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ショッピングモールの前へ到着すると、タクシーを降りて辺りを見回す。
正直な所、未来と言われても実感が無い。
元の世界とソックリ同じこの街に、未来的な要素を寸分も感じられなかったからだ。
流石にもう閉店なのか、どの店もシャッターが降りている。
タクシーで通り掛かった時は気付かなかったが、ちゃんと店員も居るらしく、今は中では後片付けをしていた。
もうこの時間以降で開いている店と言えば、居酒屋かバー、或いはファストフードやファミレス、コンビニと言った店だけだろう。
酒が飲めない僕としては、先ずバーが候補から消える。
ギリギリ居酒屋はOKだが、二十四時間営業じゃ無いので、閉店時間には追い出されてしまう。
コンビニは二十四時間営業だが、居座る事は不可能なので除外。
インターネットカフェや漫画喫茶があれば良いのだが、生憎この界隈には無いので、残るは某大手のハンバーガーショップか、ファミレスしか無い。
取り敢えず落ち着いて座る事の出来る、ファミレスへ入る事にした。
店内に他の客は一人も居らず、二人のウエイトレスが居るだけだった。
それにしても双子なのだろうか? そのウエイトレスは頭の天辺からつま先まで、全くと言って良いほど同じに見えた。
その内の一人が近付いて、人数を尋ねてきたので、二人と答える。
するとそのウエイトレスは、そのまま席まで案内してくれた。
席へ座り取り敢えずコーヒーを注文すると、立ち去るウエイトレスを眺めながら、思わず疑問を口にする。
「あのウエイトレス達、双子かな? 恐ろしいほどソックリだけど」
ミクは笑いながら、それに答える。
「あはは、それは似てて当たり前さ。同じ物なんだから」
「同じ・・・物?」
「そう、物だよ。あれは労働
「あれがBOT? 人間にしか見えないが?」
「そうだよ。特に接待用はああして置かないと、外国から訪れた人はビックリするからね。各メーカーは開発に
「鎬を削る? そんなに多くの企業が参入しているのか?」
「うん、そうだよ。この国だけでもM重工、H製作所、K重工の他に、今言ったS社やP社にT社やF社と言った電器産業系の会社も顔を出してるよ。重工系は産業用だけじゃ無く、自衛隊や警察用なんかも作っているし、電器産業系は接待用や個人のアバター用と言った一般消費者向けに力を入れているよ」
「アバター用って何だよ」
思わずツッコミを入れてしまった。
「自分の身代わりに、リアルを体験してくれるBOTの事さ」
「それに、何か意味があるのか?」
「人は、いつの時代もスリルを求めるのさ。もしBOTなら、危険や痛い目に遭ってもBOTが壊れるだけで、修理や買い換えさえすればOKだもの、安心して喧嘩や撃ち合い、危険な場所への冒険を出来るって寸法さ」
確かに怪我や命の心配が無いのは良い。が、だからと言って実体験をアバター用BOTでするのは本末転倒だろう。
それなら、ヴァーチャルの体験だけで充分のはずだ。
だが、彼女が言った事は、このまま黙って聞き流す事は出来ない。場合によっては命に関わる事だからだ。
「これまでは、一度も見なかったけど、いきなりストリートファイトが始まったり、実弾を使った陣取り合戦が始まったりしないよな?」
彼女の言い草を真に受けるなら、BOTを使って実戦形式のゲームをしている様に聞こえたからだ。
「この区画は大丈夫だよ。基本的に観光以外のアバター用BOTは立ち入る事が出来ないし、万が一にも、ここで刃傷沙汰を起こせば、アバターの使用免許を剥奪されるだけじゃ無く、重罪を課せられるからね」
一応アバターの使用にも、免許が要るらしい。
「ただし、ここと違って、フリー区画はかなり危険だよ」
「フリー区画?」
「一定のルールさえ守れば、後は何をしても良い区画さ。勿論、生身の体でそこへ行くのはお薦めしないよ」
「なるほど、そこの区画で、BOT同士のバトルロイヤルが行われているワケだな」
「そういう事。さっき案内した君の家があった場所は、ギリギリフリー区画に入っていたんだよ。銃声が聞こえた時は、ヒヤッとしたね」
「銃声? あの『カタカタ』という音が?」
「そうだよ」
背筋に冷たいモノが走る。
道理で、彼女が落ち着きを無くしていたワケだ。
身代わりのBOTならいざ知らず、一つしか無い命の生身で、そこへ立ち入るのは無謀も良い所だろう。
そう言えば、ここに辿り着いて以来、彼女以外の人間を、まだ一人も見ていない。
一応念のため、確認してみる事にした。
「街で働いているのは、殆どBOTだと言う事は理解した。じゃあ教えて欲しい。無数のアバターBOTで運営しているこの街は、一体何の為にあるんだ」
「町並み保存を兼ねた観光施設。言ってみれば、等身大の箱庭だね。勿論この街の住人自身は、箱庭には用が無いから、来る事など殆ど無いよ。万が一トラブルがあっても、遠隔操作のBOTで、全ての処理を行えるからね」
この街に生身で訪れるのは観光客だけで、その人々にサービスを提供しているのはBOT達だけだと言う。
勿論、フリー区画でドンパチしているのもBOTだけだろう。
なら、それらのBOT達を操る住人達は?
「じゃあ、BOTを遠隔操作している住民達は、一体全体どこに居るんだ?」
「みんなは居住区画で生活しているよ」
人が居住する為の区画は、別にあるらしい。
今の所、この街の情報は彼女からの物だけだ。
比較する物が無い以上、彼女の言う事が本当なのかどうか判断出来ない。
出来れば
「じゃあそこへ案内してくれ」
途端にミクの顔が曇る。
「人のプライベートを覗きに行くなんて、余り良い趣味じゃ無いよ」
「覗きに行くつもりは無いが? 僕はただ単に、君以外の人と話したいだけだ」
「いや、ね・・・・・・。訪ねる事自身、プライベートを覗くのと同じだし、話す事も出来ないと思うよ」
「兎に角、家まで連れて行ってくれ! 交渉は僕がするから!」
「う~ん・・・・・・分かったよ。兎に角、支障の無さそうな相手を選ぶ事にするよ」
ミクはそう言って折れると、ファミレスの外に出てカードを天に翳す。
すると、タクシーがやってきて彼女の前に止まり、後部座席のドアが開く。
「じゃあ乗って」
先に僕へ乗車を勧め、そして僕が乗り込むと、彼女も後に続いて乗車した。
「デルタ・ファイフ、ノヴェンバー・ナイナー・ナイナー」
そしてフォネティック・コードらしき物を使って、タクシーに行き先を告げると、タクシーはそれを理解して目的地へ向けて動き始めた
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