第48話 三つの本題
「さて……セレナ、セリュー。良ければローリエ嬢を連れて庭園を案内しなさい」
しばらくしてから陛下はそう言った。本題に入るのだろう。俺はその言葉にローリエの方を向いて微笑みながら言った。
「ローリエ。ここの庭園は綺麗だから見てくるといいよ」
「おとうさまは?」
「一緒に行きたいけど、私は陛下とお話があるからね。セレナ様とセリュー様に色々と教わるといいよ」
「わかりました!」
そう言ってから3人は元気よく離れていく。俺は娘を笑顔で送ってから陛下に視線を向けて言った。
「さて……陛下。今回このお茶会に招待した目的を聞いてもよろしいですか?」
「ふむ、そうだな」
そう言ってから陛下は表情を少し引き締めて言った。
「今回貴公を呼んだのには理由がある。一つ目は我が国の内部調査だ」
「内部調査?」
「ああ、極秘裏に頼みたい」
おそらく俺に頼むということは貴族間での内部調査なのだろう。しかし極秘裏にとは……
ちらりと俺は周りを見渡してから陛下に聞いた。
「何故私に?他にも陛下の信頼厚き者は多いでしょう」
「一つには貴公の爵位と交友の幅の広さによるものが大きい。だが……一番の理由は貴公以外に信用出来ない状況だからだ」
「……陛下は何か掴んでらっしゃるんですね?」
「ああ。私の独自の情報が確かなら宰相であるグリーン公爵が他国に内通している可能性が高い」
その言葉に俺はため息をつきそうになる。まさかのこの国の宰相が裏切りとは……
「奴はいずれ時がくれば切り捨てればよい。問題は奴以外の者が他国に内通していないかどうかということと、奴の後釜だ」
「それで内部調査ですか。しかし私を信用してもよろしいのですか?その理屈でいけば私も怪しいでしょう」
「うむ、だが今日の貴公の様子とここ最近の評判を鑑みての決定だ。わざわざ貴公の奥方とローリエ嬢に来てもらったのもそのためだ」
なるほど……ローリエとサーシャを呼んだのは俺の普段の様子を見たいからか。ここ最近おそらくローリエからセレナ様経由で入ってくる情報が本当かどうかを見極めた上で陛下はそう判断したのだろう。まあ、確かにローリエとサーシャが害されない限り俺はなるべくこの国に友好的ではあるつもりだが……
「二つ目の要件は貴公に次の宰相を頼みたいのだ」
「私にですか?流石にそれは……」
面倒すぎるので控えにそう言うと陛下は何を勘違いしたのか頷いて言った。
「貴公の言いたいことはわかる。確かにフォール公爵家にこれ以上王族との繋がりを作るのは他の貴族からの反発があるかもしれない。だが、貴公以外に適任者がいないのだ」
「陛下……私の能力を評価していただけるのはとても光栄ですが、それはとても過分な評価です」
「謙遜するな。貴公のここ半年の実績は私としても高く評価しているのだ」
ここ半年?もしかして俺がカリスさんになってからの領地の管理やら国の仕事に関する評価なのかな?確かにカリスさんとは違うやり方でやっているが……そんな変わったのかな?
まあ、カリスさんの頃の杜撰な管理から徹底したものに変えて、スラムをなくして働き口を増やして、孤児院への寄付に、町の整備にお金をかけて、それらを増税せずに上手くまわしてやっているが……そこまで変わったことはしてないはずだ。
俺が黙っていると陛下は苦笑気味に続けた。
「まあ、この件は後々ゆっくり決めてくれればいい。最後に貴公……というか、ローリエ嬢に縁談を申し込みたいと思ってな」
「お相手はセリュー様ですか?」
「ああ。内々的にだがすでにセリューは王太子に決定している。その婚約者にローリエ嬢をと思ってな」
やはりそういう目論見があったか。だからローリエやサーシャを連れて来いと書いてあったのか。俺は一口お茶を飲んでからなるべく冷静に言った。
「ローリエはまだ5つになったばかりです。婚約をするには早いと思いますが?」
「だがいずれは婚約者を決めるべきだろう?」
「そうは言っても相手は王太子です。これから娘に過酷な王妃教育を強いるのは私の好むところではありません」
そう言ってから俺は隣で心配そうにこちらを見ているサーシャに微笑んでから陛下に言った。
「陛下。光栄なお話ですが、私が何より望むのは家族の幸せです。なので娘が自分の意思で心から愛しく思う人が出来るまで、私は娘を守るつもりです」
そう言うと陛下はニヤリと笑って言った。
「なら、ローリエ嬢がセリューを好きになればいいんだな?」
「本人の意思なら反対はしません。ただ周りが強制したりするのはダメです。私は娘を政略結婚させるつもりはありませんから」
陛下はその言葉に愉快そうに笑いながら言った。
「なら、今回は諦めよう。だが、ローリエ嬢がセリューの婚約者候補なのは変わらないからな。いずれ正式に縁談を申し込むつもりだが、その時までにセリューがローリエ嬢を落とすだろうから楽しみにしておくといい」
「そうなれば大人しく従いましょう。私が望むのは家族の幸せですから」
厄介な仕事を押し付けられてあまつさえローリエの縁談を持ってきた陛下にため息をつきつつそう答えたのだった。
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