-----3-----

 ショッピングモールの前へ到着すると、タクシーを降りて辺りを見回す。


 正直な所、未来と言われても実感が無い。


 元の世界とソックリ同じこの街に、未来的な要素を寸分も感じられなかったからだ。


 流石にもう閉店なのか、どの店もシャッターが降りている。


 タクシーで通り掛かった時は気付かなかったが、ちゃんと店員も居るらしく、今は中では後片付けをしていた。


 もうこの時間以降で開いている店と言えば、居酒屋かバー、或いはファストフードやファミレス、コンビニと言った店だけだろう。


 酒が飲めない僕としては、先ずバーが候補から消える。


 ギリギリ居酒屋はOKだが、二十四時間営業じゃ無いので、閉店時間には追い出されてしまう。


 コンビニは二十四時間営業だが、居座る事は不可能なので除外。


 インターネットカフェや漫画喫茶があれば良いのだが、生憎この界隈には無いので、残るは某大手のハンバーガーショップか、ファミレスしか無い。


 取り敢えず落ち着いて座る事の出来る、ファミレスへ入る事にした。


 店内に他の客は一人も居らず、二人のウエイトレスが居るだけだった。


 それにしても双子なのだろうか? そのウエイトレスは頭の天辺からつま先まで、全くと言って良いほど同じに見えた。


 その内の一人が近付いて、人数を尋ねてきたので、二人と答える。


 するとそのウエイトレスは、そのまま席まで案内してくれた。


 席へ座り取り敢えずコーヒーを注文すると、立ち去るウエイトレスを眺めながら、思わず疑問を口にする。


「あのウエイトレス達、双子かな? 恐ろしいほどソックリだけど」


 ミクは笑いながら、それに答える。


「あはは、それは似てて当たり前さ。同じ物なんだから」


「同じ・・・物?」


「そう、物だよ。あれは労働BOTボットの一種さ。要するに労働をさせる為の機械人形、アンドロイドの事だね。・・・・・・多分S社製じゃないかな? 他の店舗で作業していたのも、交番で勤務していたお巡りさんも、全てそうだよ」


「あれがBOT? 人間にしか見えないが?」


「そうだよ。特に接待用はああして置かないと、外国から訪れた人はビックリするからね。各メーカーは開発にしのぎを削っているよ」


「鎬を削る? そんなに多くの企業が参入しているのか?」


「うん、そうだよ。この国だけでもM重工、H製作所、K重工の他に、今言ったS社やP社にT社やF社と言った電器産業系の会社も顔を出してるよ。重工系は産業用だけじゃ無く、自衛隊や警察用なんかも作っているし、電器産業系は接待用や個人のアバター用と言った一般消費者向けに力を入れているよ」


「アバター用って何だよ」


 思わずツッコミを入れてしまった。


「自分の身代わりに、リアルを体験してくれるBOTの事さ」


「それに、何か意味があるのか?」


「人は、いつの時代もスリルを求めるのさ。もしBOTなら、危険や痛い目に遭ってもBOTが壊れるだけで、修理や買い換えさえすればOKだもの、安心して喧嘩や撃ち合い、危険な場所への冒険を出来るって寸法さ」


 確かに怪我や命の心配が無いのは良い。が、だからと言って実体験をアバター用BOTでするのは本末転倒だろう。


 それなら、ヴァーチャルの体験だけで充分のはずだ。


 だが、彼女が言った事は、このまま黙って聞き流す事は出来ない。場合によっては命に関わる事だからだ。


「これまでは、一度も見なかったけど、いきなりストリートファイトが始まったり、実弾を使った陣取り合戦が始まったりしないよな?」


 彼女の言い草を真に受けるなら、BOTを使って実戦形式のゲームをしている様に聞こえたからだ。


「この区画は大丈夫だよ。基本的に観光以外のアバター用BOTは立ち入る事が出来ないし、万が一にも、ここで刃傷沙汰を起こせば、アバターの使用免許を剥奪されるだけじゃ無く、重罪を課せられるからね」


 一応アバターの使用にも、免許が要るらしい。


「ただし、ここと違って、フリー区画はかなり危険だよ」


「フリー区画?」


「一定のルールさえ守れば、後は何をしても良い区画さ。勿論、生身の体でそこへ行くのはお薦めしないよ」


「なるほど、そこの区画で、BOT同士のバトルロイヤルが行われているワケだな」


「そういう事。さっき案内した君の家があった場所は、ギリギリフリー区画に入っていたんだよ。銃声が聞こえた時は、ヒヤッとしたね」


「銃声? あの『カタカタ』という音が?」


「そうだよ」


 背筋に冷たいモノが走る。


 道理で、彼女が落ち着きを無くしていたワケだ。


 身代わりのBOTならいざ知らず、一つしか無い命の生身で、そこへ立ち入るのは無謀も良い所だろう。


 そう言えば、ここに辿り着いて以来、彼女以外の人間を、まだ一人も見ていない。


 一応念のため、確認してみる事にした。


「街で働いているのは、殆どBOTだと言う事は理解した。じゃあ教えて欲しい。無数のアバターBOTで運営しているこの街は、一体何の為にあるんだ」


「町並み保存を兼ねた観光施設。言ってみれば、等身大の箱庭だね。勿論この街の住人自身は、箱庭には用が無いから、来る事など殆ど無いよ。万が一トラブルがあっても、遠隔操作のBOTで、全ての処理を行えるからね」


 この街に生身で訪れるのは観光客だけで、その人々にサービスを提供しているのはBOT達だけだと言う。


 勿論、フリー区画でドンパチしているのもBOTだけだろう。


 なら、それらのBOT達を操る住人達は?


「じゃあ、BOTを遠隔操作している住民達は、一体全体どこに居るんだ?」


「みんなは居住区画で生活しているよ」


 人が居住する為の区画は、別にあるらしい。


 今の所、この街の情報は彼女からの物だけだ。


 比較する物が無い以上、彼女の言う事が本当なのかどうか判断出来ない。


 出来ればほかの住民からも、情報を集めたい所だ。


「じゃあそこへ案内してくれ」


 途端にミクの顔が曇る。


「人のプライベートを覗きに行くなんて、余り良い趣味じゃ無いよ」


「覗きに行くつもりは無いが? 僕はただ単に、君以外の人と話したいだけだ」


「いや、ね・・・・・・。訪ねる事自身、プライベートを覗くのと同じだし、話す事も出来ないと思うよ」


「兎に角、家まで連れて行ってくれ! 交渉は僕がするから!」


「う~ん・・・・・・分かったよ。兎に角、支障の無さそうな相手を選ぶ事にするよ」


 ミクはそう言って折れると、ファミレスの外に出てカードを天に翳す。


 すると、タクシーがやってきて彼女の前に止まり、後部座席のドアが開く。


「じゃあ乗って」


 先に僕へ乗車を勧め、そして僕が乗り込むと、彼女も後に続いて乗車した。


「デルタ・ファイフ、ノヴェンバー・ナイナー・ナイナー」


 そしてフォネティック・コードらしき物を使って、タクシーに行き先を告げると、タクシーはそれを理解して目的地へ向けて動き始めた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る