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 無遠慮に鳴り響く音に、忌々しげな表情を浮かべて監視カメラを睨むミク。


 そして、警告と逃亡の提案。


「どうやら時間切れみたいだ。ここの監視システムは、君の事がお気に召さなかったらしい。直ぐに警備BOTがここへ押し寄せてくるから、今すぐここから離れよう」


 彼女はドア横のパネルを乱暴に叩いてドアを開け、手招きする。


「こっちだよ! 早く!」


 そう言って僕を急かし、来た方向とは反対側に向かって走り出す。


 流石に見た目通り若い彼女は足が速く、付いて行くのがやっとだったが、後ろから追ってくる警備BOTが僕を必死にさせ、普段以上の力を僕から引き出した。


 激しい動きで視界が揺れ動く中、廊下を駆け抜けて階段を降りるミクを必死で追っていくと、やがて非常口と思しき扉の前まで辿り着いた。


 ミクはその前でコードを唱える。


「アルファ、キロ、インディー、ホテル、インディー、ロメオ、オスカー」


 扉のロックを示す赤い表示が、解錠を意味する緑の表示へと変わると、ミクは扉を開いて叫ぶ。


「早く外へ!」


 言われるままに外へ飛び出ると、目の前に先程のタクシーが止まっていた。


 僕がそれに飛び乗ると、ミクも続いて乗り込んで行き先を告げる。


「駅まで! 大急ぎで!」


 するとタクシーは、タイヤを空転させて急発進する。


「直ぐに警察へ手配が回るから、君はこのまま駅で電車に乗るんだ。電車で未来へ来たのなら、同じ手段で元の世界へも帰れるはずだよ」


「ミクはどうするんだ?」


「ボクなら大丈夫さ。あくまでも今回の警報は君に対するものだから」


「何故、大丈夫だと言い切れる?」


「それはボクが、あそこの関係者だからさ」


 そうか、だから自由に入れたし、非常扉も自由に開けられたんだ。


 言われて納得するが、僕を手引きしたのも彼女だ、その辺りは大丈夫なのだろうか。


「しかし君は、僕の侵入をを手引きした事になるよ」


「その辺りのペナルティーは覚悟の上さ。尤も、僕達を侵入者から守るためのシステムが、君の素性を洗い出すのに時間を掛けすぎたんだ。僕の事だけを責められないはずさ」


 気にするなと、ひらひらと手を振りながら答える。


「それよりも、まもなく到着するよ」


 その言葉でフロントガラスへ目を向けると、そこに映し出された景色が、見覚えのあるものへと変わる。


 最初にミクと出会った、駅前のロータリーだった。


 目的地を目の前に、安堵の息を吐いたその瞬間、タクシー内で警報が鳴り響き、全てのコンソールが赤色で表示される。


「どうしたんだ?」


 不安が襲い、思わずミクに尋ねる。


 すると彼女は、事実を淡々と告げる。


「この車が逃亡車両だと特定して、ハッキングを掛けてきたんだろうね」


 降りようとドアノブを引いてみるが、ロックが掛かっていて開く気配は無い。


「ドアも開かなくなってる」


「そうだろうね。じゃあ、こうしてみようか。――――アルファ、キロ、インディー、ホテル、インディー、ロメオ、オスカー」


 すると、タクシーのコンソールが赤から緑へ変わる。そしてドアノブを引いてみると、先程開かなかったのが嘘だったかの様にあっさりと開いた。


「さっきも使っていたが、一体何なんだそれは?」


「フフフ、ボクだけの秘密の呪文さ。じゃあ僕はこれで逃げるから、君は電車に乗って、一刻も早くこの場から去るんだ。じゃあね」


 彼女は最後に片手を上げて挨拶すると、ドアを閉めてタクシーと共に夜の帳へと消えていった。


「一体彼女は、何者だったんだろうな?」


 しばらく彼女が乗るタクシーを見送っていたが、直ぐにサイレンの音と赤色灯の赤い光が目に付いたので、慌てて駅舎へと駆け込んだ。


 そして電車の止まっているホームまで、駅の跨線橋を駆け上がって駆け下りると、電車の車内へ飛び込む。


 しかしまだ電車が発車する気配は無い。


 そうこうしている内に、警察BOTがホームまで押し寄せて来た。


 慌てて電車を降りて逃げようとしたが、電車から出る前に、ホームにいる警察BOTの様子がおかしい事に気付いた。


 まるでエラーが出たロボットのように、ホームで右往左往しているのだ。


 それを注意深く眺めていると、ドアチャイムの音がしてドアが閉まる。


 そして小気味良いインバータ音を響かせて、電車がホームから離れた。


 今度こそ一安心して、座席へ座り込む。


 緊張から解き放たれて、これまでの疲労が一気に吹き出したのか、瞼を閉じると、そのまま深い眠りについた。

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