第137話 才能の片鱗

「あの〜、公爵様〜」

「何かな?」

「随分早かったですけど〜、国王様とかにお話とかしてきたのですか〜?」


帰りの馬車の中で、ローリエを膝に乗せていると、向かいの席からそんな事を尋ねてくるアカリ。


ぼんやりしてるように見えるけど、何気に鋭い所もあるみたいだ。


「まあね、直接報告を今すぐしてもあまり意味は無いからね」


この国のパワーバランスを考えると、国に報告しても素早い対処は望めないし、俺から報告は後日でも問題ない。


というか、国には無論力を借りるけど、それは今すぐではない。


今回の件、俺が早めに手を打った方が恐らく手早く済むだろうし、俺としてもこんな件で時間を取られるのは嫌なので自分で早急な解決に乗り出すのが最短だろう。


そう思ってるので、去り際に王女様には上手いこと国王陛下のコントロールを任せておいた。


無茶ぶりのようだけど、何気にセレナ様は独自のネットワークやコネもあるし、娘として父親にあれこれ意見を出すこともあるようなのでこういう時は凄く便利だ。


というか、あの人は転生前は何をしてたのやら……まあ、深くは聞かないけどね。


やぶ蛇になるのも嫌だし、そこまで興味もないから。


「そうなんですか〜、公爵様がそう言うならきっと大丈夫ですね〜」

「はい、お父様は凄いですから」

「ですね〜、ローリエ様のお父様は本当に凄いお方ですね〜」

「そうなの!お父様はね――」


ウキウキしながら、口調を崩して、ローリエが俺の事を嬉しそうにアカリに語る。


人前では、淑女としていつも凛とするのを意識してるローリエが俺の事を楽しそうに話す姿は、とても愛らしいけど、同時にローリエの心を解きほぐすように的確に話をするアカリにも驚かされる。


人の心に入り込むのが上手いというか、真似できそうもない謎のコミュ力があるみたいだ。


「お菓子ですか〜?」

「ええ、お父様は凄くお菓子作りが上手なの」

「ほぇ〜、それは凄いですね〜、私も食べてみたいです〜」

「なら、帰ったら作ろうか。ローリエも食べるよね?」

「はい!」


お菓子作りする暇があるのかと問われるとなんとも言えないけど、その分遅くまで働けば帳尻はあう。


早急に手を打つにしても、その前に大切な家族にウエイトを置くことは何よりも大切なのでその辺は間違えないようにしないと。


そう思いながら、膝の上のローリエといつの間にか俺の隣に座ったアカリは楽しげに話すけど、ウキウキな様子のローリエが可愛いので優しく見守ることに徹した。


あれだね、この子ならローリエの話し相手として申し分無さそうだし悪くない出会いだったかもしれないなぁと思ったのだけど、口にはしない。


言う必要もないしね。





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