書き下ろしSS
小説&コミック同月発売記念SS「束の間のひととき【シスラン編】」
小説&コミック同月発売記念SS 束の間のひととき【シスラン編】
「おいセシリア、出掛けるぞ」
「へ?」
いよいよ来週には隣国のヴェルヘルム皇帝陛下がこの国に訪問する。だから忙しくなる前に今日は部屋でのんびり過ごすつもりでいた。だけど突然シスランがやってきてそんなことを言い出してきたのだ。
「一体何? そもそもどこに行くつもりなのよ」
困惑しながらシスランに問いかける。しかしシスランは無言で私に近づくと、腕を掴んできた。
「いいから行くぞ」
「ちょ、ちょっとシスラン!?」
結局私の言葉など聞き入れてもらえず、そのまま部屋から連れ出されてしまったのだ。そうしてシスランの馬車に乗せられ向かった先は、王都にある国立図書館だった。
「どうして図書館?」
建物を見上げながら首を
「ほら、中に入るぞ」
「いや、説明を……」
「ついてくればわかる」
それだけ言うとズンズンと中に入り、脇目もふらずに奥に向かっていく。そして扉の前まできてようやく足を止めた。その扉には『関係者以外立入禁止』の札がついている。しかしシスランは迷うことなくその扉を開けたのだ。
「シスラン!?」
「大丈夫だ。許可は取ってある」
シスランに
箱の中の本を見ると、
「シスランここは?」
「各地から集められたさまざまな本を、表に出す前に修繕をしたり内容の検査をしたりする場所だ」
「へ~」
シスランの説明を聞いて、私はもう一度部屋を見回す。
「それでどうして私をここに?」
そう問い掛けると、シスランは本棚に近づき一冊の本を手に取った。
「これをお前に見せるためだ」
私はシスランからその本を受け取り、タイトルを見て気がついた。
「これずっと読みたいと思っていた本だ! だけどもうこれ何十年も前に絶版になっていて、入手不可能になっていたはずじゃ……」
「偶然見つかったらしい。一応ここの司書に、もし入荷することがあれば連絡して欲しいと頼んでいたんだ」
「そうなんだ! シスランありがとう!」
嬉しくなって本を抱きしめながら笑顔でお礼を言った。するとシスランは、頬(ほお)を赤らめながら顔を逸らす。
「ふ、ふん。別にお前のためにしたわけじゃないからな。俺も読みたいと思っていたからだ」
「それでもありがとう」
「もういいから。それよりもそこに座って読んでいろ。その本は希少価値が高いから貸し出し禁止になっている。ここでしか読めないぞ」
「シスランは読まないの?」
「俺はお前が読み終わった後に読むから気にするな。どっちにしろこの仕事を先に終わらせないといけないしな」
「仕事?」
するとシスランは、机の上に山積みになっている本を指差した。
「内容の確認だ。その本の代わりに引き受けた」
「そうなんだ……」
もしかしたらこの本のために無理をしてくれたのかもと思い、申し訳ない気持ちになる。
「ああ別に気にしなくていい。これはもともと頼まれていた仕事だったからな。だから引き受ける代わりに条件を出しただけだ。さあ時間は無限じゃないぞ」
シスランはそう言うと、長椅子に座るよう促した。私は苦笑いを浮かべながらそれに従い早速本を読み出す。するとそんな私の隣に、仕事の本を持ったシスランも座ったのだ。
(そういえば昔もこんな風に並んで本を読んでいた頃があったね。ふふ、ただすぐにカイゼルがやってきて、読書どころじゃなくなってしまったけど)
その時のことを思い出し、自然と笑みがこぼれる。
「セシリア、何か面白い部分でもあったのか?」
「ううん。ちょっと思い出し笑いをしていただけだから気にしないで」
「……そうか」
そうして私とシスランは、無言でそれぞれの本を読むことに没頭していったのだ。
◆ ◆ ◆
「……ん、う~ん」
私は小さく
(えっと、ここって……)
目が覚めたばかりでまだ頭がハッキリしない。するとそんな私のすぐ近くから、シスランの声が聞こえてきたのだ。
「ようやく起きたか」
「……え?」
私は何度か瞬きをして顔を向けると、シスランの端正な顔が間近にあることに驚いた。
「……っ!」
慌てて体を起こしシスランから離れる。どうやらいつの間にか寝てしまい、シスランの肩に頭を乗せてしまっていたらしい。
「ご、ごめんね!」
「いや、大丈夫だ」
「私……どれぐらい寝てたの?」
「約三十分ぐらいだな」
「そんなに!? 重かったでしょ? 起こしてくれてもよかったのに……」
「別に重くなんてなかったからな。むしろ……いつまでもこの時間が続けばいいとさえ思っていた」
「っ……」
少し頬を赤く染めながらじっと見つめられ、私の顔が一気に熱くなる。
「え、えっと……」
ドギマギしながら動揺していると、シスランがふっと笑う。
「お前のそんな姿が見られるなんてな。今日ここに連れてきた
「シ、シスラン!?」
「ほら、まだ途中だろ? 続きを読んだらどうだ? ああ安心しろ。また眠たくなったら、俺の肩を貸してやる」
「も、もう寝ないわよ!」
「ふっ、だといいな」
楽しそうに笑うシスランにムッとした顔を向けるが、おそらく私の顔は赤くなっていたことだろう。
それからどうにか読書を再開したが、全く本に集中することができなかったのだった。
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