第3話 松本 せりか


「あんた何バカなこと言ってんのよ。足手まといになるに決まってるでしょ?」

 意気揚々と言っているネリに、アンは焦って言った。

(だって、ネリがいなくなったら、私……)

 私? そこまで考えて、いなくなったら、何なんだろうとアンは思う。

「アン?」

 ネリが不思議そうにアンを見てる。

 その視線を感じて、アンは取り落としたパンを拾った。


「ああ。良いにおいだ。腹が減った。なぁ、ガルム」

 バタンと音がして、扉が開いた。

 二人の話は、取りあえずは終わったようだった。

「奥さんの手料理が恋しくてなぁ」

 ガルムもヌーファスに合わせてそういう。

「もう。お上手なんだから、たいした物じゃないけど、沢山食べて下さいね」

「いや~。家庭的な料理が一番さ」

 皆で食卓を囲む。

 ガルムの旅の話はいつも楽しくて、冒険に満ちていて。

 子ども達の前では、きな臭い話なんかしないものだから。

 ネリもアンも、世界は平和で輝きに満ちていると信じていた。

「おう、アン。文句言ってたから着けてくれないと思ってたが。

 ちゃんと着けてくれたんだな。その首飾り」

 アンを見るなりガルムが言ってきた。

「そりゃ……ね。折角のお土産だし? 私に加護があるように願ってくれたんでしょ?」

 ぷいって感じで、アンが言う。

 ガルムはそんなアンが可愛くて。思わず頭を撫でた。

「もう。また、子ども扱いしてぇ」

 アンがガルムの手を払いのけようとする。

 でも、本気でイヤがってるわけでも無いから、じゃれてるだけって感じだ。

「おじさん。次、旅に行くとき、僕も連れて行ってよ」

「ネリをか? う~ん、そうだなぁ~」

 ガルムは考える振りをするが、父親のヌーファスはネリに諭すように言う。

「おまえなぁ。剣もロクに使えないだろう? 疲れても、抱っこだおんぶだって、言ってられないんだぞ」

「なっ。そこまで子どもじゃ無いよ。……剣は、まだそんなに上手くないけど」

「ほ~ら。おじさんからも足手まといって言われた」

 少し馬鹿にするようなアンの言い方に、ネリはカチンとくる。

「アンだって足手まといだろ」

「あら。私は付いて行きたいなんて、これっぽっちも思わないわ」

「まぁまぁ。俺はしばらくはここにいるから」

「え? 本当? やったー!」

 ネリは飛び上がらんばかりに喜んでいる。

 その横で、ヌーファスは複雑そうな顔になった。

 ガルムが、アンの首から下がっている異国王から貰った古いお守りをジッと見ていたから。

 面倒事に巻き込まれないといいが……と、思いながら。

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