プロローグ4
ガチャリ。
おそるおそるドアを開けると、そこにはこんもりとした空気が残っていた。早朝に家を出たまま手つかずの風景が目に映った。
じいちゃんに呼び出されてから一度も帰宅していないので妙に蒸す。
「わぁ、景色いいね。富士山も見えるー!」
「なっ、勝手に」
かえでがいつの間にか部屋の奥へ不法侵入し、小さな窓を全開にしていた。
「あっ、あんなところに
近所の和菓子屋を見つけて女子高生がはしゃいでいる。
なんともコミカルな情景だ。
「お腹、空いてないか?」
「ん? 大丈夫だよ。新幹線でゆで卵食べたからぁ」
そういえば、パクパク食べてたな。
「かえで。ココで何するんだ? 明日まで時間あるだろ?」
「台本の練習だよ。
「島津さん?」
「そうそう。明日一緒に仕事する声優さんだお」
「ってか、明日の仕事って何?」
「実はこの間出演した映画がヒットして学園祭に呼ばれたんだぁ」
「大学とかの?」
「そう。すごいでしょ!」
「高校生が?」
「だ・か・ら、制服で来たの」
「なるほどねー」
ことわりもなく俺のベットに腰掛けると、かえでは黒い学生鞄から台本らしきものを取り出した。
「ほら、読んで」
「かえでのは?」
「もう全部覚えた」
「そ、そうか」
地味に声優って、すごいんだな。
「キョウはイベントにアツマッテくれてアリガトウ」
完全な棒読みだった。
「違う。もっとテンション上げて!」
「はい、はい」
「じゃあ、続きを読んで」
「まずは私、
「こんにちはっ! 一橋かえでです」
「なんか、お前のセリフ普通だな」
「いいの。トークショーなんだから」
「みんな、映画は見てくれたかな? かえでちゃんは、あの映画で女子高生役をやってくれました!」
「続けて」
「なんか、この島津さんのセリフ多くないか?」
「人気声優だからね」
「私はヒロイン役をやっていました。今日は、この二人でイベントを盛り上げていくねー!」
という具合でかえでが二割、俺が八割のパーセンテージで台本の読み合わせが続いた。
声優っぽい声を出すのかと思ったら、まったく二人で会話しているときと変わらなかった。
この声を出す運動というのは、やたらとお腹が空く。
かえでもそうだったらしく、みそかつ定食をオーダーしてきた。
ここは定食屋じゃないっつーの。
とりあえず、トマトとバジルのチーズパスタを作った。オイルベースでこがしたニンニクを隠し味に使う。
すると、かえでのいる部屋まで香りが漂ってきたようで、ひょこひょことガスレンジの前までやって来た。
「うわぁ、いい匂い」
「ふっふっふ。忍法ニンニクの術」
「やるねー」
「これしか作れないけどな」
「前言撤回」
こうして根津の夜は更けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます