第13話 霧崎奈波
その咆哮は地面を揺らし、空へと轟いた。
その場で瓦礫の片づけをしていた人々や捕らえられていた兵士たちは唖然としていた。
剣から吐き出される黒い煙が少年を取り巻き始めたのである。
「何なんだアレは……」
誰かがそうぽつりとつぶやいた。
健康そうな小麦色の肌から赤いうろこが生え、爪は鋭く太いものへと変化していく。
全身から黒い煙を吐き出しながら、姿を変えていく。
「ネリ! 何があったんだ!」
ヌーファスが駆け寄ろうとすると、大国の兵士が彼に縋りついた。
顔面は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになり、勇ましさのかけらもなかった。
「だから! だから、言ったんだ……それを持つんじゃないって!
けど、聞かなくってよぉ……くそがっ!」
「どういうことだ」
「あの剣にはドラゴンが封印されていたんだ。
かつて、大国を滅ぼしたという伝説の赤いドラゴンが眠っていたんだ!
ノバ様から丁重に扱うよう命令されていたってのに……ああ! くそ!」
兵士はこぶしを地面にたたきつける。
ノバといえば、あの魔導士のことだろうか。
さらに問い詰めようと、彼の胸ぐらをつかむ。
「ノバと言ったな、あの魔導士のことか!」
「そうだよ! それ以外にいるかよ!
俺たちはノバ様の命を受けて、こいつを運んでいたんだ!
なのに、途中で帝国の連中が邪魔してきやがった!」
兵士は駄々をこねる子供のように、あたりに喚き散らす。
「ああ……おしまいだ、俺たちはここで死ぬんだ!」
こいつは使い物にならない。
ヌーファスは彼を放り、ネリのもとへ駆け寄ろうとする。
しかし、煙の勢いは増すばかりで一向に近づけない。
煙が収まると、ようやくその姿が見えた。
そこにいるのは、かつてのネリではない。
彼と同じくらいの背丈の赤いドラゴンがそこにいた。
「ネリ!」
言葉は届かなかった。
ドラゴンは翼を広げ、どこかへ飛んで行った。
取り残されたヌーファスはただただ、その場に立ち尽くすのだった。
「あらら……丁寧に運んでねってお願いしたはずなのだけれど」
ノバはエルフの森のほうを見ていた。
困ったように眉を下げ、頬に手を当てる。
「契約完了しちゃったみたいねえ……困ったわ。
この子たちじゃ、太刀打ちできないでしょうし」
彼女は大国に剣を運ぶように頼んでいた。
大切なものだから、丁寧に扱うように念を押していた。
輸送が成功したら、莫大な報酬を与えることも約束していた。
「これじゃ、何のためにこの子を連れてきたか、分からないわね」
足元で眠るアンを見る。
せっかくここまで連れてきたというのに、すべておじゃんになってしまった。
彼女が連れてきた三体のドラゴンも同じ方向をにらみつけていた。
体を起こし、すでに戦闘態勢に入っている。
「まあ、向こうから来てくれたと考えましょうか」
ノバはそう思いなおし、ペンダントを握りしめた。
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