解液弾を撃ち続けた。
しかし、命は撃つのをやめてしまった。アメミットの口には一人の隊員が咥えられていた。
「うわあああ!」
隊員は喉の奥から声を出し、手を振り回してジタバタしている。
さらに後ろからも大型のアメミットが次々飛び出してきた。
「囲まれた!?」
「クソッ!」
隊員たちは口々に言った。一瞬で絶望的な状況へと変わった。
「みんな……俺を置いて逃げろ……!じゃないと逃げれなくなるぞ……!」
咥えられた隊員は力を振り絞って叫んだ。その言葉に全員動揺する。
「いや、お前を置いて行くわけにはいかねぇ!」
一人の隊員はそう言うと、そのアメミットに分解液弾を撃つ。
「逃げろ……!早くしろ!」
隊員の身体はメキメキと音を立て始めた。
「ぜ、全員南口まで逃げましょう!」
張り裂けそうな声で蟲部は叫んだ。隊員たちは攻撃をやめ、一斉に北口へと走り出した。
「め、命さん!」
翔吾は身体を起こしてそう言った。
「駄目だ、あの人を助けないと!」
そう言って命はアメミットに攻撃を再開した。徐々に溶けていくも、その生命力は衰えることを知らない。
「君……!なにしてんだよ!早く逃げろよ……!」
次の瞬間、隊員の身体に牙がねじ込まれ、噴水のように血が飛散する。
「ああああ!嫌だぁ!嫌だぁ!明後日は、明後日は俺の結婚きね――」
隊員は容赦なくアメミットの体内に吸い込まれていった。床には隊員の血が溜まってのり、その上でアメミットはグチャグチャと音を立てて喰い散らかしていた。
命と翔吾はその様子を呆然として見つめる。
「何だよ……、コイツ」
命はアメミットを見上げた。いざこの化物と対峙すると身が一回り小さくなったような気がする。
後ろからもアメミットが二人に迫ってくる。その後ろにも溶けかけのアメミットとガレキの山、完全に包囲されてしまった。
「クソッ!ど、どうすれば!」
命は思わず声を荒げる。そんな命に翔吾が質問をする。
「残弾はあといくつ?僕は二発」
「えー、俺も二発だ……。そう考えるとアメミットを一匹も殺せないな。一匹さえ殺せれば、逃げ道ができるんだが……」
「そうだ、足に撃ち込もう」
「足?」
「それで体制を崩すんだ。すると口の位置が低くなる。そこに手榴弾を投げ込めば、倒せるかもしれない」
「――分かったぞ翔吾。俺が足を狙う。お前は口に手榴弾を投げ込め」
そう言って命は翔吾からアクを受け取った。残弾は合計で四発、アメミットの足の数も四本。外すことは断固として許されない。
命は前の三匹のうち、右端にいるアメミットの足に標準を定める。
冷たくなった両手がひしひしと震え始め、汗が顔を荒々しくなぞった。
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