第8話 経験とは?(1)

「すみません。ここってジョブ判定とか説明をしてもらえる課ですか?」

 

 僕の声を聞いた受付嬢は営業スマイルを浮かべて答えてくれた。


「はい、そうですよ! 今、幻獣の勢力が非常に活発なんです! だから、怖がって新しい冒険者が来ない、『冒険者不足』が深刻な問題なんです! あなたは命知らずの猛者ですね! うんうん、独特の風貌からあり得ないエクラを感じます! 是非、冒険者ギルドに登録をお願いします!」


 二つ返事で「お願いします」と答えようとした際、襟を掴まれた。


 明日香が、目を輝かせて喜々とした表情で僕を見ていた。


「何よ、凄く楽しそう! 私、もしかしたら凄く強いかもしれないってこと? どうしよう! 運命的だわ! 豊、私に最初受けさせて!」


 こうなった明日香は面倒臭い。


 譲らないと駄々を捏ねる、泣く、駄々っ子パンチを放つお子様になる。


 仕方がない、譲ろう。


 順番を譲ると、明日香は受付嬢になだらかになったお胸を張って、声高らかに宣言した。


「私、本多明日香が最初に冒険者ギルドに登録してあげる! どうするの? 筆記試験? 指紋認証? 網膜認証?」


 受付嬢は「やった!」と歓喜に満ちた声をあげると、背後から地球儀に似た球体を取り出した。


 金(こん)色色(じきいろ)に装飾された球体だ。球体の上側に手形があり、下側には針が見える。


 受付嬢は慣れた手つきで球体の下に何も書かれていない白紙で長方形の名刺を置く。


 すると、喜々とした表情で語り始めた。


「これは経験(けいけん)血(ち)測定球儀です! 経験血とは『値(あたい)』とは書きません! 『血(ち)』と書きます! どんな者も自分の血液に『生まれてくる前の経験』と『生まれてきた後の経験』の二種類の経験が記憶されています! この球儀は二つを測定してギルドカードに書く機能があります!」


 明日香が首を傾げて、受付嬢に「解りません」といった口調で質問をする。


「つまり、生前の経験と私が今日までに体験した経験。この二つが重要なの?」


 受付嬢が指をパチンッと鳴らして答える。


「エクセレント! その上であなたに合った適正ジョブをわたくしが紹介させて頂きます! 同時にギルドも斡旋(あっせん)していますから、行く先は心配しないで下さい! さぁ、球儀の上に手を乗せて下さい!」


 明日香は受付嬢の説明を受けて迷いもなく、測定球儀の上に右手をポンッと置いた。


 測定球儀が淡く金色色に輝いた。測定球儀内で黄金色の液体が回り始める。その渦はドンドン速さを増していく。「測定球儀が壊れるのでは?」と思えるほどの速さに液体が渦を巻く。すると、渦が下に設置されていた針から流れ出し、白紙の名刺に文字を凄まじい勢いで記入し始めた。


 渦の勢いがおさまり、名刺に文字がビッシリと書かれたのを受付嬢が手に取り確認した。


 受付嬢は明日香の経験を確認しながら、驚きの声を漏らした。


「本多明日香様ですね! あなたは生前に『本多忠勝の経験』を受け継いでいますね! これは素晴らしい経験です! 生前の経験だけで前衛の全てのジョブに就けます! 圧倒的な経験です! 生後の経験も中々のもの! 是非、前衛のジョブに就くのをお勧めします!」


 受付嬢の話を聞いて、明日香は満足そうに僕に語ってきた。


「どう? 流石、私ってところでしょう! ふふん、豊より凄い職に就いて驚かせてあげる!」


 素直に明日香は凄いって実感した。


 職場でも営業職を女性でこなす、高いコミュニケーション能力があるし、運動神経も凄まじいから、活動的な職種に就くのは似合っていると心から思った。

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