デスサンタ メル・アイヴィー

氷桜羽蓮夜

デスサンタ メル・アイヴィー

 ある日の昼下がり、排水口近くでのことだった。


「ハーイジョージー!」

「うるっせぇんだよ死ねやカス!!」


排水口から見える顔に向け、豪速で蹴りを突き込んでいる少女がいた。


「ゲフッ……」


弾ける頭の感触に、桜色の髪を背中まで伸ばし白を基調とする洋服を着た少女メル・アイヴィーはといえば。


「アハッ……! 最っ高……!!」


瞳孔を開き残忍な笑みを浮かべて囁いた。



それは、雪が降り落ちイルミネーション光る、俗に言うクリスマスの夜のことだった。


「ごめん、君とはやっぱり付き合えない」


幻想的な場の中で、乾いた声が木霊する。


「何で……」


その声に相対するは、桜色の髪を背中まで伸ばし純白を基調とする洋服を着たメル。


「だって……性格が……」

「性格が、何? どうしたの!? 私、何かしたの!?」


目を押さえ言葉を絞り出す男に対し、メルは感情的にそう叫ぶが。


「今手に持ってるやつ言ってみろ!?」

「ん? 金属棒鈍器がどうかしたの?」


私何か変なものを持っているかと、血塗れの男と鈍器を手に首を傾け問いかける。

そんなメルの言葉に、男は一瞬だけ言葉を詰まらせて。


「どうしてそうなっちゃったんだよ……!! 前までは清楚で可愛くて、もうとにかく可愛かったのに……!!」


やりきれないといった様子で、声を震わせ涙を流す。


「今は違うって言うの!?」


そんな男の様子に、メルは驚愕の声を響かすが。


「どこの世界に鈍器持って闊歩してるまともな奴がいるよ!!」

「ここにいるよ!?」


何当たり前のこと言ってるんだとでも言いたげな様子に、男は息を飲んで目を伏せて。


「……ッ!! さよなら……!!」


次の瞬間、踵を返して走り去る。


「あ……」


そんな男へと向けて、メルは微かに手を伸ばし。

暫し時が止まった後で、メルは電柱を殴り倒して吐き捨てた。


「糞野郎がぁっ!!」



そして、事のきっかけは、本当に何でもないことだったとメルは言う。

電柱を殴り倒して車を蹴り壊し、破壊に破壊を重ねた先で暇に飽き、しばき倒す相手を探している時のことだったそうであるが。


「ん?」


何気ない顔でふと足元を向いた瞬間に、惨劇の全てが始まった。


「あ?」


そこには、自身の足首を掴む手首があって。

メルは一切の感情を含まぬ顔で目線を動かして、それが微妙に開いた下水道の蓋から出ているところまで辿り。


「アッハ……!!」


虚ろで残酷な笑みを浮かべたメルは、舌で唇を濡らしながら手にする棘のついた金棒を振り上げて。


「お前はどんな声で鳴いてくれるのかな!!」


下水道の蓋を蹴り飛ばして粉砕し、金棒を勢いよく振り下ろす。


「ギャアッ!!」


鈍い音が響いた瞬間、メルは飛び退き金棒を振り上げ愉悦に満ちた低い笑い声を響かせて。


〈爆☆ぜ☆ろ!!〉


爆発音を響かせて、下水道より花火を上げる。

だが、待てども待てども何も起こらぬ様に、メルは失望げに息を吐き。


「何だ、つまんねぇの」


そのまま何事もなかったかのように、踵を返して歩き出す。

しかし、歩くたび何度も何度も地面から伸びる手に掴まれて。

その度に表情を変えることなく普通に歩き手を引きちぎっていたのだが。


「ハァーイ、ジョージィー!」


排水口近くを通った時に、またも足を掴まれた時のことだった。

その時、ようやくそれへと視線を移したメルはと言えば。


「うるっせぇんだよ死ねやカス!!」


瞬時に表情を般若のそれへと変えて、排水口より見える顔へと躊躇うことなく蹴りを打つ。


「ゲフッ……」


その瞬間、鈍い音が響くと同時に「それ」の頭は弾け飛び。

メルは、瞳孔を開き残忍な笑顔を浮かべて囁いた。


「アハッ……! 最っ高……!!」


その声に、後ろに佇んでいた「それ」は飛び上がり。

背を向け逃げ出そうとするも、肩を捕まれ身を震う。


「よぉ、どこ行くのか教えてくれや」


地獄の底より響くような低い声で囁くメルは、頭部を押さえつけてそう凄み。


「ん?」


手の感触に首を傾げたメルは、視線を動かしそれの頭部へと目を向けて。


「……今度は何だ?」


平坦な声を、響かせた。


「あ、あの……」


そう告げる「それ」は、頭部がプリンの質感をし黒いサンタの服を着た者で。


「何でもいいや、とりあえず死ね!!」


数秒間固まったメルは、唐突に金棒を振り下ろし頭部を消し飛ばして息を吐く。


「きぃ……もっちいぃ〜い!!」


唐突に覇気を取り戻したメルは、仕事終わりに酒を飲む親父のような声を汚く響かせて。


「他の奴はいないかなぁ……!!」


鋭い歯を見せ不敵に笑い、街を縦横無尽に駆け回る。

不審なところあらば蹴り壊して確認し、邪魔する者あれば殴り殺して突き進み。


「おいどうする、俺たち乱獲されてるぞ」


日付が変わろうとする頃には、プリンの頭をした者たちが深刻な声音で顔を突き合わせていた。


「あれは、魔法少女か?」

「いや、魔法少女なんて生易しいものではない!!」

「そうだそうだ!! あんな凶暴で凶悪な悪魔みたいなやつが……」


そんな、半狂乱で頭部プリンの黒サンタ服たちが叫んでいるところで。


「ハーイプリン共ぉー!」


突如壁が吹き飛んで、地獄の底より響き渡るがごとく重低音を響かせる。


「「ギャアァァァァッッッッッ!!!」」


叫び逃げ惑うプリン頭たちの中、金棒を担ぎ壁を突き壊したメルは残酷な笑顔を浮かべて進撃し。


「良い声で鳴くじゃねぇか、もっと楽しませてくれよ!!」


無差別に金棒を振り上げては振り下ろし、頭部を破裂させて愉悦に満ちた歪な笑い声を響かせる。


「どうしたどうした、もっとあたしを楽しませろよ!! 抵抗しろよ!!」

「ま、待て……!!」


抵抗能わず一体、また一体と命の灯火が消える中。


「話し合おう!!」

「そ、そうだ! 我々はブラックサンタだ!! お前、カップルが憎くないか!? 失恋したお前を放って騒ぐ世間が憎くないか!!」


そんな声に、メルは動きを停止する。

それを好機と見るや、プリン頭のブラックサンタは祈り乞い願うように言葉を紡ぐ。


「我々ならクリスマスとかいう祭りを血の祭典に変えられる!!」

「そうだ! 我々と共に、クリスマスを壊さないか!!」


そんな、文字通り命がけの説得にメルは一瞬だけ虚空を見つめ。


「……面白い、あたしを振ったやつも街中で幸せそうな顔してるやつも、全部……全部ぶっ壊してやるよ……!!」 


金棒を地に叩きつけて地割れを起こし、般若が如き形相で吐き捨てる。

そんなメルの声に、ブラックサンタたちは飛び上がり。


「行ぃくぞ野郎共ぉっ!!」

「「うぉぉぉうっ!!」」


ここに、生存を掛けた血のクリスマスが始まった。


「リア充はいねがあぁぁっっ!! 幸せオーラを撒き散らす、地獄の苦しみ欲しい害虫はいねがあぁぁっっっ!!!」

「「わぁ……うわあぁぁぁっっっ!!!!」」

「逃げろ、とにかく逃げろぉぉっっ!!」

「歩美、歩美いぃっっ!!」

「頼む、我らのために死んでくれ!!」

「翔太……!? ねぇ翔太、返事をしてよ……!!」

「アーッハハハハハハ!! あたしを振ったあの男も、街中で幸せそうな空気振り撒いてる害虫もみんな死ねぇっ!!」


だが、そんな死の祭典クリスマスも唐突に終わる。

メルが、自宅の寝室で目を開けたことによって。

暫し周りを見回した後で、メルは大きく息を吸い。


「あ"……あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"っ"っ"っ"っ"っ"っ"っ"っ"!!!」


どこまでが現実でどこからが夢なのか、本気で考え込んだという。

その後数日間、メルの消息を知る者はいなかったというが。

その間彼女が何をしていたのかは、歴史の闇に葬り去られることとなる。

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デスサンタ メル・アイヴィー 氷桜羽蓮夜 @HioubaneRenya

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