第5話 少しの希望(2)
おじさんは僕たちの前で馬車を停めると、物珍しそうな表情をして語った。
「こいつは珍しいな。黒い髪に黒い瞳の人間なんて初めて見た。あんた達は賢者様か仙人様かい?」
「僕たちの姿はこの世界では珍しい」と一つ情報が得られた。
だが、今、そんな情報以上にお願いしたい内容があった。
「おじさん、話が通じるなら僕たちを街まで馬車に乗せてもらえませんか? お金はありません! でも、こんな危険な森林の中でおじさんに見捨てられたら僕たちは死んでしまいます!」
おじさんは白髪交じりの髪をクシャリと撫でると、質問してきた。
「あんたたちが困っているのは見たら解る。だが、不審者だ。もしかしたら、『幻獣』がまやかしの術を使って俺の荷物と命を狙っている可能性だって考えられる。あんたたちが俺と同じ人間だって照明できたら助けてやるよ」
「そんなぁ! こんな美女を見捨てるなんて、おじさん絶対後悔するよ! 豊、どうしよう?」
騎手のおじさんの言葉からこの異世界についての状況が少し掴めた。
おじさんは「俺の荷物」と語った。荷物が大切ならおじさんの職業は「商人」ってわけだ。また、商人のおじさんが気にしているのは僕たちが「人外の者」の可能性だ。人外の者は「幻獣」と呼ばれているのが商人のおじさんの言葉から解った。
今日のここまでの経験で、商人のおじさんの協力を得る条件。それは、僕たちが「幻獣ではなく人間だ」と照明すれば良い。
つまりは――。こうだ!
右手親指先の皮を歯で噛み切る。
当然、痛い。
出血するし、肉が見える。
だが、これこそが僕たちが「人間だ」と語る何よりの証拠だ。
「おじさん、この紅い血が見えますか? 僕たちは幻獣ではありません。赤い血の通う人間だ。当然、彼女も同じ血が通っている。だから、助けて下さい!」
商人のおじさんは僕の親指から流れる血を見て、顎に右手を当てた。
「そこまでされたら、あんたたちを助けるしかない。あんたたち、ここの知識がないみたいだ。最初に教えてやる。ここ『イデア=ログ』で街と指すと『ユーグ』しかない。他の階層の街は幻獣に支配されちまった」
商人のおじさんが真剣な表情で語る。声色は低く、どこか悟った感じを受けた。
商人のおじさんに促され、四輪荷馬車の後ろから乗り込んだ。
荷台にはこの世界の果物や野菜、衣類が木製の箱に詰め込まれていた。桃色の人参。金色色の苺、麻の服。全て、商人のおじさんが扱う店の品だと考えるなら、かなり手広い商売と人脈を持っていると考えられた。
明日香と並んで荷馬車の隅に座り込む。僕と明日香二人が三角座りをしたらもう歩く場所はなかった。そこまで、商人のおじさんが積んでいた荷物は多かった。
商人のおじさんが僕たちに「準備は良いかい?」と語りかけてくれた。
乗り物に酔いやすい明日香は青ざめた表情をしていた。今後、どんな苦痛が自身に起こるか想像してげんなりしている。
とても、返事をする元気はないと解った。
だから、僕が「お願いします」と返事をした。
馬四頭に引かれていた荷馬車は鞭の音と同時にゆっくり動き出した。
僕は旅の道中、商人のおじさんと話をしながら、「異世界イデア=ログ」の情報を集められるだけ集めるのに徹した。
どうして、僕と明日香がイデア=ログに踏み込んだ?
元の地球にかえれるか?
沢山、後ろ向きな考えが浮かぶ。
だが今は前を向いて、できる内容を探す。
僕たちの運命がどう流れるか?
それは誰も解らなかった。
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