第3話 異世界召喚(3)
炎の海を作り出している燃料の元は、スライムの肉片だ。
僕は自分自身が成した内容を考えて、合掌した。
仏も神も今、僕たちをこんな現場に送り込んでくれたから、信じていないけどね。
明日香が不思議そうに話しかけてきた。
「なんで、豊はスマホを投げるとベトベトが燃えるって知っていたの?」
「三年間も一緒に過ごした君の台詞とは思えないな。唯、スライムの身体はなんでも溶かす。つまり、強酸性の体内構造をしているって推測した。そこへリチウムイオン二次電池を投げ込むと酸化が起こる。すると、酸素と化合したリチウムイオン二次電池は発火するって考えた」
「良く解らないけど、燃えてもう襲って来ないのは確かなのね。なら万事解決よ。良くやったわ。でも、スマホを失くしたら今までのバックアップとか連絡帳、どうしよう? ショップでも復元できないよね?」
「電話番号やアプリより命が大切だとは考えない。流石、都会っ子は違うね。僕は今、色々考えているけど、ちょっと、嫌な考えに行き付いたよ」
僕は右手人差し指を鼻元に当てる。
この癖は僕が良くない話をする合図だ。
明日香は僕を良く知ってくれている。
表情が強張って、右頬がヒクヒクと痙攣していた。
「ここは僕たちからしたら『異世界』だ。どんな運命の悪戯か解らない。でも、僕と明日香は異世界に召喚された。さっき倒したスライムは『最弱の敵』として僕たちをこの世界に招いた奴が仕掛けさせた必然の戦い。つまり、『チュートリアル』なんだよ」
「芸人グループ名を出して私から笑いを取ろうとしても無駄よ。今は真面目な話をしているの。 このお馬鹿さんは本当に空気が読めないのだから――」
「お馬鹿は君だよ! 芸人グループ名とは違う! 『個別指導』って意味で使ったの! 君はゲームをしないから解らないだけだ!」
僕が怒っても明日香はどこ吹く風だ。
危機が去ったら普段通りの「不真面目な彼女」だ。
僕が好きになったのはそんな不真面目で、いい加減な部分だから痘痕(あばた)も靨(えくぼ)だけどね。
「いいかい? ここからは、僕の指示に従って動いてもらうよ。まず、最初に話し合った通り森から出よう。その後、街に着いたら冒険者ギルドを訪ねる。ここまでを第一目標にする」
「簡単ね。何でそんなに必死になるの?」
「君は身体で感じた。スライムは最弱の魔物だけど、今の僕たちにとってはライオン以上に怖い相手だって――。本当に死ぬよ」
「死ぬのだけは絶対に嫌! 豊の指示に従うわ」
命がけで冒険する日が来るなんて夢にも思わなかった。
大きくなってしまった、スーツのジャケットを脱ぐ。カッターの袖を丸め、ズボンの裾も丸める。不格好だけど、今はこんな格好で進む以外方法はない。
明日香もコートを脱いで、カッターシャツだけの姿になった。
だけど、なぜかチラチラと僕を見ては視線を気にしていた。
「どうしたの? 何かあった?」
「本当にお馬鹿! 彼氏なら解ってくれると思ったけど、期待外れだったわ! プンスコよ!」
「何で怒っているんだい? ハッキリ言葉にしてくれないと、解らないよ」
「変な部分は深く知っているのに、こんなガラス張りの女心を知らないなんて……。本当に失望だわ!」
明日香が自分自身を抱くようにして、頬を赤めて恥じらっている。
恥じらう明日香は好きだから、脳内カメラに保存しておこう。
明日香はスケベ関係で常に恥じらうから、僕の脳内フォトギャラリーは明日香だらけだ。
ん?
待てよ。
確か、明日香は――。
「君は寄せてあげるブラに乳パットを挟んでやっとBカップだった。女子高生だとそりゃ悲惨なまな板状態か。ごめんね、気付かなくて――。僕は叢に隠れるから、存分に乳パットをいじってくれ。あぁ、そうだ。存分に偽乳を捏造するが良いさ!」
その後、記憶が数分間消し飛ぶほど、マウント・ポジションを採られてマシンガンの如くパンチを顔面に叩きこまれた。
明日香さん、怒らしたら半端なく怖い。
スライムの怖さなんてちっぽけなものさ。
ある意味、こっちのほうが命がけの冒険だよ。
そんなこんなで、僕たちの真実を探す冒険の旅は幕を開けた。
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