第12話 新たな出会い(1)

 明日香が「この際――」と唇を尖らせて、投げやりに提案してきた。


「豊がガロを労働って形で稼いで、人を雇おうよ。こんなの私たちに解る訳がない」


 人を雇う……?


 そうだ、その手があった!


「流石、僕の彼女だ! 僕の考え着かない斜め上の解決手段を教えてくれる!」


「豊、本当に働くの? なら、私は宿でゆっくりと寝させてもらうね。将来の夢は専業主婦だから、豊だけが働けば良いの」


「そんな夢を今、僕に押しつけられても困る! それに、僕が働くなら、君も働け! 僕は怠ける奴が一番嫌いだ! 話が逸れたけど、『人を雇う』って着眼点が思い付かなかった! いるよ! 僕たちにない知識を持った頼もしい人たちが!」


 僕が振り向いた先には三人の少女たちが座って各々作業をしている光景が広がっていた。


 明日香は僕の考えている内容を察した。


「ここにいる三人の力を借りるってわけ? 上手く借りられるかな?」


「営業マンで成績トップの君が吐く弱音とは考えられないな。僕もフォローするから一緒に助けてもらえるように話しをしに行こう!」


 明日香はあからさまに「嫌だ」と表情で訴えてきた。


 何が嫌なのか僕には解らない。


 僕たち二人だと知恵が足らない。だから、先輩冒険者に知恵を借りるのがそんなに嫌なの?


 頭の片隅で考えながら、僕は一番近いテーブルに座っている美少女に向かった。


 美少女は分厚い本を黙々と読んでいた。年齢は今の僕たちと同じ一六歳。夜でも眩しい太陽の如き金髪ショートヘアが目についた。純白のカチューシャを着けていた。凛とした表情と整った顔立ちから強い意志を感じ取れた。服装が茶色を基調にしたロープ姿だから魔法使いだと判断できた。


 明日香が駄目なら僕が交渉する。


 魔法使いの美少女を前にして、今日までの経験を活かす。


「こんばんは。お勉強中ごめんなさい。僕は敬虔豊と言います。用件は一つ。君の知恵を貸して頂けませんか?」


 一礼して相手の出かたを伺う。


 美少女は本から目を放し、僕の顔を視ては、驚き、声をかけてくれた。


「物騒な夜に、あなたさまは満面の笑顔でわたくしに話しかけるのですね。気が狂っているのですか? それとも、何か別の意味があるの?」


 そう、僕は用件を端的に伝へる実践し、笑顔で話しかけた。


 なぜ、こんな媚を売る行動に出たか?


 理由は簡単だ。


 人間は見た目で人物像を九割判断する。


 初対面だとその割合は九割九分、見た目で決まる。


 どうすれば好印象を与えられるか?


 答えは「人間が一番素敵に見える表情、『笑顔』を浮かべる」だ。


 これが中々難しい。


 楽しくもないのに「笑顔を作れ!」と命令され、実践できる人は少ない。


「愛想笑い」と「笑顔」は全く違う。


 自分自身が心から楽しいと思い笑えたら、最高の笑顔ができる。


 僕は過去、社会人のイロハで師からこの真理を学んだ。


 実際、行うのは非常に難しかった。


 だが、体得すれば、コミュニケーションで最強の武器となった。


 美少女への言葉に精神誠意を込めて返す。


「君に出会えた運命に心から感謝をすると、嬉しくてたまらないのです。お名前はなんといいますか?」


「お上手ね。わたくしの名前はハル・エンバーグ。あなたたち、変わった見た目をされていますわね。どこの国の出身? 精霊とも違うエクラを感じますわ」


「ハルか、良い名だ。僕たちはこの世界の人間とは違う。そうだな、『別の世界から来た』とでも考えて欲しい。僕たちはこの世界で生き残る必要がある。だから、冒険者になろうと話をして来た」


 ハルは興味深そうに僕の話を聞いた後、質問をして来た。


 コイツは手応えがあった。


「冒険者は確かに、幅広く門戸を開いておりますから住所が不特定な人も職に就けますわ。でも、最初の課題はクリアできて? 別の世界から来たならユーグは複雑な街ですわ」


「だから、最初に話しかけた通りだ。僕と相方のギルドの場所を探す謎を解くため、君の知恵を借りたい」


 ハルは僕と明日香の表情を見比べて、軽い口調で話を始めた。


「解りました。あなたがたは悪い人には見えませんし、ユタカの笑顔は本当に素敵ですわ。その表情に負けました。わたくしで良ければ力を貸しましょう」


 よし!


 まずは土地鑑のある人物を得たぞ!

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