第102話 言葉を発した日

「ゆいー」


それは、ミントとバジルが生まれてから一年が経とうとしていた時だった。すでにつかまり立ちをマスターして活発になっている時、たまたま居合わせたのだが、侍女のユリーに確保されてからユリーを見ながら発したのがその言葉だった。隣でミントの世話をしていたレイナも聞いていたのか驚いていたので、俺はレイナを見て思わず聞いていた。


「もしかして、今バジル喋ったのか?」

「みたいですね」

「しかもユリーの名前を最初に言うとは……」

「まあ、この一年で一番バジル様のお側にいたのがユリーですから」


そう、ユリーがこの一年、バジルの面倒を率先して見てほとんどの時間をバジルに費やしていたことは知ってるがそれでも最初に名前を呼ぶ相手がユリーなのは少しだけ親としては悔しくはある。まあ、それでもここに今はいないが定期的に来るようになった母上が最初でないだけマシかもしれない。


「ゆいー」

「……はい。バジル様」


にぱーと、笑うバジルにユリーは乏しい表情ながらも嬉しそうに微笑んだ。


「……ありがとうございます。バジル様。凄く嬉しいです」

「ゆいー、ゆいー」

「……はい。バジル様」


なにやら二人だけの空間が形成されていることに思わず驚いてしまっていると、こっそりとレイナが教えてくれた。


「ユリーはああ見えて可愛いものが大好きなんです。この屋敷に来てから、バジル様の専属侍女として勤めてから愛でる対象がバジル様に集中しているようで、この通りです」

「そうか……まあ、それはいいが、大丈夫なのかな?」

「大丈夫です。ユリーだって自分が侍女ということは理解しているはずです。おかしな真似をすれば私が止めます」

「頼りになるね。まあ、私としてはバジルが適齢期になって二人がそういう仲になるなら否定はしないがね」


ここまで溺愛されたバジルが果たしてユリーと恋仲になるかはわからないが、まあそうなったらそうなったで、仕方ない。別にバジルが選んだ人なら基本的に誰でも否定はしない。同性なら悩むけど……流石にそれはないと思いたい。俺の言葉に少しだけ驚く様子を見せたレイナに俺は話を変えるために聞いた。


「ところで、最近はどうなの?」

「どうとは?」

「ミゲルとの仲だよ。進んでる?」

「そ、それはあんまり……」

「そうか。まあ、焦らずじっくりやるといい。応援してるよ」


そう言ってから俺はミントを抱っこしてから、可愛い娘の相手をする。バジルはユリーに取られてしまったので、ミントだけは可愛がろうと思い抱っこするとミントは嬉しそうに笑って言った。


「ぱ、ぱ」

「……レイナ。聞き間違いかな?パパと聞こえたような気がするが」

「気のせいではありませんよ。カリス様。ミント様がきちんと言葉を発しました」

「そうか……ありがとう、ミント」

「あうー」


やっぱり出てくる言葉は感謝しかないのは仕方ないことだろう。こうして子供達は少しずつ大きく成長していくのだった。







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