第7話 冒険者ギルドへ(2)
明日香の馬車酔いが治ってから、僕たちは冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドまでの道は、商人のおじさんに教えてもらった。
地球時間で今は二一時――。
宿を探してゆっくり休みたい気分だ。
だけど、僕たちの持つ紙幣や硬貨は商人のおじさんに確認したが使えないのが解った。
この世界では「ガロ」と呼ぶ単位で硬貨が流通していた。
だから、僕たちは無一文の貧乏人だ。
冒険者ギルドで泊めてもらえないか交渉する以外は野宿しか道はない。
明日香がキョロキョロと物珍しそうに通りの左右を見る。
気持ちは激しく解る。
僕たちが歩いているのはユーグの生命線、「祝福の大通り」だ。露店が昼夜開かれていて、今は夕食時だ。人間だけならそんなに驚かない。
背が腰くらいの小人が顔を真っ赤にして酒を豪快に飲んでいた。尖った耳の美男子と美女が優雅に高級料理を露店で食べていた。身長が僕の二倍はある屈強な鬼が集団で肉をガッツク姿は「怖い」としか言えなかった。
そう、人間以外にも様々な種族が人間と仲良く暮らして夜を謳歌していた。
「戦争なんてありません」と騙されたかと驚いた。
そんな異形の人々からしたら、逆もしかり。
僕と明日香の姿を見た尖った耳の美男子がワインを片手に「珍しい人だ」と話しかけてきた。
小人たちは僕たちの足元で走り回ってはしゃぎ、歩く邪魔をする。
顔がライオン、身体は人間、尻尾が豹の獣人は僕たちを見て威嚇の咆哮をあげた。
黒髪、黒い瞳。黄色人種の僕たちは本当に珍しいと体感した。
怖い思いをしながら、冒険者ギルド前に辿り着く。
不思議な感覚だけど、イデア=ログの看板や文字は奇妙な書体をしていた。だけど、僕には日本語に変換して読める。明日香も同じだった。
この世界に踏み込んだ瞬間に一定の教養と知識の互換性が養われていると解った。
「冒険者ギルド」と書かれた看板を前に僕と明日香は立ち往生していた。
第一目標にしていた目的が達成された。
素晴らしいと思うけど、中が激しく怖い。これが共通の想いだった。
祝福の大通りで洗礼を受けたのが一歩踏み出すのを拒んでいた。
「ゆ、豊、ドアを開いてよ! ここは、男の子、彼氏の役割よ!」
「こんな時だけ使わないで。時には新しいこと好きな明日香が開けても良いんだよ?」
明日香に開ける役割を振る。
元の世界だと一番は常に明日香。僕は二番だ。だから、「遠慮しないで良いよ」と薦めると「意気地なし」と返された。
危ない役割だけ彼氏がするのは不平等だと感じます。
冒険者ギルドの扉を押し開く。
中は「石作りの市役所」って感じを受けた。入って右奥に様々な受付窓口があった。その前に机と椅子が規則正しく並んでいた。数はざっと見て二十台はあった。冒険者ギルドは広い敷地を持っていた。
今は三人の人間の少女が不規則に机に向かって座っていた。他の人は見当たらない。
人間の少女たちだけと解って、僕と明日香は安堵の声をあげた。
そのまま右奥の受付カウンター前まで進む。
受付カウンターには「討伐課」、「ダンジョン課」、「ジョブ課」、「カンパニー課」と四つの窓口に別れていた。
ゲーム好きの僕ならなんとなく解る。
「討伐課」、「ダンジョン課」は今後お世話になる課だ。多分、幻獣を討伐したり、幻獣の住むダンジョンを紹介してくれると考えられる。
「カンパニー課」はこのユーグで組合を作って所属するなら、お世話になる課だ。少し面倒臭い課だな。
消去法で僕と明日香が今、一番お世話になるのは「ジョブ課」だ。
ジョブ課の窓口まで僕が明日香を先導して進む。
窓口には若い受付嬢が書類に目を通しながら仕事をしていた。
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